強襲作戦
神聖リムリア帝国に攻め入ったアクネリア銀河連邦宇宙艦隊は真っ先にとあるコロニーに対する攻撃を開始した。
そこはダムラ星団公国でも運用されていた犯罪者を収容する監獄コロニーであり、神聖リムリア帝国下においては旧ダムラ星団公国の政治家や官僚等が政治犯として収容されている。
このコロニーを急襲して囚われている政治犯を救出し、ダムラ星団公国領を奪還した際には速やかに体制を確立し、公国再建の足掛かりにするのだ。
【第9艦隊・軽空母アリエス】
第9艦隊所属の軽空母アリエスでは艦載機が次々と発艦していた。
アリエスに搭載されているのは第9-11戦隊と第9-12戦隊に所属する制宙戦闘艇SZF-25が40機。
艦隊戦では真っ先に発艦して敵の戦闘艇を排除して制宙権を確保し、後続の戦闘攻撃艇や艦隊のための道を切り開くのが役割だ。
第9-12戦隊の戦隊長のハーディン少佐は士官学校出身の28歳の若き戦隊指揮官である。
ハーディンはカタパルトに接続されたSZF-25のコックピットで最終チェックをしながら発艦の時を待つ。
戦隊指揮官として初めての大規模戦闘だが、緊張はしているものの、自分でも不思議な程に冷静だ。
そんなハーディンだが、訓練と同じように、いつもどおりのチェックをしつつも、普段はコックピットのパネルに貼り付けてある恋人の写真は取り外してある。
(帰ったらプロポーズをするつもりだ・・なんて部下達には絶対に言えないよな)
ハイスクールの頃からの付き合いの恋人にそろそろプロポーズをしようとしていた矢先の絶妙なタイミングでの出撃だ。
そんなことを口にすればアクネリア銀河連邦宇宙軍非公式軍機第1条第1項第1号又は第11条に抵触し、部下達から袋叩きにあってしまう。
現に間もなく子供が産まれるという部下が『子供の名前を・・・』と言いかけたのを全力で阻止したところだ。
『コントロールルームから121号艇、ハーディン少佐。コールサイン、レイズ発艦準備よろしいですか?』
発艦オペレーターの若い女性士官の声。
確か、第2中隊第1小隊3番機のクレット少尉の恋人の筈だ。
(なんだかフラグ満載だな・・・)
そう思いながら懐に仕舞った恋人の写真に手を当てる。
「こちらレイズ、発艦準備よし!」
『了解しました。カタパルト射出準備よし、進路クリア。ご武運を祈ります。オールグリーン、3・2・1・Go!』
カタパルトで一気に加速し、宇宙空間に飛び出したハーディンのSZF-25。
「レイズから9-12戦隊各機。各中隊長の指揮でアロー編隊を組め。戦闘宙域に突入する!」
因みに、恋人の写真を懐に入れての出撃は非公式軍規第1条第2項第1号に抵触する行為だ。
【第М19艦隊・強襲揚陸艦バイソン】
M19艦隊の強襲揚陸艦バイソンには海兵隊1個大隊が乗り込んでいる。
戦闘艇の援護の下で敵中を突破して目標のコロニーに突入し、迅速に政治犯を救出するのが役割だ。
バイソンの艦内では海兵隊員が装甲服に重火器で武装して突入の時を待っていた。
「野郎共、準備はいいか?コロニーに突入したら俺達の中隊は管制室を確保して中枢システムを掌握する。作戦の成否は俺達の中隊に掛かっている!ぬかるんじゃないぞ!」
「「応っ!」」
ウェルターズ大尉は宇宙軍海兵隊第25戦闘大隊の第3中隊長だ。
ウェルターズの中隊は特殊技能中隊で、白兵戦能力はもとより、機械技師やシステムエンジニア並みの技能を有する隊員が複数所属しており、今回の作戦ではその中心的な役割を担っている。
「いいか、俺達の中隊には戦いの女神がついている。そんな俺達が負けるわけがない!」
ウェルターズは装甲服の胸に記されたエンブレムを指差す。
戦乙女のデザインの第3中隊のエンブレムだ。
「そうだっ!俺達の中隊は最強だ!」
「こんな戦い、さっさと終わらせて故郷に帰ってお袋のミートパイを食わなきゃな!」
「お前の故郷ってトーチギだったか?」
「馬鹿言うな!おれの故郷はそんな田舎じゃねえ!イバーラキだ!」
「イバーラギだって同じようなもんだろうよ」
「イバーラギじゃねえ!イバーラキだ!間違えるんじゃねえよ」
突入を前に隊員達が大声で笑い合う。
そんな隊員達の様子に配属されたばかりの新隊員が怖ず怖ずと声を上げる。
「あの・・・さっきから言ってはいけないことばかり言っているような・・・」
新隊員の言葉を聞いた先輩隊員達はさらに声を上げて笑う。
「怖いもの知らずの海兵隊員がチンケなこと言うなよ。皆分かって言ってるんだ!つまらんジンクスなんざ敵と一緒に打ち砕いてやるぜ!ってなもんだ」
海兵隊員を乗せたバイソンは激しい砲火の中を突き進む。
そんなバイソンのブリッジでは艦長のボッシュ少佐が艦長席で優雅に紅茶を飲んでいた。
「艦長、目前コロニー到達まであと5分。敵の砲火が本艦と僚艦のバッファローに集中してきます」
戦闘艇部隊が制宙権を確保し、続く戦闘攻撃艇や第9艦隊が敵の守備隊に打撃を加えたとしても、まだまだ敵戦力は健在だ。
本来ならば第9艦隊がもっと敵の戦力を削ってから突入するべきだが、それを待っている暇はない。
「攻撃なんか気にする必要はありません。現在の進路を維持しなさい」
紅茶を飲みながらモニターに映し出されたコロニーを睨むボッシュ。
目標のコロニーの目前まで迫っている。




