トレジャーハント1
グレンからの依頼はリスクが高い割に報酬自体は普段より安かった。
「シンノスケの商会で新しい貨物船型の護衛艦を手に入れたんだろう?俺達の採掘ついでにお前の分も掘ってやるよ」
ということで、採掘した希少鉱物を含めた報酬ということらしい。
どの程度の採掘量が期待できるのか分からないが、ホーリーベルの積載量に対して満載の1000トンでなくとも、それなりの量を受け取れれば儲けは大きい。
しかし、採掘現場にいささか問題がある。
アクネリアと神聖リムリアの中間地点の国際宙域とはいえ、アクネリア軍が神聖リムリアに攻め入る構図なので、戦況がどちらに傾くしても現時点でこの宙域まで戦線が伸びてくることは考え辛い。
問題は治安悪化に伴う宇宙海賊の増加と襲撃への警戒だ。
現場は広大な小惑星帯のかなり深い位置にあり、レーダーの死角も多い。
採掘中はホーリーベルが警戒に当たれないことを考慮するとヤタガラスとフブキの2隻では心許ない。
「警戒の隙を生じさせないために万全を期すならば最低でももう1隻、護衛艦が欲しいところですね」
シンノスケの判断にグレンも頷く。
「そうか。今回はデカい仕事になりそうだからな、費用をケチってはいられないな」
直ぐにグレンは追加の護衛依頼を申請し、申請を受けたリナが手続きを済ませて依頼内容をネットワークに公開する。
「はい、手続き完了しました。あとは受けてくれるセーラーさんを待つだけですね」
依頼が公開されて直ぐに受諾者が現れることはそうはない。
一旦仕切り直しをしようと戻ろうとしたシンノスケ達だが、直ぐにリナに呼び止められた。
「っと、ちょっと待ってください。依頼受諾の申請がありました」
「えっ?もうですか?早すぎませんか?一体誰です?」
「・・・アイラさんです」
リナに引き止められ、組合で待つこと小一時間。
連絡を受けたアイラが組合に駆けつけてきた。
「やっとシンノスケからの借りを返せるわ。助けてもらったのと、護衛艦の件。この恩は到底この1回じゃ返しきれないけど、今までその機会すらなかったんですもの。少しずつ返していくわ」
聞けばアイラは小惑星帯で遭難した際にシンノスケ等に救助されたことと、新しい護衛艦のファントムを入手する際にサイコウジ・インダストリーに口利きしてくれたことについて、その恩を返したいと思っていたのだが、一向にその機会が訪れずにヤキモキしていたらしい。
今回のグレンからの依頼で、その一端を返せると考えて名乗りを上げたということだ。
「別に借りとか、貸しとか思っていないんですけどね」
「ダメよ。私達は自由商人なんだから、その辺はしっかりしないとね」
「まあ、そんなもんですか・・・」
これで態勢は整った。
採掘母船ビック・ベアを護るのはシンノスケのヤタガラス、アッシュのフブキ、アンディのホーリーベルは現場でレアメタルの受け入れも行う。
そこにアイラのファントムが加わる。
準備を終えた5隻は目的の採掘現場に向けて出航した。
目的の小惑星帯に到着したシンノスケ達はビック・ベアから発進したシーカーアイを先頭に小惑星帯の中を進む。
今回は小惑星帯の中を5日程掛けて進む必要があるらしく、シーカーアイのアリーサ、メリーサの休息のために間に1日の休息を取る必要があるそうだ。
休息日を挟んで5日後、シンノスケ達は無事に採掘現場に到着した。
「よし、いい感じだな。しっかり稼がせてもらうぜ。野郎共、宝探しだ!掘りまくれっ!」
採掘艇を発進させて作業を始めるグレン達。
今回は最低でも10日間は作業を行い、掘れるだけ掘るらしい。
その上で、最大の作業日数を15日間と定めていた。
作業が始まれば先ずビック・ベアにレアメタルを積み込み、その後にホーリーベルへの積み込みを始める予定だが、グレンの言う激レアのレアメタルを掘り当てた場合にはホーリーベルにも積み込みを行うため、ホーリーベルは採掘現場に釘付けとなってしまう。
周辺宙域の警戒に当たるのはヤタガラス、フブキ、ファントムの3隻。
「やはり死角が多いな。アイラさんに来てもらって正解だ」
3隻で死角を補い合いながら警戒に当たるが、それでも最低限のクリアゾーンを確保するのがやっとだ。
「でもシンノスケ様、小惑星帯のこんな深い場所に宇宙海賊なんて出てこないんじゃありませんの?」
副操縦士席で首を傾げるミリーナ。
「まあ、こんな場所を縄張りにする宇宙海賊はいないけどね、何事にも例外、変わり者はいるもんさ。それに、この小惑星帯には例の宇宙クラゲが生息しているかもしれない」
「そっちの方が怖いですわね」
「だから厳重な警戒が必要なんだよ。宇宙クラゲのコミュニケーション周波のデータはアイラさんも共有している。セラもどんな僅かな変化も見逃さないでくれよ」
「了解しました、任せてください」
今のところ宇宙海賊や宇宙クラゲが出没する兆候は無いが、気を抜くわけにはいかない。
緊張の10日間が始まった。




