カシムラ商会全艦出動
船団護衛依頼と金属貿易の準備を終え、出航を明日に控えたシンノスケは最新の航路情報を得るためにセイラを連れて自由商船組合を訪れた。
今回はリムリア銀河帝国の企業であるヴィレット・インペリアル・トレーディングの5隻の貨物船団を護衛し、サリウス恒星州から6325恒星連合国の首都コロニーを経由してリムリア銀河帝国の帝都に向かう行程だが、その航路には危険地帯が多い。
先ず、6325恒星連合国までの航路は小惑星帯が点在し、航行可能宙域が限定されている。
6325からリムリア銀河帝国領までの航路は各所で通信障害が発生しやすい。
そして、全ての宙域で、いつ何時宇宙海賊に遭遇するか分からない危険な航路だ。
船団を護衛し、しかも通り慣れていない危険な航路を航行するとなれば、情報はいくらあっても無駄にはならない。
「6325恒星連合国までの航路は小惑星帯の張り出しが進んでいますね。航路の選択は慎重にしないと・・・」
いまや立派な航行管制オペレーターに成長したセイラは入手した最新の航路情報を自分の端末を通してヤタガラスの管制システムに送信しているが、確かにセイラの言うとおり、6325恒星連合国への航路に張り出してきている小惑星帯の範囲が広がっている。
「この小惑星帯、例のおっかない奴が居る場所だよな?」
「宇宙クラゲですね。そういえば、宇宙航路局の注意喚起の通称名はそのまま宇宙クラゲなんですよね」
「ああ、分かりやすいっちゃ分かりやすいんだがな。短絡的というか、どストレート過ぎるよな」
「でも、学術名は別にあるんですよね?ヤンさんに聞きましたけど、発見者の名を入れようとして断られたとか?」
小惑星帯の中でシンノスケ達が発見した宇宙クラゲは宇宙生物学的に大発見だったらしく、宇宙航路局員で、生物学者でもあるヤンから学術名にシンノスケの名を入れることを打診されたのだが、シンノスケはそれを頑なに拒否したのだ。
「当たり前だ。『メテオ・テンタクルス・カシムラ』とか『シン・テンタクルス・メドゥーサ』なんて名付けられてたまるか!断固拒否したよ。結局『メテオ・テンタクルス・レッドアイ』に落ち着いたみたいだな」
そんなことを話しながらデータ収集を済ませた2人がドックに帰ろうとしたところ、1人の男性に声を掛けられた。
「失礼ですが、カシムラ様でいらっしゃいますか?」
歳の頃50歳位だろうか、突然声を掛けられて顔を見合わせるシンノスケとセイラ。
「はい、私がカシムラですが?」
シンノスケの答えを聞いた男は深々と頭を下げた。
「はじめまして。私はヴィレットと申します。リムリア銀河帝国で貿易業を営んでおり、ヴィレット・インペリアル・トレーディングの会長をしております」
ヴィレットと名乗ったこの男は明日からの船団護衛にあたるヴィレット・インペリアル・トレーディングの会長だということだ。
「これはどうも。私がカシムラ商会のシンノスケ・カシムラです。こっちは私の船のクルーのセイラ・スタアです」
シンノスケに紹介されて慌てて頭を下げるセイラ。
ヴィレットも丁寧に応える。
「私達は昨日こちらに着いたばかりです。今日は仕入れと積込みの手続きのためにこちらに来たところ、丁度カシムラ様がいらっしゃると聞いて一言ご挨拶をと思い、声を掛けさせていただきました」
「それはご丁寧にどうも。こちらこそよろしくお願いします。・・・しかし、リムリア銀河帝国から会長自ら船団を率いてきたのですか?」
ヴィレットは肩を竦めて笑う。
「まあ、会長と申しましても貨物船を10隻しか保有しない小さな商いでして、会長の私が自ら仕入れに駆け回らないと、商売が回らないんですよ。予算も切り詰めて、空荷でここまで来た際には護衛無しですから、生きた心地がしませんでしたよ。ただ、商品を仕入れた帰りは護衛無しというわけにはいきませんからね。こちらの組合の担当者からカシムラ様はとても優秀だとご紹介いただきました」
シンノスケのことを『ご紹介』したのはリナだろうが、過大評価に背筋が痒くなる。
「優秀かどうかは私は自己評価出来ませんが、私の保有する護衛艦3隻でしっかりと護衛させていただきます」
シンノスケの言葉を聞いたヴィレットは満足そうに頷いた。
「心強い限りです。是非ともよろしくお願いします」
一通りの挨拶を済ませたヴィレットは明日の出航の手続きが終わっていないということで、シンノスケも明日の準備があるのでこの場はこれで別れることにする。
明日からヴィレットの船団を護衛してリムリア銀河帝国まで遠征だ。
そして翌日の早朝、カシムラ商会の護衛艦3隻が初めて全艦出動する。
1番艦はシンノスケのヤタガラスで護衛隊の指揮を務める。
2番艦はアッシュ達が気を使ってアンディのツキカゲ。
3番艦がアッシュのフブキ。
3隻はドックを出航するとヴィレット・インペリアル・トレーディングの船団との合流地点に向かった。




