組合からの直接依頼
リムリア銀河帝国への護衛任務の完了報告のために自由商船組合を訪れたシンノスケとマークス。
「シンノスケさん、マークスさんおかえりなさい。大変でしたね」
リムリア銀河帝国と神聖リムリア帝国の内戦の勃発と、その戦いに巻き込まれたこと、それによりツキカゲを失ったことは事前のデータ送信により報告済みだ。
「はい、散々でしたが、まあ無事に帰ってこれましたよ」
「皆さんが無事なことが何よりですよ」
ツキカゲを失った損失は大きいが、人的な被害が無かったことが不幸中の幸いであり、それを理解しているリナも明るい表情で迎えてくれた。
「まあ、そうですね。色々とジョーカーを引く癖がある私ですが、今回もなんとか依頼は完遂できました」
自虐的に笑いながらヴィレット・インペリアル・トレーディングから受け取った依頼完了のデータ・ファイルをリナに提出する。
「はい、確認しました。それでは報酬を振り込んでおきますね」
これで手続きは完了。
早速ツキカゲに代わる新しい船を探しに行こうかと思った矢先、シンノスケ達をリナが呼び止めた。
「ちょっと待ってください。シンノスケさんにとっておきの良いお話、というか、ちょっとしたお願いがあるんですけど」
振り向いて見ると、リナが悪戯っぽい笑みを浮かべながらシンノスケを見上げている。
そのリナの表情を見て少しだけ嫌な予感がしたが、考えてみれば厄介な頼み事ならばリナはこんな表情はしないだろう。
シンノスケもマークスも全く同じ判断だ。
それならば、とりあえず話を聞くだけなら問題ない。
シンノスケとマークスはリナの話を聞いてみることにした。
「何か仕事の依頼ですか?」
シンノスケの問いにリナは笑顔で頷く。
「はい。組合からの直接依頼なんですけど、組合管理のレアメタルをアクネリア恒星州首都コロニーにある自由商船組合本部に運んでもらいたいんですよ。引き受けてくれる護衛艦持ちのセーラーさんを探していたんです」
聞けば、運ぶのはメタルNo.4528という超希少な金属なのだが、あまりにも貴重過ぎて貨物船を持つ自由商人は揃って護衛無しでは引き受けられないと、護衛艦の護衛を要求したらしい。
しかし、サリウス恒星州から首都のアクネリア恒星州までの航路の全域はアクネリア銀河連邦の領域内だ。
領域内とはいえ、広大な宇宙だから宇宙海賊に襲われる可能性が無いわけでもないが、その可能性は限りなく低い。
それでも貨物船持ちの自由商人が護衛無しでは引き受けられないというならば、最初から護衛艦持ちの自由商人に運んでもらえばいいという結論になった。
確かに、貨物船と護衛艦の2隻を手配するならば、護衛艦1隻に頼む方が遥かに安上がりだ。
リナに示された報酬はそれほど高額ではないが、危険性を考慮したとしてもなかなか割の良い仕事だろう。
「荷物の総量はどの程度ですか?」
「25トンです」
25トンならヤタガラスでも余裕で積載出来る。
首都のアクネリア恒星州までは通常航行で5、6日。
往復2週間もあれば余裕で帰ってこれる。
シンノスケはマークスを見た。
「マークス、どう思う?」
「良い仕事だと思います。引き受けてもよいのではありませんか?」
「そうだよな。でも、リムリアから帰ってきたばかりで皆疲れているからな、少し位休ませてやりたいな」
「それもそうですが、私に休息は必要ありません。・・・マスターは休んでも何をしたらいいのか分からなくて暇を持て余しますよね?ならば、私達2人で引き受けも問題ないのではありませんか?」
身も蓋もないことを言われるが、事実なので反論できない。
「リナさん、この仕事を引き受けるとして、出航時期はいつ頃ですか?」
直ぐに端末を操作して確認するリナ。
「最短で、明日の積み込み、そのまま出航でも可能ですが、特に急いでいないので、もう少しゆっくりでも構いませんよ。こちらの準備もありますし、明後日の積み込み、翌日出航ではいかがですか?」
その日程ならばシンノスケもゆとりがあるし、シンノスケとマークスが戻ってくるまで他の皆はゆっくりと休めるだろう。
また、今日、明日中にツキカゲの後任艦の目星をつけておけば、戻って来るまでに諸々の手続きを進めることが出来るかもしれない。
「分かりました。私とマークスの2人で引き受けます。明後日に私のヤタガラスに積み込むように手配してください」
シンノスケの返答を聞いたリナはパッと明るい笑みを見せた。
「よかった。ありがとうございます」
いかに安全だと思われる仕事でも、シンノスケのゆく道が完全に平穏である筈がない。
後々、シンノスケはそれを思い知ることになるのであった。




