船乗り達の決断
すみません、ちょっと体調不良でスマホいじってる余裕がなく、間隔が開いてしまいました。
「帝国軍の第3波、引きます!」
レーダーのパネルを操作しながら報告するセイラ。
護衛艦乗りとして経験を積み重ねたセイラは度重なる襲撃にも落ち着いて対処している。
それにしても船団がダムラ星団公国領に入り、目的地である惑星モルダバイトに近づくにつれ、神聖リムリア帝国軍の追跡と攻撃を受けるようになってきた。
これまでに3回、駆逐艦やフリゲート艦等の攻撃を受けている。
それぞれ2、3隻から10隻程度の小部隊で、どうにか捌くことができたが、民間船とはいえ、支援物資を運搬しているのは明らかなので、敵とみなされているのだろう。
それでも、神聖リムリア帝国軍も民間船を相手に大っぴらに部隊を動かすことはせず、小部隊による攻撃に留めているようだ。
「しかし、3回も攻撃を凌いだからな。そろそろ本気になられても不思議じゃないぞ」
シンノスケの睨んだとおり、いくら小部隊とはいえ、3度もコケにされては帝国軍の沽券に関わる。
目的地のモルダバイトまではあと1日程度、次の攻撃があるとすればモルダバイトの目前で、それは今までより激しいものになるだろう。
最後の攻撃以降、帝国軍も姿を現さず、一見すると順調に航行しているかのようだが、船団の誰もが油断も楽観もしていない。
進む先に自分達を待ち受ける敵が存在していることが分かっているのだ。
「レーダーに反応!神聖リムリア帝国艦船60隻が進路上に展開しています!」
いよいよだ。
惑星モルダバイトの目前に帝国軍の艦隊が布陣している
60隻という数は戦力としては少ないが、船団を攻撃するには多過ぎる。
シンノスケは全艦停止を指示した。
「・・・この宙域にたまたま展開していた艦隊、というわけではないだろうな」
「その可能性はありません。目的地である惑星モルダバイトを含め、本宙域は戦略上それ程重要ではありません。その宙域に60隻程度の小部隊とはいえ、流動警戒等でなく、定点展開する理由がありません。加えて、この広い宙域において、当該艦隊は明確に我々の進路上に展開しています。彼等の目標が我々であることは明白です」
「そうだよな・・・」
シンノスケの希望的予測を真っ向否定するマークスだが、シンノスケ自身も希望が現実になるとは考えていない。
「付近にアクネリアかダムラの艦隊は?」
レーダーを操作するセイラが首を振る。
「ありません。救難信号を発信しても駆けつけるまでに何時間掛かるか・・・」
救難信号をキャッチすればアクネリア艦隊が救援に駆けつけてくれるだろうが、それも定かではない。
シンノスケ達は危険な宙域であることを承知の上で好き好んでやってきた自由商人だ。
保護されるべき民間船であることに違いはないが、自分の商売のために自己責任の下で危険宙域に来ているのだから、場合によっては他の軍事作戦に比べて優先度が低くなることはあるし、そもそも付近に艦隊がいなければ到着までに数時間から数日を要することもあり得る。
現時点、リムリア艦隊の方から接近してくる様子はないが、黙って通してもくれないだろう。
シンノスケはセイラに命じて船団全船に通信を繋いだ。
「ヤタガラスから各船。この先の航路を神聖リムリア帝国艦隊が封鎖しています。我々を先に進ませないとする意図が明確です。このまま進めば敵艦60隻の攻撃を受けることになります。宙域を迂回する方法もありますが、彼等の狙いが我々であるとなると、それも難しいと考えます。ただ、このまま反転すれば無事に離脱出来る可能性は高い。それぞれが引き受けている仕事の遂行はできなくなりますが、安全策を取るならば、これも選択肢の1つです」
ここで無理をして撃沈されたり、拿捕されたりしたら、そもそも依頼不履行どころではない。
そのあたりを踏まえてシンノスケは提案してみた。
尤も、シンノスケ達カシムラ商会はレイヤード商会からの依頼があるので船団が引き返すという判断をしたならば、他の護衛艦に護衛任務を託し、自分達だけで進むことになるのだが。
程なくしてラングルド商会の貨物船オリオンから返信が来た。
『オリオンからヤタガラス。船団の全船はこのまま進むことを希望します。危険は承知していますが、ここで引き返しては自由商人としての信用を失います。それに、個人商人の船はともかく、我々ラングルド商会の船は目的地に商品を届ける以外の選択肢はありません。ブラック企業勤めの辛いところです・・・』
船団を代表して前進を決断しながらも自虐的に話すオリオンの船長だが、いくらラングルド商会とはいえ、貴重な船や乗組員、商品を失うことに比べれば依頼の不履行による損失の方が遥かに安い。
つまり、ここで引き返さないという選択はラングルド商会の社命というよりもオリオン船長をはじめとした貨物船の乗組員達による現場判断なのだろう。
船団の判断を薄々予想していたシンノスケは頷いた。
極めて困難な状況ではあるが、策が無いわけではない。
シンノスケはスロットルレバーに手を掛ける。
「それでは、我々は敵艦隊の中央を突破して目的地に向かいます。先ずは本艦とホーリーベルが先行。船団は10分遅れで続いてください」
ヤタガラスはホーリーベルを引き連れて前進を開始した。
「護衛艦7隻で貨物船16隻を護衛しながら60隻の敵艦隊を突破する・・・。前代未聞のことじゃないか、マークス」
「ええ、無謀ともいえる行動です。マスターの判断でなければお止めするところです」
「ということは、マークスは俺の判断を是としてくれているのか?」
「是というか、反対するだけ無駄だと判断しました。とはいえ、作戦成功率が10パーセントを下回るならばマスターといえどお止めするところですが」
「だとすると、成功率はそれなりか?」
「14.3パーセントです」
「それでも低いな・・・」
「我々にとってはいつも通りです」
そんなシンノスケとマークスのやり取りを聞いて互いに顔を見合わせるミリーナとセイラ。
「なかなかあの境地にはたどり着けませんわね」
「そうですね・・・もしかして」
((本当の意味での一番のライバルはマークス?)さん?)




