時間は黄金よりも貴重3
惑星リブリナを脱したフブキは予定のポイントでツキカゲ、シールド艦と合流した。
『シンノスケさん、予定通りです。ツキカゲにはアッシュさんが乗っているので持病がある人や怪我人を優先的に乗せています。症状が重い人が3人いますが、緊急を要する状態ではありません』
『よう、シンノスケ、久しぶりだな。俺達も帯同させてもらうぜ。・・・っていうか、他の船も同じだから結構な船団になるな』
アンディ達もアクネリア本国から計画の一部変更の連絡を受けたとのことで、避難民を乗せた多くの船が揃ってアクネリア方面に向かって進んでいる。
「これでもギリギリだ。とにかく急ごう」
フブキ、ツキカゲ、シールド艦を含めた大船団はアクネリア方面に向けて速度を上げた。
航路の安全のため、リムリア帝国の領域ではある程度歩調を合わせて船団を組み、国際宙域に出てからは船の速度性能によっていくつかの集団に分かれて先を急ぐ。
そして、各々の船が可能な限りの速度で先を急ぎ、フブキを含む足の速い艦はアクネリア銀河連邦の領域の手前、排他的経済宙域にまで到達した。
因みに、ツキカゲとシールド艦は後続の集団だ。
そこで待ち受けていたのはアクネリア銀河連邦宇宙軍と沿岸警備隊の艦隊。
「えっと、こちらアクネリア銀河連邦サリウス恒星州自由商船組合所属の護衛艦フブキです。国際航宙法、救難活動規則に則り、展開中の宇宙軍及び沿岸警備隊艦隊に収容している避難民の引き受けを要請します」
通信、航行管制を担当しているシオンが艦隊に向けて要請する。
ここで避難民を引き渡して取って返せば収容しきれなかった避難民を迎えに行くことが出来るという算段だ。
シンノスケ達は沿岸警備隊の巡視船に避難民を引き渡すと惑星リブリナに向けて急ぎ引き返した。
そして、再びリブリナの港に到着したシンノスケ達だが、今回は前回収容しきれなかったリムリア国民と、艦船の派遣が間に合わない他国の国民等を収容する。
外務職員から渡された収容リストの内容と人員を確認するシンノスケ。
「今回本艦に乗せるのはアクネリアが13人、セーレット王国民が8人、その他が58人。法的な問題はありませんね?」
「はい。現在は政権移行の混乱期で明確な禁止規定は定められていません。明らかに合法ではありませんが、違法というわけでもありません。よって違法でないなら合法であると都合よく解釈しました。あと、忙しくて事務手続きに誤りがあるかもしれませんが、確認している暇はありません」
「結構。で、最終的に対象者の国外退去は間に合いそうですか?」
「このリブリナは大丈夫ですが、近隣の一部のコロニーは間に合いそうにありません。少なくともあと一度、足の速い船に向かってもらいたいところですが、期間的にも限界ですね」
シンノスケは横に立つセイラを見る。
「どうだセラ、間に合うかな?」
シンノスケに問われて端末で航路計算をするセイラはシンノスケを見上げて頷いた。
「前回同様に排他的経済宙域までの往復となると間に合いませんが、シンノスケさんの案で、フブキと一部の船の速力ならギリギリ・・・間に合わない計算ですが、挑戦してみる価値はあると思います」
「よし。ならば、やってみよう」
フブキと同行していた数隻の船は直ちにリブリナを出航し、目標の宙域へと急行した。
フブキが向かったのはリムリア帝国領を抜けた国際宙域。
そこに待機していたのは避難民を引き渡して引き返してきたツキカゲ、シールド艦を始めとした船団だ。
宇宙軍や沿岸警備隊の艦隊が展開することができないリムリア周辺の国際宙域で、今度は足の遅い護衛艦等に避難民を引き継いで、足の速いフブキ達は再びリムリア領域のコロニーに向かうという算段である。
「アンディ、今回はアクネリアやセーレットの人々でなく、旧ダムラ星団公国の人達も連れてきた。外務職員の手続きの不手際で名前等が誤っているかもしれないが、気にするな」
『了解しました。俺はそういった手続きには疎いので、そのまま宇宙軍か沿岸警備隊に引き継ぎますよ』
今回、フブキに収容してきたのはアクネリア、セーレット国民の他に旧ダムラ星団公国の一部要人とその家族達だ。
ダムラ星団公国が敗北した際に公国の政府要人の多くは帝国に拘束されたが、戦後の混乱により帝国から見て優先度の低い一部の要人には未だに帝国の手は伸びていない。
そのドサクサに乗じて亡命、いや国外退去し、アクネリアや他の協力国で受け入れてしまおうということなのである。
一步間違えば帝国とより一層緊張が高まる可能性もあるが、重要度の低い要人であるし、帝国にしてみればまんまと国外に逃げられてしまうという不手際なのだから大っぴらにはできないだろう、という打算に基づいた計画だ。
「よし、ちょっと危ないかもしれないが、もう一度行くか!」
ツキカゲに避難民を引き渡す代わりにアッシュとメーティスをフブキに乗艦させ、シンノスケ達は三度リムリア銀河帝国領に向かった。
これが最終段階だ。




