戦火
6325恒星連合国を出発したシンノスケ達は何事もなく航行を続け、リムリア銀河帝国領へとたどり着いた。
ここまで来れば後は最終目的地である帝都の軌道宇宙港に入港するのみだ。
懸念していた通信障害が発生する宙域についてもセイラの用意周到の航路選択と計画によって無事に通過することができた。
「リムリア帝都航路管理センターの管制宙域に入りました。ミリーナさん、このままの進路を維持してください」
「了解ですわ」
セイラのナビゲーションに操舵ハンドルを握るミリーナが頷く。
「それにしても、帝都が近いせいか警戒が厳重ですね」
セイラの言葉は素朴な感想にすぎないが、確かに周辺宙域には数多くの軍艦や沿岸警備隊の艦艇が行き交っている。
それを目の当たりにしたシンノスケとミリーナの表情は険しい。
「いくつかの部隊が集まっているようだが・・・。ミリーナ、これ、正規軍じゃないよな?」
シンノスケの問いにミリーナは頷く。
「はい。前程通過した宙域には正規軍の艦隊・・・第5、第7艦隊の姿もありましたが、貴族の私兵艦隊が多いですわね」
付近にしている艦隊は艦の色や船体に表示されている紋章もまちまちであり、ミリーナによると、それらは帝国貴族の私兵艦隊なのだそうだ。
私兵艦隊が帝都周辺の警戒に当たることは珍しいことではなく、むしろ定期的に帝都防衛の任務が回ってくるらしいのだが、それにしても数が多すぎる。
ミリーナは展開している30隻程度の少数の艦隊を見て眉をひそめた。
「リングルンド艦隊?妙ですわ!」
「リングルンドって、ミリーナの実家の艦隊か?」
「縁を切っていますので、実家というのは正しくありませんが、確かにあれは私の兄が指揮する私兵艦隊です。ただ、リングルンド家は貴族といっても武官ではなく、文官の貴族家でして、保有する私兵艦隊も少数、50隻にも満たない艦隊です。通常、文官貴族の私兵艦隊は帝都防衛の任に就くことはありません。それなのに30隻もの数が領地を離れているなんて・・・。やっぱり変ですわ」
シンノスケも口には出さないが、嫌な予感しかしない。
むしろこの状況では口に出したところで、それが不吉な予兆とはならないだろう。
「まあ、帝国内のことだ。我々が心配しても仕方ない。我々は我々の仕事に専念するのみだ。このまま予定の進路を進もう」
「了解ですわ」
このまま進めばあと5時間程で軌道宇宙港に到着する。
ヴィレットの船団を送り届ければ護衛任務は完了だ。
入港後は補給を兼ねて2日程停泊するつもりだったが、この様子だと補給無しで早期に帝国領から離れた方がいいのかもしれない。
補給無しでも余裕で帰ることはできる。
そんなことを考えていたその時、額の目が開いたミリーナとセイラが声を上げた。
「何かが来ますわっ!」
「周辺宙域に異変!右舷方向に空間の歪みを観測しました。何かがワープアウトしてきます!」
航路の管制下にある宙域で空間跳躍を行うことは他の船を巻き込みかねない非常に危険な行為であり、そもそも国際航宙法違反だ。
「管制宙域に直接ワープアウト?無茶だ!セラッ、ワープアウトしてくる船の数は?」
「観測しています・・・数、100隻、いえ、200隻以上です!」
「各艦警戒しろっ!ヴィレットの船団にも通知、急ぎ本宙域から離脱する。ミリーナ、速度を上げろ!」
「了解ですわっ!」
船団は急いで宙域からの離脱を試みる。
「前方宙域にも異変!50隻程の艦隊がワープアウトしてきます!」
船団の進路を塞ぐように新たな艦隊がワープアウトしてきた。
マークスが現れた艦隊の素性を確認する。
「所属確認。リムリア銀河帝国宇宙軍第4艦隊。宇宙戦艦3、軽空母1、重巡航艦6、巡航艦15、駆逐艦20、その他の艦艇8。後方には第3、第6艦隊がワープアウト」
突然現れたのはリムリア銀河帝国の艦隊だ。
「自国領内に強制ワープだと?」
「ワープアウトしてきた艦隊から全周囲に通信。スピーカーに出します」
セイラが帝国艦隊からの通信をブリッジのスピーカーに接続する。
『・・・我々は神聖リムリア帝国に所属する艦隊である。神聖リムリア帝国は聖帝エルラン・リムリア皇帝陛下の名の下に本日、現時刻をもってリムリア銀河帝国に対して宣戦を布告する!』
帝国の艦隊が帝国に対して宣戦布告。
内戦の始まりだ。




