新しい仲間
採用希望の面接に来たのは人種の男性アッシュ、ザリード人の女性メーティス、ピット人の女性シオンの3人組だった。
「私は沿岸警備隊の巡視船の船長だったし、メーティスも沿岸警備隊上がりよ」
「アッシュの船ではシオンと一緒に通信・航行管制を担当していたけれど、沿岸警備隊では大型巡視船の操縦士をしていたし、戦闘艇の操縦士資格も持っているわ」
「僕は商船学校を出て自由商人の貨物船の乗組員だったんだけど、3年前にアッシュの護衛艦に来たんだ。通信、航行管制だけじゃなく火器管制も出来るよ」
3人共に経験豊富な船乗りのようだ。
「きっと役に立つわ。私達3人はお買い得よ」
ニヤリと艶っぽい?笑みを見せるアッシュとその仲間達だが、どうにもその見た目や口調がややこしい。
3人揃ってよく喋るが、姦しいとはこのことだろうか。
慣れるまで時間が掛りそうだ。
そうはいっても経歴や実績は申し分ないし、護衛艦乗りとしての評判も上々、3人とも操縦士の資格を有していることもありがたい。
そして何よりシンノスケの目を引いたのはアッシュが持つある資格だ。
「アッシュは船医の免許を持っているのか?」
「ええ、1等船医の免許を持っているわ。元々は巡視船の船医だったのだけど、沿岸警備隊も人手不足でね、操縦士の資格も取って、艦長になったのよ。まったく、沿岸警備隊も人使いが荒いったらありゃしないわ。まあ、今でも手技は鈍っていないし、艦内に施設があれば外科手術も出来るわよ」
船医の免許を持つアッシュと医療設備があればいざという時に高度な医療を受けられるので心強い。
ミリーナも医療系の資格を有しているが、それは医療機械の操作と応急手当に限られている医療補助の資格だ。
ミリーナの能力を持ってすれば医師免許を取得することも難しいことではないだろうが、医師免許は知識があり、試験に合格すれば取得出来るというものではない。
専門機関での教育と、臨床実習を熟す必要があり、最短でも3年弱の期間を要する。
そういう意味では医師免許、しかも限られた設備で医療を行う船医免許を持ち、更に艦長資格まで有するアッシュはミリーナ以上の逸材だ。
「しかし、これ程の能力を持つ貴方が何故沿岸警備隊を辞めて自由商人に?」
「当然の疑問よね。でも私、入隊してはみたものの、あの組織に馴染めなかったのよ。まあ、これは私の方の原因だけどね。それに、軍隊上がりのシンノスケも理解してくれるでしょうけど、沿岸警備隊も軍隊も給料が安いのに人使いが荒いのよね。全く割が合わないわ。だから、資格取得に要した費用分はしっかりと働いて組織に還元して、おさらばしたってわけよ」
あっけらかんと話すアッシュ。
ここでミリーナが口を挟んできた。
「元々独立商人として活動していたようですけど、仮に貴方達を採用するとして、長く勤めてくれますの?それによって設備投資の度合いも考えなければいけないのですけど」
「それはシンノスケ次第よ。私達の心を掴んで離さないようにしてほしいところね」
「・・・だそうです、シンノスケ様」
ミリーナ自身は特に反対する様子はないようだ。
改めて記録を確認するとアッシュ達が運用していた護衛艦はフリゲートクラス。
将来的に3人に護衛艦を任せても問題無さそうだ。
シンノスケは決断した。
「直ぐに3人に護衛艦を任せるわけにはいかない。とりあえず、3人には俺の船とアンディの船にクルーとして乗艦してもらい、時期を見てチーム編成をしたいと思う。それでよければ採用したいと思う。まあ、仮採用だけど、そう長くなることないだろう」
シンノスケの言葉を聞いたアッシュ達は頷く。
「是非お願いするわ。私達のこと、離さないでね」
「・・・・」
シンノスケはアッシュの言葉の後半部分をあえてスルーした。
アッシュ達の採用を決めたところで、シンノスケは次にアンディとエレン、マデリアを呼んだ。
「どうしたんですかシンノスケさん。あの3人の採用が決まったんですよね?」
「ああ、そこでアンディに相談があるんだ。今すぐに、というものでもないんだが、アンディの希望を聞いておきたいと思ってな」
「?」
「アンディには今のところツキカゲの艦長として運営を任せているが、将来的にあの3人に護衛艦を任せるとなると、艦の編成についても考え直さないと思っている。あの3人は経験豊富な護衛艦乗りだが、うちの商会では新参だ。一方で我々が保有する船はヤタガラス、フブキ、ツキカゲの3隻。ヤタガラスは特殊な船だから今後本格運用になったとしても俺が運用する必要がある」
「それはそうですね」
「そうするとフブキとツキカゲをそれぞれのチームに任せることになるが、高性能新鋭艦のフブキと中古の輸送艦のツキカゲ、このままツキカゲの運用をアンディに任せて新参の3人にフブキを任せるのもどうかと思ってな。そこで、アンディ達3人にフブキを任せようと思っているんだが、アンディの希望を聞いておきたいんだ」
アンディはエレンと顔を見合わせた後に背後に控えるマデリアを見た。
「・・・」
マデリアは相変わらず無表情だが、アンディを見ると無言で頷く。
艦長としてのアンディの判断に従うということだ。
「俺は、このままツキカゲの艦長でいたいです。ツキカゲは確かに古い船ですけど、とてもいい船ですし、俺の運用とも相性が良いと思っています。フブキもとても魅力的ですが、俺の希望を聞いてくれるなら、やっぱり俺はツキカゲの方がいいです」
アンディははっきりと答えた。




