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惑星軌道上の戦い

「前線の視察に来てみれば、つまらないことが起きているわね。で、仕留められたのはたったの1隻?」


 白薔薇艦隊旗艦、ホワイト・ローズの指揮席でつまらなそうに呟くエザリア。


「はい。生憎と本艦の主砲の有効射程ギリギリでしたので、貨物船はともかく、護衛艦のエネルギーシールドだと貫くのは難しいかと・・・」


 指揮席の横に立つ副官である大佐の言葉を聞きながらため息をつく。


「仕方ないですね。でも、このまま見逃すというのも面白くないわ・・・。我が艦隊の本隊はまだ?」

「はい、あと3時間程かと」

「ハァ、私の艦隊は重武装艦が揃っているけど、足が遅いのが難点ね・・・」


 そう言いながらふとレーダーのモニターを見たエザリアが笑みを浮かべた。


「そうだ、彼等に任せましょう」


 エザリアの視線の先、レーダーモニターには船団を追撃してきた艦隊。

 とはいえ、軌道防衛システムの射程外で追撃の足を止めている。


「第88駆逐艦隊ですか?しかし、このまま追撃させると軌道防衛システムの集中砲火を浴びることになります」


 副官の言葉に首を傾げるエザリア。


「それが何か問題?彼等も民間の船団を取り逃がしたとあっては面子も丸潰れでしょう。汚名返上の好機と考える筈よ。・・・そうだ、彼等の突入に合わせて援護射撃で進路上の衛星砲台を2、3基破壊してあげればいいわ」

「しかし、2、3基破壊したとしても、軌道上にはまだ多数の衛星砲台があります。援護の効果は薄く、直ぐにその穴は埋められてしまいます」

「それでも2、30隻は突破して船団の後尾に食いつけるでしょう。むしろ、民間船団に逃げられた挙げ句に、そんなことも出来ないなら彼等には戦力としての価値は無いということよ。私が直接伝えるわ。あの艦隊全艦に映像付きで通信を繋ぎなさい」

「了解しました」


 エザリアは額の目を開き、モニターの先の兵士達を見据える。


「第88駆逐艦隊に命じます。直ちに惑星モルダバイトに肉迫し、自分達の役割を果たしなさい。私は貴方達の失われた価値を自分達で取り戻す機会を与えます。民間船団に翻弄されたという神聖リムリア帝国軍人としての恥は自らの手で濯ぎなさい。私の言葉は神聖リムリア帝国皇帝エルラン・アル・リムリアの命と知りなさい」


 エザリアの命令を受けた駆逐艦隊は突撃を開始した。

 無秩序に見える突撃により軌道防衛システムの猛攻を受けて大損害を受けるも、白薔薇艦隊の僅かばかりの援護を受けながら砲撃を掻い潜った25隻が軌道防衛システムを突破し、モルダバイトの大気圏内降下に入ろうとしていた船団の後尾に追いついた。



「敵艦隊、一斉に追撃を再開。防衛システムの迎撃により半数近くの損害を受けるも突破してきました。・・・直ぐに追いつかれますわ!」


 ミリーナの報告にシンノスケも眉をひそめる。

 損害をものともしない単純なる正面突破。

 その狂信的ともいえる無謀な策はとてもではないが正規軍の艦隊が採る策だとは考えられず、正常な判断力を失っているようにすら見える。

 しかし、既に船団の一部は大気圏突入のシークエンスに入っており、そこを攻撃されるのは致命的だ。


「無茶苦茶だ!やむを得ない、迎撃するぞ!クーロンは損傷したロードランナーをエスコートして離脱してくれ」

『こちらクーロン、了解した!』


 この状況で護衛艦1隻を離脱させるのは痛いが、損傷した貨物船ロードランナーは大気圏内降下をすることは不可能で、護衛対象を見捨てるわけにもいかない。

 護衛艦クーロンと貨物船ロードランナーは船団から離れて惑星の反対側にある軌道ステーションに向かった。


「敵艦隊、間もなく本艦の主砲の射程に入ります」


 ミリーナの報告を聞いたシンノスケはヤタガラスを回頭させる。


「マークスに武装の操作を任せる。効率よく、効果的に敵を攻撃しろ」

「了解しました」

「シンノスケ様、白薔薇艦隊からの長距離砲撃!目標、本艦」


 ミリーナの予知を聞いたシンノスケは即座に砲撃の方向にヤタガラスを正対させた。

 長距離砲撃とはいえ無視できない威力のホワイト・ローズの攻撃を正面のエネルギーシールドで受け流す。


「駆逐艦接近、主砲の指向角外のため、速射砲で対処」

「了解、艦の向きを・・」

「長距離砲撃、続けて来ます!」

「了解、現在の姿勢を維持!」


 シンノスケとマークス、ミリーナの動きに僅かなズレが生じ始めた。

 ドールであるマークスは常に適正な判断を導き出して正確に実行するし、ミリーナの予知も信頼できる。

 シンノスケはシンノスケで経験に裏打ちされた判断力と操艦技術で適確に艦を操るのだが、3人がそれぞれ正しい選択をしても、その判断が一致するとは限らないのだ。


 このままでは致命的な隙が生じてしまうかもしれない。


「あのっ、シンノスケさん。管制業務に復帰させてください!」


 声を上げたのはセイラだ。

 先ほどとは打って変わってその表情からは動揺も迷いも消えている、ように見える。


「大丈夫なのか?無理をしなくてもいいし、下手に無理をすると却って皆を危険に曝すぞ?」

「はい、大丈夫で・・だと思います。怖い気持ちはありますが、船乗りとして、現実から目を逸らせませんし、今直ぐに乗り越えなければいけないと思います」


 シンノスケは頷いた。


「分かった。ミリーナ、セラと交代だ。ミリーナは白薔薇艦隊を警戒しつつセラのバックアップをしてくれ」

「了解ですわ。ユー・ハブ・オペレーション」


 ミリーナが明け渡した航行管制・通信オペレーター席に着くセイラ。


「アイ・ハブ・オペレーション」


 ヘッドセットを装着したセイラは大きく深呼吸した。

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