行方不明船追跡
ツキカゲ、シールド艦と共に待機していた旅客船スペース・ダックはイルーク恒星州自由商船組合所属の中型旅客船だ。
リムリア銀河帝国領からの避難民脱出支援の仕事を請負い、避難民を乗せ、他の自由商船と帯同して国際宙域まで来たのだが、国際宙域を航行中に突如として帯同していた船が針路変更して行方不明になったということらしい。
『所在不明になったのは貨物船エンジェルⅤ、イルーク自由商船組合所属の商船ですが、私共も一緒に仕事をするのは初めてでして、国際宙域に脱出したところまでは順調だったのですが、突然通信を断絶し、進路を変えて飛び去ってしまったのです。本船も後を追おうとしたのですが、多くの避難民を乗せていますし、エンジェルⅤが向かった先が・・・』
スペース・ダックの船長から送られてきたデータを見れば、エンジェルⅤが向かった先は超重力帯のある危険宙域だ。
「エンジェルⅤに乗せていた避難民の内訳は?」
避難民をツキカゲに移乗させながらあらゆる事態に備えて準備を始めるシンノスケ。
『旧ダムラ星団公国からの避難民84名です。貨物船ということで、子供を含めて比較的体力のある若い人達を乗せています』
「それは、嫌な予感しかしないな」
『沿岸警備隊に通報してありますが、到着には時間が掛かりますし、下手に騒ぐと帝国の艦隊を呼び込むおそれがあります』
旧ダムラ星団公国からの避難民ということは、戦後の混乱と、法と規則の隙を突いた、言うならば脱法出国者だ。
アクネリア銀河連邦等の銀河国家に保護され、正規の手続きを経て初めて存在と地位を得られる者達であり、現時点では乗船名簿はあるが、国籍もあやふやな難民でしかない。
帝国の宇宙艦隊や沿岸警備隊なりが介入してくればエンジェルⅤに乗っている避難民達はただでは済まないだろう。
『俺達も怪しいと思ってな、ザニーがパイレーツキラーで後を追ったがエンジェルⅤを捕捉できるかどうか分からん』
ダグもシンノスケと同じ考えのようだ。
しかし、パイレーツキラーは確かに高速艇だが、小型であるが故にレーダーの索敵範囲はそう広くはない。
広大な宇宙空間で目的の船を発見できるかどうかは分からないのだ。
「了解した。エンジェルⅤが事件や事故に遭遇した可能性を考慮し、国際法に則り本艦もエンジェルⅤの追跡に移る。最悪の場合船内に突入しての救助活動の可能性もあるのでフブキとツキカゲの編成を変更する」
フブキでエンジェルⅤの追跡に当たるのはシンノスケ、マークス、ミリーナ、セイラ、マデリア、アッシュ、シオンの7人で、スペース・ダックに帯同するツキカゲはアンディ、エレン、メーティスの3人。
ツキカゲはフブキから移乗させた避難民を沿岸警備隊に引き渡してからフブキの支援のために後を追うことになる。
ダグのシールド艦はフブキと共に追跡に当たるが、フブキとでは艦の巡航速度に違いがあるのでフブキに帯同するのではなく、避難民を引き渡して引き返してくるツキカゲと同様に支援が目的だ。
「本艦は直ちにエンジェルⅤの後を追うが、事故や何者かに乗っ取られた可能性等、あらゆる事態を想定して行動する。場合によっては目標に強行接舷、突入する可能性があるが、その際には俺とマークス、マデリア、ミリーナの4人で突入する。アッシュはフブキに残って負傷者が出た場合に備えてもらい、セラとシオンも残って周辺警戒に当たってもらう」
段取りを整えたフブキは通常航路を離れ、エンジェルⅤを追った。
スペース・ダックの船長が説明したエンジェルⅤが航路を外れたポイントと、その後の予想進路の捜索はパイレーツキラーが向かったというので、そちらの支援はダグのシールド艦に任せ、フブキは目標が進路を変えたことを想定して別の宙域を捜索する。
操舵ハンドルを握るのはシンノスケだが、副操縦士席に座るミリーナは額の目を開いており、あらゆる手を使ってエンジェルⅤの後を追う。
現在進んでいる宙域を選んだのも、ミリーナが「明確に予知できませんが、このポイントが気になりますの」と指定したポイントと、シンノスケの経験と勘でなんとなく予測した目標の進路が一致したためだ。
「レーダーに反応。方位10+2、距離480±0(10時の方向、上方2度、距離480、定速で航行中)」
セイラがレーダー上に反応を捉えた。
シンノスケは即座に反応に向けて舵を切る。
「了解。航行識別波、救難信号等の発信はあるか?」
「あの、まだ遠過ぎるせいか受信できません」
「了解。元々発信していないんだろうな。まあ、こっちは正当性を示す必要があるから救難活動信号を発信しておいてくれ」
「了解しました。救難活動信号、発信します」
「それでは該船の後方から接近する。攻撃を仕掛けるわけじゃないから、通信による呼び掛けをしてくれ」
「了解しました。・・・こちらアクネリア銀河連邦サリウス恒星州自由商船組合所属の護衛艦フブキ。本艦前方を航行中の船は応答願います・・・」
セイラが呼び掛けを開始するが、目標からの返信は無く、各種識別波を出していないため、更に接近しないとエンジェルⅤであると特定できない。
フブキは速度を上げて目標の船に接近を試みた。
「該船までの距離350まで接近。該船はエンジェルⅤと判明。本艦からの呼び掛けに応じる素振りありません」
「了解、呼び掛けを続けてくれ。更に接近する」
近づけは近づく程シンノスケの悪い予想が現実味を帯びてくる。
「シンノスケ様、下ですわっ!」
「新たな反応!本艦直下、砲撃来ますっ!」
「くっそ!」
ミリーナとセイラが叫ぶのと同時にシンノスケは操舵ハンドルを切りながらフットペダルを蹴り込んだ。




