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新たなる展望

 セイラの訓練から戻ったシンノスケは商会の皆を集めて今後の展望等について話し合うことにした。

 先ずはヤタガラス、フブキ、ツキカゲの3隻体制になったことによる編成だが、これはもう決まっている。


 強力なレーダーと電子戦装備、駆逐艦と同等の武装を持つヤタガラスはサイコウジ・インダストリーから好条件で提供された反面、基本的にシンノスケが運用するという制限が掛けられている。

 これは機密保持の観点もあるが、電子戦のノウハウ等、宇宙軍経験者でないと運用が困難であるので、自由商人の護衛艦勤務しか経験したことのないアンディや沿岸警備隊上がりのアッシュ達では条件を満たしていないからだ。

 フブキについても試作軍用艦ということもあり、ヤタガラスに次ぐ高性能艦で、船乗りとしての経験はともかく、カシムラ商会では先達のアンディが艦長を務めるべきだとも考えたが、以前にアンディに確認したとおり、アンディ自身が引き続き中古の輸送艦であるツキカゲの艦長を続けることを強く希望したので、必然的にフブキの艦長はアッシュに任せることになった。


 よって今後の基本編成は、商会の1番艦ヤタガラスの艦長がシンノスケで、1番艦クルーはマークス、ミリーナ、セイラ。

 2番艦フブキの艦長がアッシュ、2番艦クルーはメーティス、シオンが乗り込む。

 そして、3番艦ツキカゲ艦長がアンディ、3番艦クルーがエレン、マデリアということになった。

 全ての艦に操縦資格を有する乗組員が2人以上乗り込んでいるのでバランスの良い編成だ。

 無論、艦の点検整備や修理、契約上のデータ収集等の場合で艦の運用が出来ない時には柔軟に対応するが、基本編成は決まった。


 新編成が決まったところで次は内火艇の損失に対するグレンからの補償についてだが、今後はフブキの運用をアッシュに任せることにしたので、予算額を伝えた上でアッシュの希望を聞いてみることにする。


「そうねぇ、私達も3人のチームだし、脱出用シャトルが他にあるなら内火艇があっても持て余すわね。だったら内火艇格納庫を改造して医療設備が欲しいわね。知ってのとおり私は船医の資格を持っているし、外科手術なんかも出来るわ。全自動医療ユニットは高額だから無理でも、ちょっとした手術室を兼ねた設備があれば私の腕を振るうことも出来ると思うのよ。いざとなれば医療系の資格を持つミリーナや医療対応汎用型のマデリアもいるし、医療設備の充実は結構有効だと思うのよ」


 確かに、全自動医療ユニットは高額で予算オーバーだが、アッシュの言う設備なら予算内だ。

 宇宙空間での宇宙船同士の戦いだと『怪我人』が出る可能性は低いが、全く無いわけではないし、急病等による体調不良や事故による負傷者が出ないとも限らない。

 宇宙船には簡易的な医療ポッドが備えることが義務付けられているし、いざとなればコールドスリープでの保存療法もある。

 それでも、専門知識を有する医師の存在と設備があることは心強い。

 皆の満場一致でフブキに手術室を併設した医療設備を備えることが決定した。


「グレンさんからの賠償金を充てるとはいえ、安くない設備投資だからな。使用しないに越したことはないが、投資した分はしっかりと働いてくれよ」


 冗談で言うシンノスケにアッシュはウインクしながら答える。


「任せてちょうだい。病人や怪我人がいなくてもクルーの体調管理は船医の責務よ。それに、こんなに良い船を任されて、希望通りの医療設備を導入してくれたら私はもうフブキから離れられないわよ。逃げ出す時はフブキごと逃げるから心配しないでちょうだい」


 冗談で返すアッシュに皆が笑った。


 そして、商会としては今までどおり護衛業務や運送業務をこなしつつ、貿易にも力を入れることで今後の方針が決まる。

 旅客業務の案も出たが、人員と設備の面から快適な宇宙の旅を提供することは困難だということで、当面は今までどおり、緊急時の人員輸送に留めることにし、旅客事業にまで拡大しないということになった。


 

 フブキに医療設備を増設することが決まったが、そもそも医療設備を購入する伝手がない。

 サイコウジ・インダストリーのハンクスに問い合わせてみたが、色よい返事はもらえなかった。


『残念ながらこのコロニーにはサイコウジ・メディカルの支店はありませんし、サイコウジ・メディカルも通常の病院等を対象とした事業が主ですからね。宇宙船用の医療設備はあまり充実していないんですよ。専用のユニットもあるにはあるんですが、医療設備設置が大前提の宇宙船用のユニットなんで、フブキの格納庫を改造して搭載するのは難しいかもしれません』


 理想を言えば規格の合うサイコウジ製のユニットが欲しかったがなかなか難しいらしい。


「そうしますと、他のメーカーで探すしかありませんね」


 通信モニターの先にいるハンクスも渋い顔で頷く。

 

「私は別に拘りは無いからどこのメーカーのものでも構わないわよ」


 シンノスケの横に座るアッシュの意見を聞いたハンクスが手元の端末を操作する。


『そうですね・・・サイコウジカンパニー傘下ではありませんが、ホリーズ・メディカルシステムのユニットならば調整出来ると思います』


 ハンクスから送られてきたデータを確認するシンノスケとアッシュ。


「ホリーズ・メディカルシステムなんて聞いたことないわね・・・」

『起業して5年の新興メーカーですが、艦船の医療設備を主力としており、当社との取引実績もあります。特筆すべきセールスポイントはありませんが、変に冒険をしない堅実な企業ですね』


 ユニットの性能や設備はシンノスケには分からないが、アッシュは真剣な目でデータを確認している。


「そうね・・・各種検査設備は必要最低限は備えているし、手術設備は結構充実しているわね。実際に見てみないと決められないけど、データだけ見ても悪くないと思うわ」


 結局、実際に見てみる必要があるということで、明日にでもハンクスとアッシュでホリーズ・メディカルシステムに出向いて現物を確認することになった。


 新たな方針が決まれば休んでいる暇はない。

 シンノスケは自由商船組合に向かった。

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