司令官会議
アクネリア銀河連邦サリウス恒星州宇宙港の到着口。
民間旅客船が到着すれば到着を待ちわびた人々が笑顔で出迎える。
そんな中に私服姿で周囲に気を配っている宇宙軍情報部のセリカ・クルーズ中佐がいた。
ロビーを行き交う人々の中には彼女の部下も数多く紛れている。
情報部だけでない、第2艦隊に配属されている海兵隊員が秘匿配置され、宇宙港警備の州警察機動部隊も普段よりも増強されて高い警備体制を敷いていた。
実は現在、宇宙港にはサリウス恒星州やイルーク恒星州に派遣され、周辺中域に分散して展開している宇宙艦隊の司令官達が民間船を利用して集まってきているのだ。
第6艦隊のグルーグ大将、第9艦隊のハーバート中将の他に二桁ナンバーの司令官の少将が4名。
そして、宇宙軍海兵隊のM19艦隊司令のガレスビー少将。
いずれも今作戦に参加する艦隊の司令官達だが、表向き、各艦隊はリムリアの内戦に伴い、警戒強化のために派遣されたことになっており、それぞれの艦隊は周辺宙域に広範囲に展開しており、各司令官はお忍びで集結してきたのである。
すでに各司令官は到着しているのだが、クルーズ達は警戒を解いていない。
まだ最重要人物が到着していないのである。
目的の民間船は予定通り到着しており、護衛とエスコートのために同船に搭乗していた部下からも報告が入っているので、その人物も間もなく到着口から出てくる筈だ。
数分後、姿を現したのはくたびれたスーツを着た50代の男性と地味なスーツを着た20代の女性の2人。
その2人の前後の目立たない位置には情報部の部下2名が警戒に当たっている。
対象に間違いない。
クルーズはその男女に歩み寄った。
「ヘイゼル様でいらっしゃいますね?」
クルーズは極めてにこやかに、仕事の得意先でも出迎えるように声を掛ける。
ヘイゼルと呼ばれた男はクルーズに軽く頭を下げた。
「はい。出迎えに感謝します。こちらは私の・・秘書のエセルです」
ヘイゼルに従って頭を下げるエセルだが、ヘイゼルにしてもエセルにしても洗練された所作に全く隙がない。
「車を用意してありますのでご案内します」
クルーズが2人を案内し始めると搭乗口付近で警戒に当たっていた人員がさりげなく姿を消し、情報部員のみが移動するクルーズ達の周辺に目を光らせており、それはヘイゼル等を乗せた車が目的地に到着するまで続いた。
クルーズがヘイゼルを案内したのはサリウス恒星州にあるホテルだった。
一流といわれるホテルの会議室に集まっていたのは宇宙軍第2艦隊司令のアレンバル大将、第6艦隊のグルーグ大将、第9艦隊のハーバート中将、M19艦隊司令のガレスビー少将と、他に二桁ナンバーの艦隊司令官の少将が4名。
今作戦に投入される8個艦隊の提督と、それぞれの艦隊の参謀長に、提督付きの副官達だ。
「しかし、これ程の面々が一同に会するとは。各々の艦隊は未だ分散しているとはいえ、いざ艦隊が集結するとなれば、これは壮観でしょうな」
ハーバード中将の言葉にグルーグ大将も頷く。
「確かに、8個艦隊、総数2千隻以上もの戦力投入とは、昨今類を見ないほどの作戦だ。それ故に失敗は絶対に許されないぞ」
「確かにそうですね」
両提督の話を聞いていたガレスビー少将が肩を竦めて笑う。
「大規模戦闘ではないにせよ実戦経験豊富な皆さんに比べると、私の艦隊なんか3代目の司令官にして初めての実戦ですよ。まあ、私の艦隊が本領発揮する戦闘なんて一大事ですから仕方ないですけどね。万全を期すべく、とりあえず海兵隊の他の部隊からも海賊船や海賊の拠点制圧の経験がある連中を無理やり転属させて連れてきましたよ」
軽口を叩くガレスビー。
彼の艦隊はある意味で今作戦の要ともいえる戦力だ。
各提督が自由に発言しているが、司令官会議自体はまだ始まっていない。
まだ最後の出席者が到着していないのだ。
提督達が最後の出席者の到着を待っていたところ、会議室の扉が開かれ、警備兵に案内されたクルーズ中佐が入室してきてアレンバルをはじめとした提督達に敬礼する。
「ヘイゼル中将をご案内しました」
クルーズの後に会議室に入室してきたヘイゼルとエセル。
2人は宇宙港に到着した際のスーツ姿ではなく、軍の制服に着替えている。
薄いグレーを基調としたその制服はアクネリア宇宙軍のものではない。
ヘイゼルとエセルは踵を鳴らし、背筋を伸ばして敬礼する。
「ダムラ星団公国宇宙軍第3艦隊司令ヘイゼル中将です」
ヘイゼルはリムリア銀河帝国に攻め滅ぼされたダムラ星団公国に所属する宇宙艦隊の司令官であり、エセルはその副官だ。
2人の敬礼に対し、アクネリア宇宙軍の提督達は起立して答礼し、今作戦の総司令官を務めるアレンバルが代表して答える。
「ようこそおいでくださいましたヘイゼル提督。早速ですが、ダムラ星団公国領奪還のための作戦会議を始めましょう」




