破滅と決着
シンノスケが蹴り飛ばした机はラングリットの体に当たり、シンノスケに向けられていたブラスターの銃口が逸れ、取調室の照明を撃ち抜いた。
同時に飛び出したシンノスケがラングリットに体当たりをし、ラングリットは廊下にまで飛ばされ壁に叩きつけられる。
だが、シンノスケの反撃もここまでだった。
ラングリット以外にその場にいるのは軍警察隊だ。
不意を突かれたとはいえ、直ぐに反応し、シンノスケは即座に取り押さえられた。
うつ伏せに押さえつけられて顔面を蹴られ、鼻と口から血が噴き出す。
さらに首筋を踏みつけられ、身動きが出来ない。
ラングリットは立ち上がるとブラスターを拾い、再びシンノスケに銃口を向けた。
「無駄な足掻きだったな。今度こそおしまいだ」
圧倒的優位な状況にありながら、また余計な事を言い出すラングリット。
「おしまいなのは貴様の方だ。今のうちに銃を捨てた方が身のためだぞ!」
シンノスケは口の中の血と共に吐き捨てた。
「ふん、強がりもここまでだ!」
小悪党のセオリーどおりの無駄な発言。
これが無ければ少なくともシンノスケを始末することはできた筈だ。
しかし、ラングリットは自らの浅慮によりその機会を永遠に失った。
「銃を捨てろ。警告はしたぞ!」
シンノスケを見下ろすラングリットは勝ち誇って真に受けない。
「終わりだ・・」
バシュ!!
「ぐわっ!・・えっ?・・・ぎゃあっ!!」
ブラスターの発射音と共に肩を撃ち抜かれるラングリット。
そして、ブラスターを手放す前に懐に飛び込んできたマデリアに右手首から先を斬り飛ばされた。
手首を押さえて蹲ろうとするラングリットに渾身の手加減をしたマークスが体当たりし、マデリアは身を翻すとシンノスケを押さえつけている隊員の顔面に膝蹴りを食らわせ、もう1人のシンノスケの顔を蹴った挙げ句に首筋を踏みつけていた隊員の膝から下を斬り飛ばす。
周囲にいた隊員が反撃に転じようとするが、勝敗は既に明確だ。
マデリアはシンノスケを庇うようにコンバットナイフを構えて隊員達の前に立ち塞がり、マークスが隊員達にブラスターを向ける。
「動くな!貴方達の不法行為は軍情報部でも把握している。これ以上の抵抗は貴方達の立場を更に悪くするだけです。速やかに武装解除しなさい!」
マークスの警告と同時にセリカ・クルーズ少佐率いる情報部即応部隊と軍警察特殊部隊が分署内に突入して来た。
あまりにも展開が早すぎる。
クルーズ少佐が予め手配して、付近に部隊を待機させていたのだろう。
「情報部です。ラングリット准将、貴官を逮捕します。取り敢えずの罪状は軍の物資等を横流しした横領、人身売買に係る人身保護法違反です」
言いながら司法裁判所発付の逮捕状を示すクルーズ少佐。
「・・・」
「その他にも色々とあるかと思いますが、逮捕状の請求手続きが間に合いませんでしたので、それらは再逮捕という手順を踏ませていただきます。ラングリット准将、逮捕された貴方には黙秘する権利があります。情報部の取り調べにどこまで黙秘できるか分かりませんが、貴方にはその権利があります」
クルーズ少佐は通告しながらマデリアに助け起こされているシンノスケを見た。
「この場にいる軍警察隊員は全員逮捕監禁及び傷害容疑の現行犯、准将はおまけでそれらの件の教唆犯を付けておきましょう」
「くそっ!私はこのままでは終わらんぞ!」
どこまでも悪党のセオリーどおりに吐き捨てるラングリットの言葉を涼しい笑みで受け止めるクルーズ少佐。
しかし、その目線は背筋が凍る程に冷たい。
「そうだ、ちょっとした雑談なんですが。実は先日来6325恒星連合国から不審な旅行者が複数名、このコロニーに入国しています。本来なら入国拒否としたいところでしたが、目的が旅行ということでそのまま泳がせています。監視に当っている部下の報告によれば観光もせずに熱心に何かを探っているようですが、何が目的なんですかねぇ?・・・そうだ、准将の処遇なんですが、警戒厳重な軍警察本部では准将の面子もありましょう。ご希望でしたらこちらの分署に勾留してあげましょうか?まあ、こちらだと、警戒の手は薄くなってしまい、不慮の事態が発生する可能性がありますけど。何なら直ぐに釈放して、任意での在宅捜査に切り替えましょうか?」
「ひっ・・・・。こっ、この、女狐がっ!」
「フフフッ。准将には何度辛酸をなめさせられたか分かりませんからね。情報部の女狐として、ようやく汚名返上とさせていただきましたよ」
クルーズ少佐は部下達に指示を出し、ラングリット准将達を連行させると手錠を外されて自由を取り戻したシンノスケを見た。
「カシムラさん、ご協力に感謝します。色々と時間が掛かってしまい申し訳ありませんでした。・・・しかし、酷い怪我ですね。ご希望なら軍病院で治療とメディカルチェックを受けられますか?勿論費用は軍が持ちますよ」
シンノスケは首を振る。
「止めておきます。軍に借りを作りたくありません」
「そうですか。ならドックまでお送りしましょう」
「それも結構です。軍との関わり合いはもうこりごりです」
「そうですか。でも、カシムラさんが望まずとも、今後もお会いする機会はあると思いますよ。今後ともよろしくお願いしますね」
「勘弁してください・・・」
シンノスケはそう言い残すとマークスとマデリアに支えられて歩き出す。
「マスター、体調に異変が認められます。私かマデリアが抱えあげて運びましょうか?」
「止めてくれ。お前達にお姫様抱っこなんかされてたまるか」
こうしてシンノスケとラングリットの長きに渡る因縁?は決着した。
シンノスケ達が分署を出ると、そこで待っていたのはセイラとミリーナ。
ミリーナの所有する車で迎えに来てくれたようだ。
「シンノスケさん。よかった・・・」
「シンノスケ様、ご無事で何よりですわ」
2人を見てシンノスケは頷いた。
「皆にも心配かけたな」
「心配なんかしていませんわ。でも、体の方は?お顔の怪我は?」
「これは大したことない。それよりも腹が減った・・・いや、喉が渇いた」
「そうだろうと思いまして、持ってきましたわ」
そう言うとミリーナは1本のボトルを差し出した。
中に入っている毒々しい紫色の液体はシンノスケか愛飲している合成フルーツ茶。
しかも、シンノスケの体調を気遣って常温のものだ。
「・・・ミリーナすまん、今はこれよりも普通の水が飲みたい」
「えっ?・・・あれ?」
明日から「職業選択の自由シリーズ」新作の投稿を開始します。
私も初めての、本作との2作同時進行となりますが、本作の完結までは本作をメインとして進めていきます。
新作の方は思いついた構想を忘れないように書き留めていたもので、その投稿ペースはかなりゆっくりになると思います。
よかったらのぞいてみてください。




