アクネリア恒星州へ
シンノスケとマークス、そしてリナを乗せたヤタガラスはアクネリア銀河連邦の首都であるアクネリア恒星州惑星アクネリアに向けて順調に航行していた。
懸念していた宇宙海賊の襲撃の様子もなく、極めて穏やかな航路だ。
「なんだか、軍艦の航行が多いですね・・・」
モニター越しに星々の世界を眺めていたリナがポツリと呟く。
確かにやたらに軍艦とすれ違うが、これでは宇宙海賊等が出てくる筈がない。
リナはちょっとした疑問を感じているようだが、シンノスケはさらに深く状況を見ていた。
「第6艦隊に第9艦隊。そして第M19艦隊か・・・」
ヤタガラスの航路ですでに3個艦隊とすれ違っている。
首都に通じる通常航路なのだから軍艦の航行も珍しいことではないが、広大な宇宙でのことだ、他の航路も含めるとさらに数個艦隊は動いているだろう。
「みんなサリウス恒星州の方向に向かっていますけど、リムリアの内戦を警戒しているんですかね?」
首を傾げるリナにシンノスケは頷く。
「まあ、そうなんだろうけど・・・」
リナの予想は間違えていない。
リムリアの内戦にアクネリア銀河連邦が積極的に軍事介入する理由はないので、単純に考えれば境界付近の警戒のために出動したのだろう。
しかし、出動した部隊が気になるところだ。
第6艦隊は戦艦や重巡航艦等を中心に打撃力重視の艦隊で、有事となれば真っ先に切り込む役割を担う艦隊だし、第9艦隊にしても宇宙艦隊の中では宇宙空母の保有数が一番多く、攻守両面に運用できる艦隊だ。
宇宙艦隊の主力である一桁ナンバーの艦隊が少なくとも2個艦隊。
そして、第M19艦隊は宇宙艦隊の中でも特異な艦隊で、宇宙軍海兵隊が運用する強襲揚陸艦を中心とし、主に侵攻作戦に投入される艦隊だ。
さらに、サリウス恒星州には基幹艦隊の第2艦隊が駐留している。
どう考えても警戒任務に当たるには過剰だし、その構成は不釣り合いな戦力だ。
(リムリアとの開戦を想定しているのか?・・・まさかな)
思っても口には出さないシンノスケ。
表情には出ているのだが、操縦席の左後方にある副操縦士席に座っているリナは気付いていなかった。
何れにしても一介の自由商人であるシンノスケが気にしても仕方ない。
それよりもシンノスケの前には別の困難が待ち受けているのだが、この時のシンノスケに知るよしはなかったのである。
その後も順調に航行を続け、宇宙海賊の襲撃どころか、艦内でも何のトラブルも発生しないまま、ヤタガラスは予定どおりにアクネリア恒星州惑星アクネリアの軌道上にある首都コロニーに到着した。
積荷も異常なく引き渡し、諸々の手続きはリナが済ませる。
後は補給と休息の後、3日後の出発を待つだけだ。
「ただいま戻りました。荷物の手続きも全て完了です。報酬についても振込みを済ませておきました。・・・って、何をしているんですか?」
リナが丸い目でシンノスケを見る。
それも仕方ない、入港後のチェックを済ませたシンノスケはラフなトレーニングウェア姿でタオルを持って艦内を彷徨いていた。
「何って、風呂にでも入ろうかと・・・」
普段は見ることがないシンノスケの姿だが、つまるところひとっ風呂浴びて寝る準備をしていただけだ。
「えっ?せっかくだからお出掛けしませんか?私はこのコロニー生まれで、組合職員になってサリウス恒星州に赴任するまでここに住んでいましたから色々と案内できますよ」
分かりやすいデートのお誘いだが、今は睡眠欲の方が強い。
リナの誘いを丁重に断り、首都コロニーの見物は明日以降にして今日のところは航行の疲れを取ることを優先するシンノスケ。
期待外れのリナだが、焦りはない。
今回に限っては邪魔が入ることは無く、全てはリナの思うつぼ。
「まっ、いいですよ。本番は明日以降ですからね」
リナは1人ほくそ笑んだ。
そして翌日、ゆっくりと休んで航行の疲れも取れたシンノスケは規則正しく、いつも通りの時間に目を覚ますとブリッジでニュースデータを見ながらのんびりと過ごしていた。
「シンノスケさん、マークスさん。お出掛けしましょう!」
明るく声を声を掛けられて振り向いてみれば、普段とは違う装い、落ち着いたワンピース姿のリナが笑顔で立っている。
「そうですね。約束ですからね」
「私は留守番をしていますので、お2人で出掛けられては?」
遠慮?するマークスだが、リナは首を振る。
「せっかくの機会ですから3人で行きましょうよ。といってもお食事の席では手持ち無沙汰かもしれませんが、ちゃんとマークスさんの席も用意してありますから!」
そこまで言われればマークスも承諾するしかない。
「了解しました。お2人のボディーガードを兼ねてお供します」
「そうですよ。・・・あっ、それから、それ程厳格ではないんですけど、ドレスコードのあるお店ですから、シンノスケさんは略服でなく制服でお願いしますね。マークスさんの分はあちらに準備してありますからそのままで結構ですよ」
楽しそうに話すリナの様子にシンノスケとマークスは互いに顔を見合わせた。
こうしてシンノスケは徐々にリナの術中に嵌ってゆく。
リナがシンノスケ達を案内したのはコロニーの中心街にあるレストランだった。
上品でありながら堅苦しくなく、リナの言うとおり厳格ではないにせよ、それなりの品格求められる店だ。
店の別室に案内されたマークスはそこでタキシードではなく、良質のフォーマルスーツに着替えさせられた。
普段は各種ツールを収納するのに便利だからと軍用ジャケットに作業ズボン姿であり、その装いに違和感は無いマークスだが、ガチメカのマークスがフォーマルスーツを着ている姿は違和感しかない。
「にっ、似合ってるぞマークス」
「以前、マスターが私に制服を提案してくれた際に断ったことを激しく後悔しています・・・」
そんな2人のやり取りをニコニコと笑いながら見ているリナ。
「さっ、行きましょう」
いよいよシンノスケとマークスを予約していた個室に案内する。




