時間は黄金よりも貴重4
三度リムリア銀河帝国領内に向かい、目的のコロニーで避難民を収容したフブキ。
今回収容したのはセーレット王国とシーグル神聖国の避難民『等』と最後まで出国手続きと調整をしていた外務職員達、合計64人。
一緒に来た高速船は既にコロニーを離脱しており、フブキは本当に最後の最後の船だ。
「出航許可が下りました。本艦の出航以後、このコロニーの宇宙港は閉鎖されます」
「了解よ。じゃあ、出航するわね」
セイラの報告を受け、宇宙港から出航するフブキの操舵ハンドルを握るのはアッシュ。
シンノスケは外務職員と打ち合わせをしている。
セイラの計算どおり、今のままでは国外退去の期限までにリムリアの領域から離脱することが間に合わないおそれがあり、最悪の場合、リムリアの艦隊に拿捕される可能性もある状況だ。
「本当に間に合うか間に合わないか、ギリギリだな。アッシュ、セラが設定した航路を最大巡航速度で進んでくれ」
「任せてちょうだい。このフブキは私の操艦技術を発揮するのに申し分ない性能だし、セイラちゃんの航路設定も完璧。間に合わせて見せるわよ!」
フブキはリムリア銀河帝国領を脱するために速度を上げた。
帝国領内を駆け抜けるフブキだが、期限までに間に合うかどうかは未だに微妙なところだ。
加えて、帝国領の境界と、国外退去の期限が近づくにつれ、周辺宙域に帝国の艦船が集結しつつある。
主に船体を白色に塗装した艦船が多く、一部黒色の艦船が混ざっている。
「これは帝国の白薔薇艦隊と、黒薔薇艦隊の船も混ざっているわね。どちらも帝国皇室の私兵艦隊だけど、精強な艦隊よ」
アッシュの言葉にシンノスケも頷く。
「たしかに、たかだか護衛艦1隻をマークするのに統率がしっかりしている。たった1隻が相手でも油断してくれる様子はないな」
「逆に見れば、獲物が1隻しかいないから絶対に逃さないって表れかもしれないわね。・・・でも、ちょっと妙よね」
アッシュが首を傾げる。
「何がだ?」
「ブラック・ローズ、黒薔薇艦隊はダムラ星団公国侵攻には投入されていなくて、帝都防衛に当たっていた筈よ。その黒薔薇艦隊の船がこんなとこに出張って来ているなんて、ちょっと変よね」
確かに、既に終結した戦いで、戦力が足りないわけでもないのに、帝都防衛に当たらせていた艦隊をわざわざ出撃させる理由が分からない。
確かに気になる点ではあるが、今のシンノスケ達にはもっと重要なことがある。
期限までに帝国の領域外に退去しなければならないのだ。
「帝国の艦船から通信が入っています」
通信、航行管制のセイラが帝国艦からの通信をブリッジのスピーカーに繋ぐ。
『こちらリムリア銀河帝国皇室直衛、白薔薇艦隊。航行中のアクネリア銀河連邦船籍の護衛艦に通告する。帝国の領域外への退去の期限はあと4時間だ。退去が間に合わなければ我々は強制的に貴艦を拿捕する。もしも間に合わないと判断するならば早急に投降しろ。乗組員の身の安全は保証する』
通信を聞いたシンノスケとアッシュは互いにニヤリと悪い表情の笑みを浮かべる。
「あんなこと言ってるけど、どうするの?」
「まともに取り合う必要はないな」
「なら、何か言い返してあげる?」
シンノスケは首を振る。
「変に挑発して間に合わなかったら元も子もないから無視を決め込もう。余計なことは言わず、我々の意思は行動で示そう。・・・本艦の今の速度は?」
「余力を残して、巡航可能な最高速度の70パーセントよ。もっと上げる?」
「そうだな、80、いや85パーセントまで上げて五月蝿い連中を引き離そう」
「了解」
アッシュはスロットルレバーを押し込んで一気に速度を上げた。
フブキは元々足が速く、機動力も高い船だが、それに加えてフブキを半包囲せんと隊列を組んでいたリムリア艦隊は急加速したフブキに即応することが出来ず、瞬く間に引き離される。
『待てっ、こちらの誘導に従えっ!』
慌てて追跡に移るリムリア艦隊。
「待てと言われて待つわけないでしょう!速度違反があるわけでもあるまいし。自分達が指定した退去期限内よ。文句を言われる筋合いも、指示に従う必要も無いわ!」
「尤もだ。アッシュ、遠慮するな!」
「了解よっ!ホント、貴方もこの船も最高だわ!惚れちゃいそうよ!」
「・・・・」
何に惚れちゃいそうなのか、シンノスケは聞こえないことにする。
ブリッジに居るセイラとミリーナの視線が怖い。
アッシュの操艦技術は期待どおりの腕前だ。
ほぼ一直線に航行しているとはいえ、追跡してくるリムリア艦隊を引き離し、その後に続く数時間に渡った逃走劇にもまるで疲れを見せる様子もない。
「領域の境界に接近!退去期限まで15分。3分25秒超過する予想です!」
セイラの報告にアッシュはスロットルレバーを一杯まで押し込んだ。
「最大戦速。これで2分15秒は稼げるわ!後は度胸と根性で突破するわよ!」
フブキが巡航速度から最大戦速にまで加速する。
境界線付近を警戒していたリムリア艦隊の艦船が進路を防ごうとするが、フブキの性能と特性をしっかりと把握したアッシュはそれをヒラヒラと躱す。
「期限まで3分。リムリア艦隊から通信です」
『アクネリア船籍護衛艦に警告する。貴船は退去期限までに我が国の領域から退去することはできない。よって貴艦を拿捕する。速度を落としてこちらの誘導に従え!』
警告を聞いたアッシュは満面の笑みを浮かべる。
「シンノスケ、構わないわね?」
「好きに飛ばせ!」
フブキは速度を落とすことなく包囲網に向かって突進する。
『待て、速度を落とせ!衝突するぞっ、おい、回避しろ!』
「衝突したくないならそっちが回避なさい!突っ込むぞ!邪魔だ、どきやがれっ!」
そう言いながらアッシュは慌てて回避行動をとるリムリア艦隊の僅かな隙間を突いて包囲網を突破した。
 




