目標の船を止めろ2
シンノスケのスティンガーとザニーのパイレーツキラー、そしてバックアップのヤタガラスは指定された宙域にて待機していた。
『予定ではすでに宇宙軍が接触している頃合いだな』
「・・・そうですね」
クルー達に叱られる(た)ので多くを語らないシンノスケだが、ザニーの言うとおり宇宙軍が予定どおり接触し、阻止行動に入れば、たった1隻の目標だ、直ぐにでも拿捕するなり、撃沈するなりできる筈だ。
そうすればシンノスケ達は出番のないまま終わりなので、任務解除まで待っていればいいだけである。
待機すること数十分、事態は悪い方に動いた。
周辺に展開していた宇宙軍の艦艇が移動を開始したのである。
『作戦管制室よりスティンガー、パイレーツキラー、ヤタガラスへ。目標船が宇宙軍の囲みを突破した。該船は宇宙軍の艦艇の攻撃に対して反撃をすることなく攻撃を躱しながら、さらに加速しつつ一直線にこちらに向かっている。これより該船をターゲットとし、最大限の警戒を要するものとみなし、警告なしの撃沈を認めるものとする。スティンガー等3隻は直ちに迎撃に向かえ』
状況を鑑みればターゲットとされた船はコロニーへの特攻を仕掛けてくることは明白だ。
有人船か無人船かは不明だが、船内には燃料と爆薬等が満載だろう。
それも桁外れの量の筈であり、それならばターゲットは船というよりも超大型のミサイルのようなものだ。
搭載されている爆薬等の種類にもよるが、ターゲットが超高速で接近しているとなると、宇宙軍や護衛艦の最終防衛線付近で撃沈したとしてもコロニーに被害が及ぶ可能性がある。
すでに宇宙軍の包囲を突破している事実がある以上、ターゲットをコロニー付近まで引き寄せることは危険すぎる。
シンノスケはスロットルレバーを押し込んだ。
「こちらスティンガー了解した。最大戦速でターゲットに向かう」
一気に加速するSRF-102。
『待て、シンノスケ!そんな出力で飛ぶとターゲットに接触できても帰ってこれないぞ!』
ザニーの言うとおり、燃料搭載量の少ない戦闘艇で最大出力で飛び続ければ1時間程度で燃料を使い果たして航行不能に陥ってしまう。
『ヤタガラス、マデリアからご主人様。これよりスティンガーのナビゲートを開始します。バイレーツキラーの警告どおり、そのままだと帰還不能になります。出力を60パーセントまで落としてください』
マデリアがセイラと交代したようだ。
シンノスケが指示したとおりマデリアがナビゲートに当たる。
「いや、今は一刻も早く接敵するのが優先だ。最初の一撃で撃沈できなかった場合、追加の攻撃が間に合わなくなる可能性がある」
シンノスケは機体の速度を限界にまで上げた。
『了解だ!流石に俺のパイレーツキラーでも戦闘艇の速度にはついていけない。先に行ってぶちかませ!万が一お前が撃ち洩らしても俺が沈めてやるぜ!』
パイレーツキラーも後に続く。
『ヤタガラスからスティンガー、パイレーツキラーへ。ターゲットに関する情報を受信しました。ターゲットは巡航艦クラスの船で、データベースに無い艦型とのこと。武装らしい武装は認められず、宇宙軍の包囲と追跡を振り切って超高速で接近中。なお、宇宙軍の攻撃の大半はロックオンする前に最小の機動で躱し、対艦ミサイルの追尾も命中直前に回避されたとのことです。攻撃能力等が無い代わりに超高速、高機動、そして高度な攻撃回避能力を有しているものと予測します』
マデリアの報告は概ねシンノスケの予想どおりだ。
ターゲットは目標に突入するという目的のためだけの特殊船。
一見すると実用性と現実性に欠けると思われるが、条件を整え、使いようによっては敵に大打撃を与えることができるし、コストパフォーマンスも高い。
特に、今回のようにテロリズム的な目的のために投入するならば有効だ。
「マデリア、俺が抱えている対艦ミサイルを置くぞ。ポイントを指定してくれ。精密に、許容誤差は10メートル以内だ」
『置く?・・・ああ、理解しました。ご主人様、抽象的な指示を避けて具体的にお願いします。許容誤差10メートル以内、了解しました。ポイントとタイミングを算出します。スティンガーは現在の進路を維持。これ以上の増速は不可能ですので、出力を90パーセントにまで下げてください』
「了解!」
シンノスケはマデリアのナビゲートに従ってターゲットへと向かった。




