大損害
神聖リムリア帝国艦からの攻撃でツキカゲを失ったシンノスケ達はリムリアの駆逐艦15隻を一撃で全滅させた後に脱兎の如く逃げ出した。
「追撃してくるかもしれない、フブキ先行しろ!ミリーナ、本艦は後方を守るぞ」
「了解ですわ!」
「セラは後方の艦隊を警戒。マークス、電波妨害を開始しろ」
「「了解」」
ヤタガラスを後退させたシンノスケはジャミングを仕掛けながら後方の艦隊を警戒する。
一撃で駆逐艦隊を殲滅したが、それがヤタガラスとフブキの限界だ。
ツキカゲを沈められ、虎の子の対艦ミサイルもあと数発しか残っておらず、これでは宇宙海賊を相手にする程度なら問題ないが、軍隊を相手にするのは危険極まりない。
「もう一方の艦隊に追撃の兆候はありません。本艦も当該艦隊の射程から逃れました!」
「まだだ、あの艦隊は高速戦艦等の高速艦艇で編成されていた。足は速いぞ!」
セイラの報告を聞いてもシンノスケは警戒を解かない。
「・・・あれは、黒薔薇艦隊ですわ」
「黒薔薇?」
口を開いたミリーナにシンノスケは振り返る。
「黒薔薇艦隊はリムリア銀河帝国第2皇女の私兵艦隊ですの。ただ、第2皇女が行方不明になってから第1皇女の預かりとなり、第1皇女の白薔薇艦隊に併合されていたのですけど、先の艦隊の中に黒薔薇艦隊旗艦ブラック・ローズがいましたわ。黒薔薇艦隊が単独で行動しているということは、艦隊司令長官であるベルローザが戻ったということ。・・・そして、その黒薔薇艦隊が神聖リムリア帝国に付いたということですわ」
ミリーナの言葉を聞いてシンノスケは渋い表情を浮かべた。
「黒薔薇。ブラック・ローズ。ベル・・・ローザ。嫌な想像しか浮かばないのだが・・・」
「私は第2皇女ベルローザとは一面識もありませんが、確かに共通点が多過ぎますわね。あまりにも多く、捻りもない。これではチンケな物語小説でも使わない程ですわね」
「・・・」
シンノスケは釈然としない気持ちになるが、何も言い返せない。
「まあ、マスターがそう思うのなら、そういうことなのでしょう。それこそ稚拙な物語のフラグのように」
「・・・釈然としない」
ミリーナとマークスの言葉にシンノスケはどうしても納得できなかった。
結局、黒薔薇艦隊の追撃を受けることなく宙域を離脱したヤタガラスとフブキ。
「アッシュ、そういえばアンディの様子はどうだ?マデリアにスパナか何かで殴られたんじゃないか?」
『それなら問題ないわ。今はまだ意識が戻らないけど、マデリアもちゃんと手加減したみたいだし、怪我らしい怪我もない。意識が無いのも殴られたからじゃなくて、ツキカゲを失った責任感のショックと、エレンとマデリアが無事だったことの安心感からのものだと思うわ。今はエレンとマデリアが見ているから眠らせたままにしているけど、彼のメンタルケアは相棒のエレンと雇用主のシンノスケの役割よ』
アッシュの報告を聞いてシンノスケはようやく胸をなでおろした。
確かに、ツキカゲを失った挙げ句、対艦ミサイルの大盤振る舞いで今回の仕事は儲けどころではない、大損失だ。
「まあ、大切なクルーを失わなかったことがなによりだな」
シンノスケは自分に言い聞かせるように呟く。
その後も順調に航行を続け、ヤタガラスとフブキは無事にサリウス恒星州に帰還した。
ドックに入港してヤタガラスから降りたシンノスケにアンディが駆け寄ってくる。
「シンノスケさん、すみませんでしたっ!」
シンノスケに深々と頭を下げるアンディ。
後を追ってきたエレンとマデリアも頭を下げる。
「すみませんって、何がだ?ああ、そうか、お前が安易に船と運命を共にしようとしたことか?それならば俺に詫びるんじゃなくてエレンとマデリアに礼を言うべきだぞ」
惚けてみせるシンノスケだが、アンディは頭を上げない。
「ツキカゲを失ったことです!俺は艦長を任されておきながらその責任を果たせませんでした!本当にすみません!」
ひたすらに謝罪するアンディにシンノスケはため息をつく。
「あのな、アンディ。確かに船は大切だが、もっと大切なのはクルーの生命だぞ。それさえ守れれば艦長の責任はしっかりと果たしている」
「でも・・・」
「船なんて所詮は消耗品だ。高価な消耗品だがな、アンディは今までにビートル号とツキカゲの2隻を失ったが、俺だってケルベロスを沈めたし、フブキも何度もぶっ壊した。それでも、命さえ無事ならば何度でもやり直せる。また今度上手くやればいいさ。今回の損失を補填するために直ぐに次の船を手に入れるが、その船の艦長はお前だからな!またしっかりとやれよ!」
「・・・はい」
アンディは自信を失いつつあるが、こういう時は直ぐにでも次の役割を与える。
かなりの荒療治だが、シンノスケはアンディが立ち直ることを確信していた。
そのためには組合に報告した後に直ぐにでも新しい船を手に入れなければならない。
ツキカゲは古い中古船だったが、商会の船の中で1番のペイロードを誇り、貿易や貨物輸送では1番の稼ぎ頭だったのだから、その穴を一刻も早く埋めなければならないのだ。




