シンノスケの戦争論
ヤタガラスをはじめとした護衛艦7隻と護衛対象の貨物船16隻の合計23隻が集結した。
護衛艦は艦種も装備もバラバラ、貨物船もラングルド商会の4隻は同型船だが、その他12隻の大半は個人の自由商人の船なのでこちらも統一感がない。
それでも、23隻もの船が船団を組めば、それはそれで壮観だ。
「こんなに沢山の船が集まって、凄いですね」
「そうですわね。正に壮観というものですわね」
これほどの船団は初めての経験であるセイラとミリーナが思わず呟く。
2人共初めての経験に緊張しているようだ。
そして今、この自由商人達の船団は解放されたダムラ星団公国領に赴き、最前線に近い惑星に物資を運ぶ。
人道的支援等ではない、商取引のために危険な場所に向かうのである。
今回の護衛も他の護衛艦艦長からの要望によりシンノスケが指揮を執ることになった。
充実した乗組員と、高度な通信能力を持つヤタガラスが司令船を担うことになるのは当然のことだ。
その一方で貨物船団を取り纏めるのはラングルド商会の貨物船オリオン。
シンノスケ達とは何度も顔を合わせている馴染の船だ。
「でも、戦争って本当に大変なんですね。勝っていても最前線では一般人までが巻き込まれて、物が足りなくなってしまって。民間の支援まで必要になるなんて」
何度か戦争の最前線を駆け抜け、軍用艦艇や宇宙海賊との戦闘も経験しているセイラだが、まだ若い彼女が戦争の本質を知らずとも、それは仕方のないことだ。
「戦争なんてものは始まってしまった時点で双方の負けが確定しているものだからな。途中経過も後始末も大変なんだよ」
「?」
「双方の負けが確定って、まだ決着がついていないとはいえ、アクネリア軍が勝ちつつありますわよね?」
シンノスケの言葉にセイラとミリーナが首を傾げる。
「戦況的には確かに勝ってはいるけど、国家間の戦争としてはアクネリアも、ダムラも、神聖リムリアも負けだよ」
「すみません、シンノスケさんの言っていることが全く分かりません」
「私もですわ」
シンノスケは肩を竦めて薄い笑みを浮かべた。
「先ず、大前提として国が持つ武力、所謂軍隊というのは抑止力として存在しているんだ。『我が国には強力な軍隊があるから手を出すな!何か要求があるなら外交をもって示せ』ってね。軍隊の本来の任務は何もすることなく、ボケッとしてながら他国に睨みをきかせることだ。国家間の意見が食い違った時に基本的には外交交渉で解決すべきことだが、その交渉が決裂した時や、一方の国か、または双方がそもそも交渉するつもりがない時に外交の最終手段として武力の行使、つまり戦争が始まるというわけだ」
「『戦争は最後の外交手段』確かにそうですけど、それが双方が敗者となるのはどういう理屈ですの?」
「軍隊は抑止力と言ったけど、この抑止力は持っているだけで金の掛かる力だ。宇宙軍にしてみれば、宇宙空間に艦隊を並べて浮かべているだけで莫大な費用が掛かる。そんな金食い虫の軍隊だが、一度戦争になれば必ず損害が出る。これは避けられない」
「それは確かにそうですけど・・・」
「交渉で解決できればそれで済むのに、戦争状態に陥って損害が出れば、高い金を払って揃えた装備、高い金を掛けて育てた兵士が失われてしまう。そうなれば、戦闘で勝利して、相手の国を屈伏させたとしても負けは負け、国としては大損害なんだよ」
「はあ・・・そういうものですか。分かったような、分からないような・・・」
「シンノスケ様の言わんとすることは理解できますけど、少しばかり強引な論法だと思いますわ」
セイラとミリーナの反応を見たシンノスケは頷いてみせる。
「実はこれ、俺が宇宙軍士官学校の卒業論文で書いた内容なんだ。『国家における軍隊と戦争』という課題論文だったな」
「そうでしたの?」
ミリーナを見てシンノスケがニッと笑う。
「因みに、この論文を提出したら、採点を担当した5人の教官の評価はそれぞれA+評価が1人、A評価が1人、A−評価が2人、B+評価が1人と、かなりの高評価だったんだ。しかし、士官学校としての最終的な論文評価はC−って、不思議な現象を巻き起こしてな。同期生の間でも話題になって笑われたもんだよ」
シンノスケの言葉を聞いたセイラとミリーナは思わず吹き出した。
「アハハッ、それこそシンノスケさんらしいですね」
「ホントですわね」
2人の様子を見て頷くシンノスケ。
「さあ、緊張が解けたところで出発するか」
どうやらシンノスケは2人の緊張を解そうとしてくれていたようだ。
「ええ、面白い話でした」
「荒唐無稽な話をして私達の緊張を解こうとしてくれたんですわね」
すっかり緊張が解れたセイラとミリーナ。
船団はダムラ星団公国領に向けて出発した。
シンノスケもヤタガラスの舵を取る。
「因みに、さっきの卒業論文の話は全て実話だからな」
「「えっ?」」




