新型護衛艦
ミリーナとセイラの厳しい追求から解放されたシンノスケだが、商会内では細やかな、それでいて重大な問題が発生していた。
「シンノスケさん、こっちの方がいいですよね?カッコいいッスよね?」
「いいえ!アンディのネーミングセンスでは駄目です。私が考えた方が断然いい名です」
アンディとエレンに詰め寄られるシンノスケ。
なんのことはない、間もなく納入される護衛艦の名を決めるのにアンディとエレンが揉めているのだ。
シンノスケが今まで手に入れたケルベロス、フブキ、ヤタガラスは試作艦や実験艦の払い下げでサイコウジ・インダストリーで開発段階で既に名が決められていたし、ツキカゲも軍の輸送艦の中古だった。
しかし、今回納入される護衛艦は完全に新造艦で、新しく艦名を付ける必要があるのだ。
艦の所有者はカシムラ商会代表のシンノスケとなるのだが、実際に運用するのはアンディとエレン、マデリアのチームなので、シンノスケから名を決めるように指示されていたのである。
その結果、アンディとエレンの意見が衝突したのだが、2人に意見を求められたマデリアはエレンの案を推したため、現状ではアンディが劣勢に立たされているのだ。
因みに、アンディに助力を求められたアッシュ達だが
「運命を共にする船なんだから自分達で決めなさいな」
と至極真っ当な理由で一蹴され、それを聞いたミリーナとセイラも名付け論争には参戦しなかった。
シンノスケも艦名については全く拘りが無いので意見を求められても『どうでもいい』というのが正直な気持ちなのだが、シンノスケは艦のオーナーでもあるため、邪険にはできないので双方の意見を聞いてみることにする。
「俺が考えた艦名、カッコいいですよね?俺が艦長だからと押し切るつもりはありませんが、商会の他の艦とのバランスも考えると断然俺の考えた名の方がいいですよ!」
正直、アンディの案は拘りの無いシンノスケでも首を傾げるセンスだ。
「確かに艦長はアンディですけど、私は航行管制、通信担当です。航行管制や通信では私の方が艦名を言う機会が多いんですからね!」
エレンの意見の方は理にかなっている。
最終的には艦長のアンディに決定権があるのだが、アンディが艦長権限で押し切るつもりがないというなら仕方ない。
シンノスケは2つの候補から1つを選び、直ぐに艦名登録をするように指示をした。
これで双方恨みっこなしである。
そしていよいよ新型護衛艦納入の日がやってきた。
準備が完了したとの連絡を受け、シンノスケ、アンディ、エレン、マデリアの4人はサイコウジ・インダストリーを訪れた。
ハンクスに案内されてドックに入ったシンノスケ達を待っていたのはピレニーFC製のオルカ級高速輸送艦だ。
「ご注文どおり武装を施しました。管制システムのセッティングも完了しています」
「すげえ・・・」
ハンクスの説明をよそに真っ白に輝く艦を目の当たりにしてアンディが呆気にとられている。
結局、候補に挙がっていたピレニーFC製のオルカ級高速輸送艦とサイコウジ・インダストリー製アラナミ型輸送艦からアンディが選んだのはオルカ級の方だった。
しかし、担当者が話していたとおり、ピレニーFCでは満足のいく性能の武装が無いため、艦本体はピレニーFCで購入し、サイコウジ・インダストリーで武装を施したというわけだ。
「P−HC085ホーリーベル、確かにお引渡しいたします」
新しい護衛艦の艦名はエレンが考えて、シンノスケが最終判断をした『ホーリーベル』。
アンディが考えた『カブトムシ』とは雲泥の差だ。
こうして新型護衛艦『P−HC085ホーリーベル』が納入されたのである。




