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エンジェルⅤ制圧作戦1

 イルーク恒星州自由商船組合所属の貨物船エンジェルⅤに収容されている避難民は旧ダムラ星団公国からの脱出民ばかり。

 それも、国の要職に就いていた者や富裕層ではなく、一般市民ばかりだ。


 元々アクネリア銀河連邦政府は今回の旧ダムラ星団公国からの避難民受け入れについて特に制限を設けていなかったのだが、当然ながら優先順位はある。

 先ず、最優先は旧ダムラ星団公国に滞在していて取り残されたアクネリア銀河連邦の国民であり、次に艦船の派遣が間に合わなかった国の依頼を受けたその国の国民だ。

 依頼のあった他国民をアクネリアの船で脱出させる場合には依頼をした国がその費用を負担することになっているし、人道的にも国際法的にも何ら問題はなく、リムリア銀河帝国もそれは容認している。


 そして、最後に旧ダムラ星団公国の国民で出国を希望する者なのだが、彼等は無条件で受け入れるというわけにはいかない。

 当然ながら犯罪被疑者として手配されている者等を受け入れるわけにはいかないし、リムリア銀河帝国が特に名指しで出国を禁止している者も不可能だ。

 そして、脱出のための費用を支払う後ろ盾が無い以上、渡航費用は自己負担となる。

 尤も、これは表向きのことであり、現地で手配に当たっていた外務職員と派遣された船の船長等による人道的な判断と裁量でどうとでもなる問題であり、派遣された公的な輸送船や大規模な企業の船ならば多少の融通は利く。

 しかし、個人運行の自由商船は渡航費用を支払えない者を乗せるわけにはいかない。

 そんな中でエンジェルⅤに乗船したのは旧ダムラ星団公国からの脱出を希望する一般市民達だが、彼等をエンジェルⅤに斡旋したのは外務職員ではなく、エンジェルⅤと結託した地下ブローカーだった。

 地下ブローカーを経由して外務職員の目を誤魔化してエンジェルⅤに乗船した彼等は法外な費用を財産を掻き集めて捻出したり、場合によっては貸主を騙して借金をしてまで国を脱出しようとした者達だが、彼等はアクネリア銀河連邦に逃れ、そこで必要な手続きをするまでは出国した記録も無く、公式には存在しない中途半端な立場の者達だ。

 

 公式には存在せず、全ての財産を投げ打った後のない者、国に戻れば騙した貸主から命すら狙われる、後ろ暗い者達ばかり。

 彼等はそんな境遇に付け込まれ、騙された被害者だった。


「弱みに付け込む、まったく持って下衆の所業ですわ!シンノスケ様、さっさと悪党一味を縛り上げて官憲に引き渡しましょう!」


 自白した乗組員の治療をしながらもその内容を聞いたミリーナが憤慨する。


「まあ、そうだな。この船が重大犯罪に加担していることが分かったことだし作戦内容を変更しよう。アッシュ、これから我々の行動は自由商人護衛艦乗りの責務と権限で犯罪の鎮圧と被害者救助に移行するので各種手配と記録を頼む」

『了解したわ。パイレーツキラーにも通達しておくわよ』


 シンノスケはフブキに残っているアッシュに救難信号の他に戦闘信号を発信することを指示すると、マークスとマデリアに指示して捕えた乗組員を連絡用通路に放り込んで扉をロックした。


「それでは、これからブリッジに向かって船自体を制圧する」


 艦首にあるブリッジに向かおうとするシンノスケだが、マークスがそれを遮った。


「マスター、後方隔壁扉の先から新手が7人、こちらに向かっています」


 マデリアも同様に検知しているようで、頭の上のうさ耳センサーが隔壁の方向を向いており、片手にコンバットナイフ、もう片手にブラスターを構えて警戒している。

 直ぐにマークスとマデリアからグラスモニターにデータが送られてきた。

 確かに連絡通路を接続した際に閉じられたであろう隔壁の先に複数の反応があり、直ぐにでも飛び込んできそうな様子だ。


「なら、先にそっちを片付けるか。マークス、前に出て・・・」

「お待ち下さいシンノスケ様。この程度の人数ならば私とマデリアで十分ですわ。ここは私達に任せて先に行ってくださいまし!」


 さらりとアクネリア宇宙軍非公式軍規第1条第2号に違反する発言を放つミリーナだが、あまりにも自信に満ちたその様子は不吉な旗を立てているように見えない。


「しかし、危険だぞ。皆で対処するべきだ」


 止めようとするシンノスケだが、ミリーナは首を降る。


「私もマデリアも近接、相手の懐に飛び込んでの戦闘が得意ですの。双方入り乱れての乱戦になれば援護の銃撃も簡単には出来ませんでしょ?危険だなんてそんな心配は不要ですからシンノスケ様達はブリッジの方をお願いします。その方が効率的ですわ」


 言うやいなやミリーナとマデリアは後方の隔壁扉に向かって駆け出した。


 犯罪者であり、武装しているとはいえ高度な訓練を受けたわけではないのだろう、不用意に隔壁扉を開いたところに2人が飛び込む。


「クソっ!」

・・シュバッ、シュバッ!


 一応は警戒して銃を構えていたのだろうがマデリアとミリーナの方が速い。

 わずか2射したところで肉迫されて超接近戦に持ち込まれる。

 

 マデリアの攻撃は全く容赦がない。

 コンバットナイフで手足の腱を斬り、至近距離からブラスターで肩を撃ち抜いて瞬く間に先頭にいた2人を無力化する。

 一方のミリーナはマデリアに一寸遅れたものの、ブラスターライフルを持つ男の懐に飛び込んで超高速で振動するサーベルでブラスターライフルを真っ二つに斬り飛ばすとサーベルの刃を翻して男の側頭部を叩き抜き、一撃で失神させた。

 2人は僅かな間に3人を無力化する。


「凄いな・・ものの2、3秒で3人」

「正確には2.6秒です。加えてミリーナさんはブラスターライフルのエネルギーパックを正確に避けて斬っていて暴発を防いでいます。接近戦ならばマスターでも敵わないでしょう」

「ああ、ミリーナの剣技を初めて見たが、おっかないな」

「マスター、ミリーナさんを怒らせないように願いますよ。私は2人の痴話喧嘩に巻き込まれるのは御免被ります」

「気をつけるよ・・・」


 女性2人の戦いに感心しながらも若干引いているシンノスケとマークス。


「さあ、シンノスケ様。ここは私達2人に任せて先に行ってくださいまし。私達もここを片付けたら直ぐに追いつきますわ!」


 最早非公式軍規違反など全く関係ない。

 ミリーナの言葉にシンノスケとマークスは互いに顔を見合わせる。


「2人に任せて行くか」

「そうですね。ここにマスターがいてもなんの役にも立ちません。私達は先にブリッジに向かいましょう。この様子では我々がブリッジを制圧する前に2人に追いつかれます。それどころか、2人に追い抜かれて先にブリッジを制圧される可能性が48.7パーセント・・・」

「急ごう、マークス!」

「はい、急ぎましょうマスター」


 シンノスケとマークスは駆け出した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 相手の総数分からないのに戦力の分散は… まあ船内で近接戦闘だと数で押すのが難しいし、大火力武器も使えないから大丈夫だろうけども
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