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背負う想い

 惑星モルダバイトに到着したので今回の護衛任務は完了だ。

 当然ながら帰路にも危険が孕んでいるが、それぞれの貨物船は別個に運送依頼を受けたり、空荷で帰ったりと出航時期もバラバラで、護衛が必要な場合は改めて個別に依頼を出す必要があり、アイラやレグは帰路の護衛依頼を受けているらしい。


 シンノスケ達はというと、先ずはレイヤード商会との商談があるのでそちらを優先することとし、帰路については商談後に考えることにする。


 今回の商談も生半可なことではない。

 レイヤードはどこまでも誠実な男であるが、それは人間としての誠実さではなく、商人としての誠実さだ。

 自分自身でなく、自分の商会としての利益と取引相手の利益を天秤にかけ、砂粒1つ程のバランスを保ちながら自らの商会が有利になるようにことを運ぶ。

 それでありながら取引相手にも利益をもたらし、良き関係を築く。

 そして、そのためには極めて冷徹に、狡猾なりきる男だ。

 シンノスケ自身、幾度もレイヤードとの取引を繰り返してきて、その都度多くの利益を得てきたが、結果としては毎回レイヤードに手玉に取られてきた。


 今回も一筋縄ではいかないと覚悟を決めて商談に及んだのだが・・・。


「あれ?レイヤードさんは?」


 シンノスケの目の前に現れたのはレイヤード商会のモルダバイトのマネージャーを名乗る男。

 レイヤードの秘書のステラと同型のM-028TX型ドールを連れている。


「この情勢下で会長も多忙を極めておりまして、今回は私がカシムラ様との商談を担当させていただきます」


 そうして示されたレアメタルの買取額はシンノスケが想定していた最低額と最高額の中間よりもやや下という金額だ。

 レイヤード商会でマネージャーを務めるのだから目の前の男も相当なやり手なのだろう。

 シンノスケを見る目にも余裕が見て取れる。


 交渉次第で買取額の増額も見込めるだろうが、それもこれも相手の想定の範囲内なのだろう。

 完全に手の内を読まれたシンノスケだが、今回は面倒な交渉を避けて相手が提示した額で契約することにした。

 隣に座っているミリーナが不満顔でシンノスケを見ているが、シンノスケとしては今回は敢えて敗北とも見える選択をしたのである。


 拍子抜けする程に短時間で、スムーズに商談を終えたシンノスケはヤタガラスが停泊している港までの海岸線を海を眺めながら歩くが、ミリーナがご機嫌斜めなので、帰る道すがらにテラスが海にせり出した雰囲気の良い店を見つけたのでちょっと寄り道をして、お茶にすることにした。


「シンノスケ様。貴方も一介の自由商人ですのよ。相手に足元を見られたまま契約するなんて、どうしてしまいましたの?」


 ミリーナは出された紅茶を一口飲むと、折角の景色を楽しむでもなくジト目でシンノスケを見上げた。


「ダムラ星団公国はまだまだ不安定だからな、今回はこれでいいんだよ。交渉事というのは次回に繋げることができればそれでいいんだ。それに、俺としては商売にはあまり欲をかかないように心がけているんだよ」

「シンノスケ様らしいといえばらしいですが、自由商人らしからぬ心得だと思いますわ」

「損さえしなければ商売は上々だよ。それに、レイヤードが出て来なかった今回の商談、これはレイヤード商会との関係が一歩前に進んだと見ているんだが・・・」

「どういうことですの?」

「戦時の混乱で自由に動けないというのもあるだろう。それでも商売のためならレイヤードは多少の危険は承知の上で前面に出てきた筈だ。そのレイヤードが我々との商談を部下に任せたというのは、ある程度の信用を得て、会長自らが出る必要も無くなった。のではないかと思う」


 シンノスケの言葉を聞いたミリーナは少しばかり呆れ顔を見せる。


「随分と楽観的ですのね。・・・でも、まあ確かにそうかもしれませんわね」


 ミリーナはため息をつきながらふと思い出したかのようにシンノスケを見直した。


「ところでシンノスケ様、話は変わりますけど、セラのことでお話がありますの」

「セラの?」

「ええ。今回の仕事こと、セラはさぞかしショックだったと思いますわ」

「まあ、そうだろうな。でも、これはセラが乗り越えなければならないことだし、セラならば乗り越えられるさ」


 シンノスケの目をじっと見たミリーナは頷く。


「シンノスケ様はセラのことを優秀なクルーの1人として、一人前の船乗りとして扱っていますわ。これはセラが成長するのに大切なことですけど、セラはまだ十代の女の子ですのよ。たまには年相応の女の子らしく優しくしてあげることも必要なんじゃありません?」


 ミリーナの言わんとすることは理解できる。


「確かにそうだが、それを俺に求めるのはな・・・」


 理解できるが、実践できるかどうかは別の話だ。


「まあ、シンノスケ様に求めるのは間違いですわね。・・・まあ、いいですわ。それについては私の方でフォローして差し上げますわ」

「すまないな」

「これで1つ貸しですのよ」

 

 ミリーナは悪戯っぽく笑った。



 レイヤード商会との商談やその後の諸々の手続きを終え、出航を明日に控えた夜。

 ヤタガラスが係留されている桟橋でシンノスケが何気なく夜空を眺めていたところ、ヤタガラスからセイラが降りてきてシンノスケに駆け寄ってきた。


「シンノスケさん、ちょっといいですか?」

「ん?何だ?」


 セイラの表情はどこかすっきりしているように見える。


「私なりに考えて答えを出したのですけど、それをシンノスケさんに聞いて欲しくて・・・」

「セラが考えた上で出した答えなら問題ないと思うけど、聞くだけならば構わないぞ」


 セラはシンノスケの横に立ち、一緒に夜空を見上げた。


「私、今まで多くの人々と関わり合いを持って、いろんなことを教わってここまで成長することができました。凄いですよね、シンノスケさんやマークスさん、ミリーナさん達だけじゃない、オリオンや他の船の皆さん、直接会ったことのない、通信で話しただけの船乗りの人達や、私達と戦って、宇宙に散った人達からも、本当に沢山のことを学びました」


 真面目で優しいセイラらしい考えだ。


「立派な考えじゃないか」


 シンノスケの言葉にセイラは首を振る。


「そんなことありません。本来なら散っていった皆さんの意志を引き継ぐ、なんて言えればいいんですけど、正直言って私には背負いきれません。それに、宇宙海賊の人達の意志を引き継いじゃダメですしね」

「それは確かにそうだ」

「だから、私は皆さんのことを覚えておこうって。『オリオンの優しい船長さんがいたな』とか『あんな凶悪で厄介な海賊がいたな』みたいに覚えておこうって決めたんです。これから先、長い人生でもっと多くの人達と関わっていくと思うんですけど大丈夫です、記憶力には自信がありますから、皆さんのことを忘れずに覚えていきます」

「全くもってセラらしいな」

「はい。そして、もっともっと勉強して、立派な船乗りになります!」


 シンノスケは頷く。


「期待しているよ。俺にもしものことがあれば俺のことも覚えておいてくれよ」


 シンノスケのたちの悪い軽口を聞いてセイラはシンノスケを睨みつける。


「駄目ですよ!冗談でもそんなこと言っちゃ。特にシンノスケさんはそういった発言には気をつけてください!それに、シンノスケにもしものことがあるならば、同じ船に乗っている私も一緒にもしもの時なんですからね!」


 セイラに叱られたシンノスケは思わず苦笑した。

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ははは、そりゃそうだ。
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