強行接舷
エンジェルⅤに突入するシンノスケ達は強行接舷に備えて接舷用通路の前で待機する。
『シンノスケ、準備はいい?パイレーツキラーが目標の足を止めたら強行接舷するわよ』
「了解。こちらの準備は完了している」
因みに、これからザニーのパイレーツキラーが行う目標の足を止めるための攻撃と、その後の強行接舷、船内突入はあくまでも救難活動というスタンスだ。
通常航路を逸脱し、救難活動信号を発している船からの通信や各種信号に返答せず、停船どころか進路を変えようとしないエンジェルⅤの行動は明らかに不審であるが、宇宙海賊等に襲われていることが明確でない以上は船か乗組員に何等かの異常が発生して航行不能になっていると想定し、事故遭遇船に対する救助活動として行動する規則であり、シンノスケ達はその規則に従って行動する。
無論、救助対象の船が宇宙海賊等に乗っ取られていた等の事件に巻き込まれていた場合には、乗員乗客の安全を確保するために速やかに船内制圧し、事件を鎮圧するという護衛艦の責務を全うすることになるのだ。
その不測の事態に備えるため、シンノスケ達は完全武装であり、先頭は大型シールドにブラスターアサルトライフルを装備したマークス。
サーベルを抜いたミリーナがマークスの背後に隠れるように続き、その後にブラスターサブマシンガンを持つシンノスケが控えて全体の指揮を執る。
殿は両手にコンバットナイフを持つマデリア。
シンノスケとミリーナはグラスモニターを内蔵したヘルメットを被り、胸部を守る軽装甲を装備しているが、マデリアは普段通りのエプロンドレスにウサ耳センサー装備のままだ。
軍用ジャケットに作業ズボンのマークス、制服に軽装甲のシンノスケとミリーナに比べてマデリアの存在感と場違い感が半端ない。
しかも、エプロンドレスの袖やスカートの中等に様々な種類の武器を多数隠し持っていて、その凶悪度は抜群だ。
突入準備は整った。
「おら〜っ!停船しないとエンジン撃ち抜くぞ。てめー等に何が起きてるのか知らないが、救助に行くから指示に従えよっ!」
ザニーのパイレーツキラーがエンジェルⅤのエンジンを狙って速射砲を発射しメインエンジンを撃ち抜く。
エンジェルⅤが急減速した。
アッシュはフブキをエンジェルⅤの右舷に接近させるとアンカーを打ち込んで固定する。
「シンノスケ、接舷用通路を叩き込むわよ、気を付けて!」
『了解!』
フブキの左舷側面から接舷用通路が伸びるとエンジェルⅤの船体を破壊して船内への突入口が確保された。
シンノスケ達はマークスを先頭にエンジェルⅤへの突入を開始する。
連絡通路の扉が開かれるとエンジェルⅤ側から激しい銃撃が浴びせられた。
シンノスケ達は銃撃を大盾で防ぐマークスの背後に隠れる。
「サリウス恒星州自由商船組合所属の護衛艦フブキの艦長シンノスケ・カシムラだ!我々は救助活動を目的として貴船に接舷した。攻撃を止めて状況を報告せよ!警告1回目!」
シンノスケに代わり音声音量を大にしたマークスが呼び掛けるが、銃撃が止む様子はない。
「警告2回目!我々は救助活動を目的としている。攻撃を止めないならば法と規則に従って強制力をもって制圧する!」
マークスが繰り返す中、シンノスケはマークスの腰に装着されているポーチからグレネードを取り出すと背後に控えるマデリアに目配せをする。
マデリアが無表情で頷く。
「最終警告!攻撃を止めろ、従わなければ強制力を行使する!」
端的に、明確な最後の警告が発せられた。
グレネードのピンを抜き、信管のスイッチを入れたシンノスケはマークスの背中を叩くと同時にマークスの目の前にグレネードを放り投げる。
マークスは目の前にトスされたグレネードをキャッチするとエンジェルⅤの通路に向かって投げつけた。
マークスの正確な狙いにより投げ込まれたグレネードは通路の側壁で跳ね返ると銃撃者の背後の足下、咄嗟に蹴り返したり、拾って投げ返せない絶妙な位置に転がる。
・・・バンッ!!
