見えない敵
ミリーナとセイラの警告と同時にフブキを横転させたシンノスケ。
艦の防御システムからの警告は発せられていないにもかかわらず、フブキの真下方向から放たれたビームがフブキを掠めた。
「真下から!砲撃ポイントは特定できたか?」
「いえ、砲撃の瞬間の反応だけで、敵船の位置は特定できません」
「私にも分かりませんわ」
フブキのレーダーを含めてあらゆる索敵装置でも敵船を補足できない。
「チッ!まさか、ステルスかっ!」
「砲撃来ます!下方7時の方向」
再びの砲撃をシンノスケは船体を横滑りさせながら躱す。
「ステルス艦だと色々とマズい状況だが・・・仕方ない。本艦は正体不明の敵船から警告もなしに先制攻撃を受けたことに正当防衛が成立した。交戦信号を発信、火器管制システムロック解除。自衛のための戦闘を開始する」
シンノスケはフブキを横転させると同時に船体を捻らせて艦首を下方に向けた。
敵船は2回目の砲撃地点から既に移動しているだろうが、そのセオリーに従った行動に、シンノスケの経験と勘を加味して敵船の現在位置にアタリをつける。
照準もつけられない、敵船が居ると思う空間に主砲を向けた。
「シンノスケ様、今ですわ!」
ミリーナの予知とシンノスケの狙いが合致する。
シンノスケは主砲のトリガーを引いた。
敵船から放たれたビームとフブキの主砲のビームが交錯する。
直後、敵船のビームがフブキの左舷を掠め、フブキが主砲を放った先の空間で閃光が走った。
フブキの砲撃の直撃を受けた敵船が爆散した光だ。
「本艦の砲撃が命中、敵船の反応をキャッチしましたが・・・敵船は爆散、轟沈しました」
セイラの報告にシンノスケは渋い顔で頷く。
「了解。・・・やっちまった、これは面倒なことになるぞ」
シンノスケの呟きにセイラとミリーナは首を傾げるが、シンノスケ自身が直ぐにエンジェルⅤの追跡を再開したので2人もシンノスケに問うことはしなかった。
思いがけない攻撃を受け、足止めをくらったフブキだったが、エンジェルⅤをロストしたりはせず、若干引き離されたものの、エンジェルⅤを捕捉したままだ。
「エンジェルⅤの行動に変化なし。再三に渡る本艦の呼び掛けにも返答ありません」
「了解。エンジェルⅤとの距離を詰める」
シンノスケはフブキを加速させたとき、セラが叫んだ。
「レーダーに新たな反応!方位8+1、距離320+12A。高速です!」
「了解、航行識別波は出しているか?」
「はい、識別波と救難活動信号を確認。・・・あっ、ザニーさんのパイレーツキラーです。通信、繋ぎます」
セイラはパイレーツキラーからの通信をスピーカーに繋ぐ。
『すまねえシンノスケ。見当違いの宙域に向かっちまって、遅くなっちまった。そっちは何やら変なやつに絡まれて面倒なことになっているな』
「ザニーさん、本艦の戦闘の状況を傍受してくれていましたか?」
『おうっ、心配するな、バッチリ記録しているぜ。でも、今はそんなことよりエンジェルⅤの方が先決だ。これ以上面倒なことになる前に片付けた方がいいぜ』
「了解。本艦はエンジェルⅤに接近して有視界による信号で停船を促します。パイレーツキラーは本艦の援護と周辺警戒をお願いします」
『了解だ!』
シンノスケはフブキをエンジェルⅤに接近させ、右舷側に位置を取って一定の距離を保つ。
標識灯による発光信号でフブキが救難活動中であることと、エンジェルⅤに対する停船指示を発する。
「発光信号にも反応なし。信号射撃を行う」
シンノスケはガトリング砲を操作するとエンジェルⅤの進路先の空間に向けた。
攻撃ではない。
発光信号も信号射撃も国際法に則った停船指示だ。
「エンジェルⅤに通告を行う。セラ、全周波通信を開いてくれ」
「了解。どうぞ」
「本艦左舷を航行中のエンジェルⅤに通告する。本艦はアクネリア銀河連邦サリウス恒星州自由商船組合所属の護衛艦フブキ。旅客船スペース・ダックからの通報を受けて貴船を追跡中である。貴船は避難民を乗せたまま通常航路を外れて航行するという、危険かつ不審な行動をしている。本艦は国際航宙法に定められた護衛艦の責務として貴船に対する救難活動を行う。直ちに本艦の指示に従い停船せよ。これより信号射撃を行う、繰り返し通告する、直ちに停船せよ」
定められた通告を終えたシンノスケはトリガーを引いた。
約2秒間の射撃を3回。
国際法に定められた停船信号射撃だ。
「エンジェルⅤ、通告に従いません。増速して逃走しようとしています」
「了解、最終警告を実施する。各クルーは予定どおり、強行接舷の準備をしておいてくれ。・・・護衛艦フブキからエンジェルⅤに警告する。貴船の行動は法に従って行動している本艦からの指示を無視して逃走を企てたものと判断する。繰り返し警告する、直ちに停船して本艦の指示に従え。従わないならば本艦はやむを得ず強行手段を選択し、貴船を強制的に停止させる。これが最後の警告だ、直ちに停船せよ!」
シンノスケの警告に呼応してザニーのパイレーツキラーも通信、発光、信号射撃による停船指示を行っている。
『サリウス恒星州自由商船組合所属の護衛艦パイレーツキラーだ。こっちの停船指示は法と規則に従った正当行為だ。おら、さっさと指示に従って停船しやがれ!さもないと力ずくで止めるぞ!』
但し、ザニーの警告はシンノスケのそれよりかなり荒っぽい。
「あくまでも無視するか、なら仕方ない。強行接舷、エンジェルⅤに突入する。ザニーさん、エンジェルⅤの足を止めてください。我々が強行突入します」
『了解、任せろ!』
エンジェルⅤに突入するマークス、マデリア、ミリーナの準備は既に完了している。
シンノスケはフブキの操縦をアッシュに任せて席を離れた。
「後は任せる」
「了解よ。怪我ならばいくらでも治療してあげるけど、いくら私でも死体は治せないから気をつけてね」
アッシュの冗談に聞こえない言葉にシンノスケは肩を竦めながらブリッジを出てマークス達と共に強行接舷に備える。




