危険宙域を抜けて
宇宙クラゲの出現に宇宙海賊との戦闘を中止して逃げ出したシンノスケ達。
「宙域を離脱中・・・あっ、海賊が宇宙クラゲの襲撃を受けている模様です!」
小惑星帯を盾にしようとしていた宇宙海賊達が宇宙クラゲの襲撃を受けて大混乱に陥っている。
下手に反撃を試みて、余計に宇宙クラゲを呼び寄せてしまっているようだ。
「奴等、航路局の航路情報を確認していないのか?真っ当な宇宙海賊ならば自分達の狩り場の情報くらい仕入れておくべきだろうに」
シンノスケは呆れてため息をつくが、どうすることも出来ない。
救助が必要な者に手を差し伸べるのが船乗りの誇りだとしても、今は護衛任務中であり、護衛対象から離れるわけにはいかないのだ。
そもそも、いくらなんでも襲撃してきた宇宙海賊を危険を冒してまで救助に向かって巻き込まれては元も子もない。
宇宙海賊達には自業自得だと諦めてもらう他になく、シンノスケ達は宇宙海賊が襲われている隙に安全な宙域まで離脱することが優先だ。
「この近辺は宇宙クラゲが生息している可能性がある小惑星帯が多い。先程の宇宙クラゲからは距離を取ったが、奴等の生態が分からない以上は我々のことを宇宙海賊の仲間だと認識して追ってくるかもしれない。そこで、一刻も早くこの宙域を抜けたいところだが、安全な航路を抜けるとなると、かなりの遠回りだ。リスクを避けて遠回りする選択肢もあるけど、今回は最短で抜ける道を選ぶ」
決断したシンノスケは小惑星の密度が比較的薄い小惑星帯の中を抜ける進路を示した。
シンノスケが示した小惑星帯について、セイラが航行可能な進路を選び出して設定する。
「この進路なら船団も無理なく通過できます」
慎重な性格のセイラらしい堅実な航路設定だ。
シンノスケも頷く。
「よし、セラの選んだ進路で行こう。但し、ここからのナビゲートはマークスに任せて、セラは異常信号の警戒に専念。どんなに微弱な信号も見逃さないでくれよ」
「りょ、了解しました!」
本来ならば異常信号の警戒はマークスの方が適任なのだが、いざという時のセイラの感覚の鋭さには目を見張るものがある。
それに、マークスならばナビゲートの片手間にセイラのサポートも難なくこなせるから重ねて安心だ。
「ヤタガラスから各船、これより小惑星帯の中を通過する。無理のない進路を進むが、気をつけて、本艦にしっかりついてきてくれ」
シンノスケはヤタガラスを船団の先頭につけると目の前の小惑星帯へと進入した。
「マスター、最適進路をモニターに表示しました。セイラさんが設定した進路に全く問題ありませんので、設定進路を微調整しながらナビゲートします」
「了解。ヴィレットの船団が後についてくるから速度は遅めで行くぞ」
ヤタガラスを先頭に小惑星帯の中を進むが、マークスが言ったとおり、何の問題もない。
後続の船団が無理なく通過できる速度と進路なので、シンノスケも全くストレス無く操艦できるし、フブキやツキカゲは勿論、ヴィレットの船団も問題なくついてくる。
「セイラさんが設定した進路は微調整が必要かと思いましたが、殆ど必要ありません。航行管制士として本当に優秀ですね」
ナビゲートを受け持つも、手持ち無沙汰のマークスがセイラの航路設定を称賛する。
「・・・・・・」
あまり他人を評価したり、それを口に出さないマークス。
しかし、周辺の信号警戒に集中しているセイラの耳にはマークスの言葉が届いていない。
「マークス、セラに聞こえていないぞ」
「いいんです。独り言ですから」
そんなやり取りをしながらも順調に航行を続けた船団だが、結局、宇宙クラゲや宇宙海賊に遭遇することもなく小惑星帯を抜けることが出来た。
「間もなく空間跳躍ポイントです」
小惑星帯を抜け、危険宙域を脱したことにより、航行ナビゲーションと通信業務に復帰したセイラが報告する。
「シンノスケ様、操艦を交代しますか?」
ミリーナが申し出るがシンノスケは首を振る。
「とりあえず大丈夫だ。空間跳躍が終わってから交代してくれ」
「分かりましたわ」
シンノスケは空間跳躍前のチェックを行う。
「各システム異常なし。船団各船に通達。本艦が空間跳躍を実行したらヴィレット船団、ツキカゲ、フブキの順で空間跳躍を実行。セラ、座標計算と空間先の座標データを各船と共有してくれ」
「了解。座標計算と跳躍先の座標を固定は終了しています。船団各船とのデータリンクも完了です。何時でもどうぞ」
「了解。それでは跳躍突入速度まで艦を加速させる」
シンノスケはスロットルレバーを押し込んだ。
ヤタガラスが空間跳躍速度まで一気に加速し、その後に船団の各船が続く。




