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急速離脱

 ミリーナに代わって操舵ハンドルを握ったシンノスケはグラスモニターを装着した。


「マークス、統制するぞっ!」

「了解しました。セイラさん、すみませんが通信、レーダー管制をこちらでいただきます」


 セイラはオペレーター席の操作盤から手を離す。


「はっ、はいっ!」


 これでヤタガラスはシンノスケとマークの2人の制御に入った。


「ヤタガラスから各艦。現在我々は帝国艦船、神聖リムリア帝国軍からの攻撃を受けている。護衛艦各艦はヴィレット船団の右舷、現在の位置を維持し、防護を継続。ヴィレット船団は進路を維持!」

『ツキカゲ了解です』

『フブキ了解!』

『エレファントA3了解しました。よろしくお願いします』


 その間にも敵艦による攻撃は続いている。

 今のところはエネルギーシールドで捌けているが、それも時間の問題だ。


「マークス、シールドの制御を任せるぞ」

「了解。エネルギーシールドを右舷側に集中。シールド出力80パーセント」


 指揮を執りつつヤタガラスを操るシンノスケと阿吽の呼吸で応じるマークス。

 そんなシンノスケ達を不安そうな目で見るミリーナ。


(何がいけなかったのかしら・・・)


 攻撃がヤタガラスに集中し、危険だと判断したミリーナがヤタガラスを右舷回頭させようとしたその時、シンノスケが今までに無い程の鋭い声でミリーナから操艦を取り返した。

 ヤタガラスに限らず、大半の宇宙船は前面の装甲が最も厚く、エネルギーシールドも前面に展開されているのが一番効果的だ。

 確かにヤタガラスを回頭させようとする前にシンノスケから止められたが、ミリーナ自身はあの状況で攻撃に対して前面シールドで受けることが最善だと判断した。

 しかし、その直後のシンノスケの反応を考えれば、ミリーナの判断が誤っていて、艦を危険に曝したのだろう。

 そうでなければ、シンノスケはあんな声をあげたりはしない。


 ミリーナ自身、操艦に慣れてきて少し自惚れていたのではないだろうか?

 自信と自惚れは違う。

 自分に自信を持ち、それを誇りとしてきたミリーナはそのことをよく理解しているし、常に自分を律してきた。

 

 あの時、自分自身の慣れと自惚れから何かを見落としていたのだろうか。 

 自然とミリーナの視線が下を向いてしまう。


「ミリーナ、今の判断だけどな・・・」


 その時、シンノスケがミリーナに声を掛けてきた。


「はっ、はいっ!」


 俯いていたミリーナはビクリと背筋を伸ばす。


「敵の攻撃に対して艦を正対させて被弾面積を狭くしつつ、前面シールドで攻撃を受ける。その判断に間違いはなかった」


 シンノスケは左舷側のモニターを注視したまま、ミリーナの方を見ることはない。


「でも、あの時の私の判断は間違えていたのですわよね?だからシンノスケ様は・・・」

「ああ、間違えていたのはそのタイミングだ」

「タイミング?」

「敵の攻撃が自艦に集中しつつある中で回頭しようとすると余計に攻撃が集中することがある。攻撃を避けようと動けば、敵はそれを見逃さない。だから、あの場合には攻撃にビビら・・臆することなく、進路と姿勢を維持し、攻撃が弱まった隙を突いて回頭するべきなんだ」

「セオリーよりも経験ですか・・・」

 

 シンノスケが語るのは戦いで生き残るための法則、そして、ミリーナに圧倒的に足りないのは経験。


「まあ、セオリーでもないが、集中砲火の中の急速回頭はフラグ?的にタブーだな。強行すると大概やられる」


 説明する間にも帝国艦からの攻撃は続いているが、その攻撃を受ける最中でもどこか余裕の見えるシンノスケ。


 その時、状況が動いた。


「当該艦隊に動きあり。分散していた艦が集結しようとしています。さらなる攻勢を目論んでいると推測」


 シンノスケ達の固い守りに焦れたのだろう。

 神聖リムリア帝国艦船数十隻が集結しようとしている。

 密集して一気に仕掛けるつもりだろう。

 シンノスケは決断した。


「ジャミングを実行する。各艦は合図をしたら通信とレーダーを切れ。完全にカットオフだ。じゃないとジャミングをまともに食らって壊れるぞ!ツキカゲとフブキは火器管制のデータリンクだけは起動しておけ。本艦が攻撃管制を行う。通信断絶後は本艦の発光信号に従って本宙域から急速離脱する」


 その間にマークスが艦隊の集結地点を割り出す。


「集結予想地点をマークしました。ジャミング出力80パーセントで同方向に指向します」

「了解。各艦用意・5・4・3・2・今!」

「ジャミング開始!」


 ヤタガラスがジャミングを実行すると直ぐに帝国艦隊の動きに乱れが生じた。

 通信とレーダーに障害が発生し、混乱しているのだろう。


「マークス、今だ」

「了解。各艦の主砲と速射砲を当該宙域に向けて発射し、牽制します」


 データリンクによりツキカゲとフブキの火器管制を掌握したマークスが帝国艦隊の集結地点に向けて一斉砲撃を加えた。 

 艦隊の集結前だったため、砲撃の犠牲になった艦は無いが、艦隊はさらなる混乱に陥る。


「よし、隙が出来た。ヴィレット船団は全速で宙域を離脱。護衛隊は船団を守れ。帝国艦隊は直ぐにでも態勢を立て直してくるぞ、急げっ!」


 混乱の隙を突いて船団は交戦宙域から脱出した。

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― 新着の感想 ―
>フラグ 某帝国軍の事ですね? わかりますw
一歩間違えたら商会の船団ごとデブリの仲間入りだったな……
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