シンノスケ拘束
「貴方達を逮捕する罪状については、宇宙軍艦艇に対する不当な攻撃について、宇宙軍規則にある『外部からの攻撃に対する対応』が適用されます」
身分証と宇宙軍警察本部発行の拘引状(逮捕状ではない)を示す軍警察隊員。
軍内部における犯罪捜査と綱紀粛正を担う軍警察隊は基本的に軍以外の者、つまり一般人に対する捜査権を有していない。
しかし、何事にも例外はある。
今回はその例外規定を適用してきたのだろうが、この例外規定の適用についてかなり強引に進めたのだろう。
司法裁判所の逮捕状ではなく、軍内部で容疑者の身柄を一時的に拘束する勾引状を持ってきたのが何よりの証拠だ。
加えて、フブキを証拠品として差押えるための令状も持ってきていないが、当然のことだが司法裁判所から令状の発布を受けるだけの材料が無かったのだろう。
少なくとも、今のところはフブキを不当に押収される心配はなさそうだ。
ここまでは概ねシンノスケの予想通りだが、だからといって言われるがままに従うつもりはない。
「概ね了解しました。私は貴方達の指示に従いましょう。ただ、彼女達を含め、私の艦の他のクルーの身柄を拘束することは承諾できません!」
低い声で返答するシンノスケだが、隊員達も動揺する素振りはない。
「そうは言われましても、民間船が宇宙軍の艦艇を攻撃し、乗組員を死亡させた重大犯罪です。彼女達を含めて関係者の身柄を拘束するのは当然のことです」
隊員の言葉にシンノスケは不敵な笑みを浮かべる。
但し、その目は笑っていない。
「ごじゃっ・・【銀河標準語訳:いい加減なこ・・・】いや、馬鹿なことを言うな。軍警察隊の捜査権は軍内部の人員にしか及ばないが、事案によっては外部の人間にも適用できるという例外規定を使ったのだろう?だとしたら私を拘束するのも、軍人のそれに準じなければいけない筈だ。ならば、宇宙軍規則の『任務中の艦艇の不法事案等はその行為が艦長の命において行われた場合には、その責任は全て艦長が負うものとする』が適用される筈であり、よって本件で拘束できるのは私だけだ!」
「抵抗するならば実力行使も厭わない。我々はそのように命令を受けている」
シンノスケは男達の背後に目をやる。
案の定、この状況を監視しているようだ。
「私は何の抵抗もしていないし、彼女達も同様だ。貴官等がこれ以上の横紙破りをするという暴挙に出るならば、彼女達が黙っていないのではないか?」
そう言って隊員達の背後を指差せば、その指の先には1台の車が停まっており、その車内からは情報部のセリカ・クルーズ少佐ともう1人、情報部員だろう中年の男がこちらの様子を覗っている。
情報部がその姿を隠そうともせずに監視していることに隊員等の様子が一変した。
今のところ少佐達がこの状況に介入してくるつもりは無いようだが、軍警察隊の背後で誰が糸を引いているのかを考えれば少佐等が何を望んでいるのかは想像に容易いし、その狙いを外れた事態に発展すれば、その時には迷わずに介入してくるつもりだろう。
そうなれば窮地に立たされるのは隊員等と、その背後にいる者の方だ。
少佐もこの状況を最大の好機と捉えているのだろうし、シンノスケもいい加減にけりをつけるつもりでいるので、現時点において少佐とシンノスケの狙いは一致している。
一方の軍警察隊もこれ以上の状況悪化は望んでいないのだろう。
黒幕の地位と影響力を考えれば規律に厳しい軍警察隊といえどもその指示には従わざるを得ないのだろうが、その立場上必要以上に深入りしたくない筈だ。
そうなると、この場での双方の着地点は1つだけ。
「分かりました。規則に従いカシムラさんのみを逮捕拘束させていただく。抵抗することなく同行いただこう」
シンノスケは振り返ると携帯している拳銃とブラスターをミリーナに差し出した。
「取り上げられて傷でもつけられたくない。預かっておいてくれ」
「シンノスケ様・・・」
2丁の銃を両手で受け取りながらシンノスケを見上げるミリーナ。
ミリーナの背後ではセイラも心配そうな表情を浮かべている。
そんな2人を交互に見てシンノスケは頷く。
「じゃあ、行ってくる」
言い残したシンノスケは手錠をかけられ、隊員達に囲まれて連行されていった。
その様子を無言で見送るミリーナとセイラだが、その目は怒りに満ちている。
「今のところはシンノスケ様の言うとおり大人しくしていますけど、私の我慢にも限度がありますわよ」
「はい。私だってとても怒っています!」
気がつくとクルーズ少佐等の姿も消えている。
「私達には説明することも、何かを期待することも無いようですわね。だったら私達も好きにさせてもらいましょう。とりあえずは組合への報告ですわね」
「はい。行きましょう」
2人は自由商船組合へと向かった。




