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暴かれるシンノスケの過去

 アレンバル大将とシンノスケ、宇宙軍士官学校校長と学生の久々の再会。

 そんな2人の話を聞いていたミリーナだが、ふと疑問が浮かぶ。


「あの、ちょっと疑問に思ったのですけど、アレンバル様はシンノスケ様が士官学校の学生だった時の校長だったのですよね?」

「そうだね。私はカシムラ君が第2学年の時に士官学校に校長として赴任したんだ」


 ミリーナの質問に穏やかな口調で答えるアレンバル。


「士官学校って、数百人から数千人の学生がいると思うんですけど、いくら学校長とはいえ、その全ての学生を覚えていらっしゃるのですか?それとも、シンノスケ様はそんなに優秀だったのですか?」

「いや、流石の私も全ての学生を把握するなんて不可能だよ。その上で、カシムラ君は優秀な学生ではなかったな。といって落ちこぼれでもない。成績は優秀には至らない優良で、特に目立った学生ではなかったね」


 ミリーナは首を傾げる。 

 シンノスケがアレンバルのことを知っているのは当然だが、アレンバルの方がシンノスケのことを覚えていて気に掛けていることが不思議だ。

 そんなミリーナの様子を見てアレンバルが笑う。


「はははっ、確かにカシムラ君は学生の中では目立たなかったが、私としては印象深い学生だったんだよ」

「それってどういうことですか?」


 ミリーナは俄然興味が湧いてきた。

 アレンバルの隣に座るシンノスケの横からアレンバルの反対側の隣に移動してアレンバルを見上げる。

 シンノスケとしてはミリーナの質問を止めさせたいところだが、止める理由が浮かばない。


「いや、私は学校長なので学生相手の授業は訓育位しかなかったんだが、たまにシミュレーション演習には参加して、学生を相手に艦隊戦術なんかを指導していたんだ。カシムラ学生もその1人でね。いやらしくて憎たらしい戦術を使うもんだから印象に残っているんだよ。面倒で可愛くない学生としてね」

「まあ、そうだったんですの?」


 いつの間にかいつもの口調に戻っているミリーナ。

 アレンバルの話に興味津々だ。

 だんだんシンノスケは蚊帳の外になってくる。


「教官が学生を相手にするとなれば、ハンデ戦になるのが当たり前でね。通常は学生の戦力に対して教官側は7割から8割程度の戦力。学校長ともなれば学生の半分で十分。圧倒的有利な学生を軽く揉んでやるのが楽しみなのだがね、カシムラ学生は本当に面倒くさかったよ。優秀な学生なら敵の補給線を叩いたりして効率的な戦いをするし、非常に分かりやすいもんだが、カシムラ学生は圧倒的有利な立場にありながら少数の敵に対して戦力分散の愚を犯してゲリラ戦を仕掛けてきたりしてな。卒業までに何度か対戦してみたが、ハンデをやるのが勿体ない位だったね。他の教官からの評価も同じ、面倒くさい学生だったよ」

「シンノスケ様らしいといえばらしいですわね」

「奇抜というか、セオリーを無視してでも自軍戦力の損害を抑えて、機を見て敵の隙を突いて敵の本隊に一気に勝負を仕掛けてくるのだがね、その策が崩れると一気に瓦解するんだよ。ただ、劣勢に陥ってからの粘りや敗戦時の幕引きは上手かったね。戦力分散の愚を犯すといっても、不利な状況で敗戦濃厚になると戦力の殆どを逃がしてしまうものだから、全滅に陥っての敗北というのは無かったな」

「クスクス・・・、本当にシンノスケ様らしい」


 シンノスケはこの場から逃げ出したくなってきた。


「後になってから思ったのだが、逆に彼の方が最初から不利な状況でシミュレーションしてみたら面白かったかもしれない。私や他の教官もそうだったが、カシムラ君を相手にして、不利な状況を覆して有利に持ち込んでも、そこからが面倒だったよ。事実、学生同士の演習だと不利な状況や劣勢に陥ってからの挽回には定評があったね。負けるにしても、自軍の損害を抑える能力は高かった。結局、不利な状況の方が彼らしさが出ていたということだね。尤も、教官が学生相手に有利な状況で演習することはないからどうだったかは分からないがね」

「本当に、その頃のシンノスケ様に会ってみたかったですわ」

「結局のところ、カシムラ君は常に負ける時のことを考えていたようだったね。有利な状況でも『この有利な状況からどうやったら負けるか?』『戦況を覆されたらどうする?』『自軍の損害を最小限にして生き残る方法は?』って考えているんだよ。これは軍人としては優秀な思考だと思うが、加点、減点方式の士官学校では評価されないものでね、教官方の内申評価は高かったが、実点数には加算されなかったね。それから、操艦能力は良かったよ。戦艦や宇宙空母等の大型艦や巡航艦や駆逐艦、フリゲートやコルベット。果ては小型ミサイル艇まで、戦闘艇以外の操艦は上手かったよ」

「そちらの成績は優秀でしたの?」

「いや、これも優良か良好程度。どの船もそつなく操るが、特出したものがなかったからね。彼の成績はどこまでも平凡で、卒業時の成績も、確か中の中の上だったかな?それでもカシムラ君に目をつけていた教官は何人もいた筈だよ。私もその1人だが、私が現場に戻ってみたら既に除隊していた。しかも、その原因が宇宙軍幹部による汚職で、それに巻き込まれた結果だと知って愕然としたものだよ」

「まあ、クスクス・・・。でも、そんなことがあったからこそ、今のシンノスケ様があるのですね」


 懐かしそうに語るアレンバルとそれを楽しそうに聞くミリーナ。


 アレンバルがシンノスケに謝罪をするための密会?だった筈なのだが、いつの間にかアレンバルとミリーナの会話の方が長くなり、盛り上がってきている。

 周囲に溶け込んでいる警備兵とセリカ・クルーズ少佐の視線が冷たい。


「そんなわけで、私は士官学校の時からカシムラ君には目をつけていてね。今日もあわよくばカシムラ元大尉を引き戻そうと画策していたのだが・・・。どうやらそれは無理そうだな」

「そうですわ。シンノスケ様は今や私達にとってはなくてはならない方ですの。宇宙軍には返してあげませんのよ」


 アレンバルは頷くと立ち上がった。


「全く以てそのとおりのようだ。仕方ない、諦めるとするよ」


 アレンバル宇宙軍大将に対して直立の敬礼とカーテシーで見送るシンノスケとミリーナ。

 アレンバルも笑いながら答礼すると、踵を返して立ち去っていった。

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― 新着の感想 ―
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