砲撃の嵐を抜けて
「セラッ、各艦に航行識別信号を最大出力で発信するように伝達。民間船だと認識させるんだ!」
「了解しました!」
周辺宙域に次々と帝国艦船がワープアウトしてきて、付近に展開していた帝国艦船と戦闘が始まっているが、シンノスケ達はその真っ只中にいる。
戦闘中であっても民間船を巻き込んではいけないという有名無実化している国際法の遵守に期待するしかない。
「ヤタガラスからエレファントA3、確認事項があります。我々は現在非常事態に曝されていますが、船団の目的地であるとか、護衛任務については当初の予定通りということでよろしいか?」
帝国を二分する内戦が始まったわけだが、その中でリムリア銀河帝国の企業であるヴィレット・インペリアル・トレーディングの方針を確認する必要がある。
『こちらエレファントA3、私達の目的に変更はありません。このまま帝都までの護衛をお願いします』
「了解しました。それでは護衛任務を継続します」
通信を切ったシンノスケは改めて自分達が置かれた状況について考えた。
シンノスケ達が帝国領に入った時、多くの帝国艦艇が集結していて、警戒に当たっていた。
そこに神聖リムリア帝国を称する艦隊が宣戦布告してきたということは、リムリア銀河帝国でも内戦の火種が燻っていたことは把握していたのだろう。
通常では自領の守りについていて、他の任務につくことがないリングルンド家私兵艦隊をはじめとした文官家の私兵艦隊までを警戒に当たらせていることを考えると、リムリア銀河帝国軍は神聖リムリア帝国に比べて保有戦力は少ないのかもしれない。
「周辺宙域での戦闘が激化しつつありますが、どの艦隊がどちらの陣営なのかの判別がつきません」
総合オペレーター席で状況を分析していたマークスが報告する。
「構わない。各艦は船団護衛に専念。このままの進路を維持しつつ目的地に向かう」
フブキを船団の前方、ヤタガラスが上方、ツキカゲが後方を守る陣形を維持しつつ戦火の中を進み、流れ弾が迫れば護衛艦を盾にして船団を守る。
「マークス、エネルギーシールドの管理をそちらに任せてよろしくて?」
シンノスケが護衛隊の指揮を執り、ヤタガラスの舵を預かるのはミリーナだが、ミリーナは実戦経験に乏しいため操艦に余裕がない。
「お任せください。そちらは操艦に専念してください」
「頼みますわ」
戦火の中を進むにつれ、船団に降り注ぐ攻撃が増えてくる。
もはや流れ弾では片付けられない程だ。
「右舷側に展開する一部の部隊が私達に並走しつつ、攻撃を仕掛けてきています。明らかに私達に対する攻撃です」
セイラの報告のとおり、一部の20隻程の部隊が船団を攻撃対象としている。
「了解。護衛各艦はヴィレット船団の右舷に位置し、エネルギーシールドで攻撃を受け止める。軍隊相手だ、反撃は行わず防御に専念する。但し、護衛対象、自艦、僚艦を守るために必要な場合には各艦長の判断で交戦を許可する」
『ツキカゲ、了解です』
『フブキ了解』
帝都に向かっているヴィレットの船団が狙われているのなら、攻撃を仕掛けてきているのは神聖リムリア帝国側だろう。
(積荷を運ばせないためか・・・)
明確に攻撃を仕掛けてきているということは、ヴィレットの船団が運んでいるのは帝国の軍事物資になりうる物であり、神聖リムリア帝国は民間船であるヴィレットの船団を敵とみなしている。
当然、護衛任務に当たっているシンノスケ達の護衛隊も同じだ。
強力な軍用艦艇を運用するシンノスケの商会への指名依頼。
データでのやり取りでなく、あえて紙媒体での手続き。
色々と思い当たる節があるが、それを承知の上で依頼を受けたのだから、それについてはとやかく言うつもりはない。
いかなる事態に直面しても引き受けた仕事を全うするのみだ。
「敵の攻撃が本艦に集中しつつありますっ!」
セイラが叫ぶ。
敵の指揮官が余程の間抜けでもない限りヤタガラスが指揮艦であることは分かるだろう。
ヤタガラスが優先攻撃対象になるのも当然だ。
「構わない。護衛隊各艦は防御戦列を崩すな」
シンノスケは冷静さを保っているが、敵の攻撃が集中している中、ミリーナとセラは生きた心地がしない状況に曝されている。
エネルギーシールドの限界が近い。
「このままじゃエネルギーシールドが持ちませんわ!艦の姿勢を変えます」
「ミリーナ、待て!」
「艦首にシールドを集中、右舷回頭」
確かに装甲の厚い艦首にシールドを集中させた方が防御力は高い。
ミリーナが操舵ハンドルを切ろうとした瞬間、シンノスケは艦の操作を自らが座る操縦士席に切り替えた。
「アイ・ハブッ!!回頭中止!」
シンノスケの鋭い声にビクリとして反射的に操舵ハンドルから手を離すミリーナ。
「っつ!ユー・ハブ!」
攻撃に曝されている中での回頭は危険だ。
艦の操縦を取り戻したシンノスケは回頭を中止して護衛戦列を維持する