次の瞬間、激しい閃光と炸裂音が響き渡った。
非殺傷の音響閃光弾だ。
銃撃が止んだ一瞬の隙を突いてシンノスケの肩を踏み台にしてマークスの頭上を飛び越えたマデリアがエンジェルⅤの船内に飛び込む。
「何だっ、ぐわっ!」
シュバッ!・・・ダンッ!
「・・クソッ・・速いっ!」
バタンッ・・シュババッ・・・シュバッ!
「ギャッ・・・」
何かが叩きつけられるような鈍い音と、激しい銃撃音。
それも直ぐに止んだ。
「ご主人様、4名制圧。クリアリング完了しました」
マデリアに促されて船内に踏み込むシンノスケ達。
通路には意識を失って倒れている男が3人、意識はあるもののうつ伏せに倒されてマデリアの膝を背中に押し当てられて押さえつけられ、口にナイフの背を押し込まれて苦悶の表情を浮かべる男が1人。
どの男も足や腕の腱を切られている。
殺すつもりは無いが、容赦するつもりも無かったようだ。
「ミリーナ、頼む」
「かしこまりましたわ」
シンノスケに止血ジェルを渡されたミリーナはマデリアに斬られた男達の応急手当を始めた。
制圧された男達を見れば、揃いの制服を着ている。
宇宙海賊等ではなくエンジェルⅤの乗組員のようだ。
周囲を見回せば、通路の天井に備え付けられた船内監視用のカメラに投げナイフが突き刺さって火花をあげている。
男達のついでにマデリアが無力化したのだろう。
シンノスケはマデリアに押さえつけられている男を見下ろした。
「さて、時間が無いから単刀直入に質問する。貴様等は何が目的で避難民を連れてこの宙域を航行していた?正当な理由があるなら説明しろ」
「・・・・」
マデリアが男の口からナイフを外すが、男はシンノスケから視線を外して無言のままだ。
「その態度だけでこのエンジェルⅤが遭難船でなく何等かの犯罪に加担していることが分かるが、もう1度だけ質問する。貴様等の目的は何だ?」
「・・・・」
男は頑なに答えようとしない。
「シンノスケ様、こちらは終わりました。あとはそちらの方だけですわ」
他の3人の応急手当を終えたミリーナがマデリアに押さえつけられている男の傍らに膝をつく。
男の傷を見れば、右足首の腱を斬られているが、よほど上手く斬ったのか出血量は然程でもなく、緊急性は無いどころか、放っておいても問題なさそうだ。
無論、適切な治療をしなければ歩行機能に障害が残るだろうが、それでも急ぐ必要はない。
「治療するにも、こうも反抗的な態度ではな・・・。わざわざ治療する気も失せる」
冷たい目で男を見下ろすシンノスケの真意を汲んだミリーナが話を合わせ始める。
「そうは仰られましても、急がないと手遅れになってしまいますわよ」
「まあ、この出血量だと、もってあと10分ってとこか。そろそろ足の感覚も薄れてきているんじゃないか?(嘘)」
シンノスケの言葉に男は初めてシンノスケを見て、動揺の表情を見せた。
「だったら急ぎませんと。手遅れになると仮に救命できても足を切断する必要になりますの(大嘘)」
「しかし、こんな奴に貴重な薬品を使うより、他の奴に使って協力を仰いだ方が良さそうだけどな(ちょっと本心)」
「そんな非道いことを言って!私が何を言っても聞いてくれない。シンノスケ様のそういうところ、キライですのよ(超大嘘)」
そんなシンノスケとミリーナの茶番を見せられるマークス。
(私は何を見せられているのでしょうか・・・)
呆れるマークスだが、それが茶番だと知らない男の心が折れた。
「・・・分かった、言うから助けてくれ。俺達の目的は取引・・・人身取引だ」
コミカライズの件ですが、関係各所のご尽力により順調に進行中です。
改めて進展がありましたらまたご報告します。




