エンジェルⅤ制圧作戦2
シンノスケとマークスは船内通路をブリッジに向けて走る。
マークスは走りながらそこかしこに設置されている監視カメラを破壊し、敵の目を潰していく。
「マスター、間もなくブリッジです。警戒してください」
「了解した。マークス、向こうの戦力はどの程度残っていると思う?」
「今までに対処したのは最初の突入時に4人、その後7人の増員。計11人ですが、この人数だけでも貨物船の乗組員としては多すぎます。人身売買を目的とした犯罪船であることを考慮し、このクラスの船の一般的なブリッジのサイズから、残りは多くても5、6人と判断します」
「まあ、そうだろうな」
マークスの判断はシンノスケのそれと合致する。
となれば、あとはブリッジを制圧すればほぼ終わりで間違いないだろう。
「状況を鑑みまして、速攻での突入が最善と判断します。5、6人なら私1人でも十分制圧可能です」
「バカを言うな。お前1人に突入なんかさせるものか」
「マスター・・・」
「俺とマークスは一心同体。俺は大盾を構えて突入するお前の後ろからついていくぞ」
「・・・了解」
2人はブリッジの入口の前にまで来ると、マークスが閉ざされた扉に破壊用の爆薬を取り付け、大盾を構えて起爆スイッチを入れて扉を吹き飛ばした。
間髪入れずにシンノスケが音響閃光弾をブリッジに放り込む。
バンッ!!
音響閃光弾の炸裂と同時に大盾を構えたマークスが、そしてマークスの背後に続いてシンノスケがブリッジに突入する。
「対象数5です!」
「警告する!我々は犯罪鎮圧を目的とし・・」
シュバッ!
シュバッ、シュバッ!
警告するシンノスケの声をブラスターの射撃音が掻き消す。
「警告する!抵抗するな!」
シンノスケに続いてマークスが大音量で警告するが、マークスもシンノスケも敵が警告に従うとは思っていないし、音響閃光弾の効果で敵の狙いが定まらない好機を逃すつもりもない。
「マスターの正面から右前2時の方向に2人、左前方に3人が展開」
「了!」
マークスが大盾で銃撃を防いでいる背後からシンノスケが右前方に向けてブラスターサブマシンガンの引き金を引く。
シュババババババッ!
「ギャッ!」
「グッ!」
足元を掃くように掃射した結果、脚を撃ち抜かれた2人が倒れた。
残る3人がブリッジの計器台や座席の影に隠れようとするが、マークスはそれを許さない。
大盾を構えたまま突進すると1人に大盾ごと体当たりして吹き飛ばし、もう1人を殴りつける。
手加減したとはいえ軍用ドールに体当たりされたり、殴られればただでは済まない。
それぞれの男は意識を失って倒れた。
残りは1人。
咄嗟に勝ち目なしと判断して逃走を図ろうと出口に向けて駆け出したその選択に間違いなかったが、シンノスケが見逃す筈がない。
「逃すかっ!・・・っと、あ、あれっ?」
逃走を図る男にブラスターサブマシンガンを向けようとしたシンノスケだが、即座に狙いを外して銃口を上に向けた。
男は逃走を諦め、武器を捨てて両手を挙げ、降参の意思を示して立ち尽くしている。
その眉間にはミリーナのサーベルの切っ先が突きつけられ、背後に回り込んだマデリアのコンバットナイフが喉元に当てられていた。
「ちょっと遅くなってしまいましたわね、マデリア」
「はい」
シンノスケ達を追ってきたミリーナとマデリアと、互いに顔を見合わせるシンノスケとマークス。
「・・・いや、遅くなったも何も・・・むしろ早すぎだ。なあ、マークス」
「・・・はい」
こうしてブリッジを制圧した結果、エンジェルⅤの制圧は完了した。
正に速攻、拍子抜けする程にあっさりと終結したが、これはある意味当然の結果だ。
犯罪船エンジェルⅤの乗組員は16名。
全員が武装していたが、所詮は犯罪者のゴロツキに過ぎず、高度な訓練を受けたわけではない。
一方のシンノスケ達は圧倒的に少ない4人での突入だったが、その面子は元宇宙軍士官で護衛艦乗りとしての経験豊富のシンノスケに、帝国貴族としての剣技を会得している上に覚醒能力を有するミリーナ。
その2人に軍用ドールのマークスと、汎用型超高性能ドールのマデリアが加わるとなれば、過剰戦力といっても過言ではない。
この程度のゴロツキ相手なら、マークスとマデリアの2人、いやどちらか1人で十分だ。
とはいえ、マークスとマデリアだけでは制圧後のスムーズな対応が出来ないからシンノスケとミリーナが乗り込む必要があった。
そこで、シンノスケは自分の役割を果たすことにし、マークスとミリーナの2人を被害者の保護と説明に向かわせるとシンノスケ自身は拘束した男達の前に立つ。
「この船が人身売買を目的とした犯罪船であることは特定している。よって私は自由商人護衛艦艦長の責務と権限の下で本船に強行接舷し、強制力をもって貴官達を拘束した。これら我々の行動は法的根拠に基づくものである。但し、私の役割はここまでで、貴官等の身柄と本船をはじめとした各種証拠。そして本船に乗せられている被害者達はこちらに向かっている沿岸警備隊に引き渡すことになる。よって貴官等は我々に対して何の弁明をする必要はないし、我々も聞くつもりはない」
坦々と告知するシンノスケとエンジェルⅤのマスターコンピュータに侵入して人身売買についての確たる証拠を確保するマデリア。
これで作戦は全て完了だ。
「沿岸警備隊の到着までまだ時間があるし・・・まあ、ちょっとしたサービスだ。負傷者の治療をしてやろう」
シンノスケは負傷者の治療をアッシュに任せるとフブキに戻った。
あとは沿岸警備隊の到着を待つだけだ。




