歴史的発見
宇宙空間に漂う宇宙クジラの死骸。
その数は10や20ではない。
「ヤタガラスからビック・ベア、ちょっと採掘どころではなくなったかもしれません」
『了解した。シーカーアイからもデータが送られてきた。確かにこれは採掘どころじゃないな』
宇宙の神秘とまでいわれる宇宙クジラ。
今までその存在が確認されてはいても、捕獲されたことはなく、その死体すらも発見されたことはない。
シンノスケがたまたま遭遇したり、怪我をした宇宙クジラを救助した際に入手した体組織やコミュニケーションのパターンですら生物学的には大発見だった程だ。
『おい、シンノスケ。お前、宇宙環境局から宇宙クジラの調査を請け負っていたよな?このことを報告する必要があるんじゃないか?時間が無いぞ、採掘作業は中止だ。急いで戻ろう』
グレンは生粋の採掘職人である。
その仕事の特性から宇宙環境や小惑星帯の流れにも詳しく、さらに長年の経験と勘をたよりにレアメタルの在り処を突き止めてきた。
特に長い年月を掛けて流れる小惑星の潮目を読んでより希少なレアメタルを見つけ出すことに関しては右に出る者はいないと豪語している。
そのグレンによれば、この小惑星帯はゆっくりとした速度で数百年の周期で銀河を巡っており、この宇宙クジラの墓場も流れに乗ってあと数ヶ月もすれば航行不能宙域に流れてしまうとのことだ。
そうなれば宇宙環境局の調査も不可能になってしまい、学術的な損失は計り知れない。
「了解しました。仕事の途中で申し訳ありませんが、直ぐに帰還しましょう」
『大丈夫だ。俺達は俺達でがっぽり稼げたし、トレジャーハンターとしては宇宙の神秘の解明の方がよっぽどロマンがあるぜ!これは金に代えられないぞ』
「了解しました。・・・セラ、ホーリーベルで回収できそうなサンプルを探してくれ。死骸の一部でも構わない」
万が一、宇宙環境局の調査が間に合わなかった時のためにサンプルを持ち帰っておきたいところだ。
「どれも大きすぎます。ワイヤーで牽引するのも難しいです・・・」
確かに宇宙クジラの体長は数百メートルから個体によっては数キロメートルに及ぶこともある。
ペイロード1000トンのホーリーベルでは重量もさることながらサイズ的に運べるレベルではない。
しかも、宇宙クジラは死ぬ時には身体を丸める特性でもあるのか、硬い外殻に包まれてしまっているのでサンプルを切り出すのも困難だ。
サンプル回収は諦めるべきかと考えたその時
『こちらシーカーアイです。直径20メートル程の小さな個体を見つけました』
シーカーアイからの連絡を受けて確認してみると、確かに小さな小惑星のような宇宙クジラの死骸が漂っている。
「これって、宇宙クジラの赤ちゃん?シンノスケさん、この子を連れて行っちゃうんですか?」
セイラの言うことは理解できる。
安らか?に眠っている宇宙クジラの子供の死骸を回収することに抵抗があるのだろう。
「気持ちは分かるが、今回は調査が優先だ。アンディ、あの個体を回収できるか?」
「・・・」
セイラも心境的に抵抗があるのだろうが、反対まではしない。
『ペイロードはまだ余裕があるので問題ありません。回収します』
ホーリーベルで宇宙クジラの子供の死骸を回収するとシンノスケ達は直ちに小惑星帯から離脱する。
『シンノスケ、ヤタガラスとホーリーベルは先に行ってもらって構わないぞ。俺達の護衛はフブキとファントムで大丈夫だ』
『シンノスケ、私達に任せて先に行きなさいな』
『私も問題ないわ』
グレン、アッシュ、アイラに促されてシンノスケ達は船団から離れ、先行してサリウスに戻ることにした。
ホーリーベルは高速輸送艦であり、その速度はヤタガラスにも遅れを取ることはない。
ヤタガラスとホーリーベルの2隻は可能な限り最速で帰還すると宇宙環境局のヤンの下に宇宙クジラのサンプルを持ち込んだ。
「これは・・・信じられません。直ぐにでも調べたいのですが、後回しです。直ぐに現場宙域に調査に向かわないと!カシムラさん、戻ってきたばかりのところ申し訳ありませんが、直ちに調査に向かいますので、現場宙域までの案内と調査船団の護衛をお願いします」
「・・・えっ?」
サリウスに帰還する前にヤンに連絡を入れていたためか、ヤンはサンプルの受け入れをはじめ、あらゆる準備を万端にしていた。
すでに自由商船組合への指名依頼も出しているそうだ。
結局、アンディのホーリーベルを残し、宇宙環境局の調査船5隻を率いて当該宙域にとんぼ返りすることになったヤタガラス。
現場宙域に向かう途中で帰還途中のビック・ベア等とすれ違う。
「・・・あれ?シンノスケのヤタガラスか?早速行くのか、大変だな・・・」
現地調査ともなれば直ぐには戻ってこないだろう。
グレンは他人事のように船団を見送った。




