時間は黄金よりも貴重2
「船が足りない?どういうことだミリーナ」
元々船の数は不足しているが、それでも後発の増援や足の速い船が往復することにより、ギリギリではあるが避難民の全てを脱出させることができる予定の筈だ。
『それが、船の派遣が間に合わない国から要請を受けた「等」で、人々の受け入れ分が想定以上に多くなっていますの』
妙な言葉を強調するミリーナの真意を汲み取ったシンノスケは多くを問うことはしない。
「船はどの程度足りない?このリブリナにはアクネリアから大小合わせて8隻が来ているし、後続も来るぞ?」
『まるで足りませんの。他の船の人達も追加で収容できないか画策していますが、元々かなり無理をしていますので、現状ではどうにもなりませんわ』
「それで、フブキに何人乗せろと言っている?」
『100人程度ですわ』
無理な要請だ。
確かに乗せるだけなら100人以上は収容出来るが、満足な居住施設の無い船では長期間の航行を強行することは現実的ではない。
旅客施設を有している他の船でも状況に大差はないだろう。
多少定員を増やしたところで焼け石に水だ。
シンノスケは思案する。
「ミリーナ、そっちの窓口で本国との通信は可能か?」
『はい、国外退去の手続きに必要ということで、こちらに居る外務職員の方なら通信設備の使用を認められていますわ。尤も、監視付きではありますけど』
「構わない。これから言うことを調整してもらってくれ。それから、他の船の連中にも説明して協力してくれる船を集めて欲しい」
シンノスケはミリーナに新たに思いついた計画を伝えると、避難民の収容準備を進めた。
時間は少し遡る。
避難民の国外退去の仕事を受けたサリウス恒星州自由商船組合所属の護衛艦シールド艦は指定されたコロニーに向けて航行していた。
「おい、方向11−3を航行中の船、シンノスケのところの輸送艦じゃねえか?」
シールド艦のブリッジで航行管制を務めていたザニーがレーダー上の反応に気付く。
「・・・確かに、シンノスケの商会の護衛艦ツキカゲだな。針路を見るに俺達と同じコロニーに向かっているようだ」
「確か、シンノスケが雇った例の若い奴が任されてる船だよな?ちょっと寄せてみるか?」
「分かった」
ダグはシールド艦の舵を切りツキカゲに接近する。
その頃、ツキカゲのブリッジでもエレンが接近してくる船の反応を確認していた。
「アンディ、接近してくる船があるわ。数は1隻、中型船」
エレンからの報告を受けてレーダーを切り替えて確認するアンディ。
確かにゆっくりと接近してくる船がある。
「了解、確認した。所属は分かるか?」
「今照合している。・・・サリウスの自由商船組合所属の・・・あっ、これ、ダグさんのシールド艦だわ。通信が入っているから繋ぐわね」
「了解」
確かに接近してくるのはダグのシールド艦。
シールド艦のダグとパイレーツキラーのザニーの2人組にはシンノスケと同様に訓練でこっぴどく世話になった間柄だ。
『よう、こちらアクネリア銀河連邦サリウス恒星州自由商船組合所属のシールド艦のザニーだ。シンノスケのところの護衛艦ツキカゲだな?』
「はい、こちらツキカゲ艦長のアンディです。いつかの訓練の時にはお世話になりました」
『あの時の若いのがシンノスケのところに入ったとは聞いていたが、やっぱりお前だったか』
「はい。シンノスケさんの商会でツキカゲを任せてもらっています」
『そうか。どうやら俺達と同じコロニーに向かっているようだな。目的地が同じなら丁度いい、とりあえず帯同しようぜ』
「了解、よろしくお願いします」
ツキカゲとシールド艦は隊列を組んで目的のコロニーに向かう。
2隻が向かったの小規模コロニーであり、アクネリア銀河連邦から派遣された艦船はツキカゲとシールド艦の他に2隻のみだったが、彼等にもシンノスケ達と同様に想定外の事態が待ち受けているのである。
リブリナの港でシンノスケ達は避難民の艦内収容を進めていた。
船が足りないとのことで100名程度の収容を要請されたが、安全上の理由もあり現地の外務職員と調整の上、予定より少し多めの70名、主にアクネリア国民を収容する。
「時間が惜しい、避難民を収容したら直ちに出航するぞ」
操縦席で出航シークエンスを進めるシンノスケ。
他にブリッジにいるのは航行、通信オペレーター席に着くシオンのみで、マークス、ミリーナ、セイラは乗船誘導を行っている。
『シンノスケさん、間もなく乗船完了となります。乗船する人の中に持病をお持ちの人が3人居ますが、重篤なものではなく、たまたま乗り合わせたお医者様がサポートしてくれるそうなので問題ないそうです』
「了解。出航したら貨物室の警戒はマークスとミリーナに任せるからセラはブリッジに戻ってくれ。それから、出航して大気圏を離脱するまでは全員床に座っていることを徹底するようにマークス達に伝えてくれ」
『了解しました』
その後、国外退去する避難民の収容を終えたフブキはリブリナの港を出航した。
貨物室の床に座り、身体を座席に固定できない人々が乗っているため、高いGが掛かる最高出力での大気圏離脱が出来ないので、効率は悪いがゆっくりと高度を上げるフブキ。
やがて大気圏を離脱するとツキカゲとの合流ポイントへと向かった。




