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アクエリアス

「急速反転!本宙域から離脱する」

「「えっ??」」


 突然のことに困惑するアリーサとメリーサ。

 せっかく超空間から脱出して帰還してきたのだから当然の反応だ。


「大丈夫。サリウスに帰還するのにほんの少し遠回りするだけだ。マークス、迂回して2人を送り届けたら直ぐに出航するぞ」

「いえ、あのっ・・・ちょっと理解できないんですけど、あのアクエリアスって船に何かあるんですか?」


 事情を知るはずもないアリーナ達が困惑するのも無理はない。

 しかし、これはシンノスケにとっては大きな問題である。


 アクエリアスはサイコウジ・インダストリーが開発した艦隊指揮能力を有する旗艦級戦艦から自衛用の対空火器以外の武装を取り外した大型船であり、サイコウジ・カンパニーの総本部統括機能を有するHQ船で、カンパニーの会長が陣頭指揮をする際や視察のための座乗船として運用されている船だ。

 となれば、アクエリアスに乗っているのはカンパニー会長のエミリア・サイコウジ。

 シンノスケの義姉だ。


 そんなアクエリアスにビビってアクエリアスから離れるために舵を切ろうとするシンノスケだが、時すでに遅かった。


「マスター、手遅れです。アクエリアスに捕捉されました」

「ちっ!何か通信は入っているか?」

「いえ、特にコンタクトはありませんし、アクエリアスが針路を変更する様子もありません。ただ、フブキが、マスターがこの宙域にいたという事実は把握されました。ここで逃げ出すのは悪手であると判断します」

「くっ、無言の圧力が凄い・・・。仕方ない、このままサリウス中央コロニーに帰還する」


 シンノスケは観念した。

 

 逃走を諦めて仕方なくドックに向かうフブキ。

 同じくサリウス恒星州の中央コロニーに向かうアクエリアスからはその後もコンタクトは無いが、フブキの動きはしっかりと捕捉されており、それはフブキがシンノスケのドックに、アクエリアスがサイコウジ・インダストリーのドックに入港するまで続いた。


「おかえりなさい、シンノスケ様」

「ご無事で本当によかったです」


 帰還したシンノスケ達を迎えたのはミリーナとセイラ。

 無茶をしたことを叱られるかと思ったが、そのようなことは無く、2人はシンノスケを笑顔で出迎えてくれた。


 そして、それは組合で待っていたリナも同じだ。


「あら、シンノスケさん、おかえりなさい。大変でしたね」


 帰還と超空間での出来事、アリーサ達の救出を報告したシンノスケだが、リナは終始にこやかな表情で手続きを進めている。


「・・・おい、マークス。俺は3人に叱られると思っていたんだが。この状況はなんだか違和感を覚える。正直、ちょっと怖いぞ」

「マスター、こう申し上げてはなんですが、マスターは被虐的嗜好者なのですか?」

「なっ!!何を言うかっ!」

「明らかにミリーナさん達3人の叱られ待ちをしていましたよね」

「そんなわけがあるか!」


 カウンターから離れてしょうもないことを議論するシンノスケとマークス。

 

「シンノスケさん、マークスさん。何をコソコソと話しているんですか?」

「「えっ?い、いや何でもありません」」


 笑顔で問うリナの様子にシンノスケとマークスは血の気が引く思いをした。


「おい、マークス!お前が血の気が引くってどういうことだ?」


 勝手に想像して、勝手にツッコミを入れるシンノスケ。


「マスター、何を言っているのですか?」

 

 どこまでもくだらなく、緊張感の無い2人たが、そんなシンノスケ達の様子をリナはニコニコとした表情で見守っていた。

 

 その後、滞りなく手続きを済ませたリナからリナもセイラもミリーナも、シンノスケ達が無事に帰ってくることを信じ、余計な心配をしないと決めていたということを聞いたのである。



 報告と手続きを済ませてドックに戻ってきたシンノスケとマークスを待っていたのは無事の帰還の知らせを聞いたグレン達だ。


「シンノスケ、本当に申し訳なかった!そして、アリーサとメリーサを助けてくれてありがとう!」


 今にもシンノスケに抱きつかんばかりのグレンだが、辛うじてカレンが食い止めてくれている。


「シンノスケ、アリーサ達を助けるために貴方達を危険に曝しただけでなく、貴方の船の内火艇まで失わせてしまって・・・本当にごめんなさい。今回の件でシンノスケ達が被った損害は私達がしっかりと責任を持って補償させてもらうわ」


 今回の事故でシンノスケが被った損害はフブキに搭載されていた内火艇とシーカーアイを収容した時の固定ラッチの破損だ。

 どちらについても安いものではないが、空間の歪みという予測が困難な現象による状況下で、シンノスケが判断し、行動した結果の損害なのだから責任はシンノスケにあるのだが、それではグレン達が納得しない。 

 大切なクルーであるアリーサとメリーサの救助、そして貴重な探索艇シーカーアイを回収してきたのだから、シンノスケが断ったとしても、グレンの性格からも絶対に引き下がらないだろう。


 互いに大切なビジネスパートナーであり、今後の関係のこともあるからシンノスケが被った損害の補償については後日相談するということで結論がつき、今日のところはアリーサとメリーサが精神的に疲れを見せたことからもグレン達は早々に引き上げていった。


「ふう、これでいち段落か。宇宙環境局への報告もあるが、それは明日にして、とりあえずゆっくりと休みたいな」


 急に疲れが出て肩を落とすシンノスケ。


「・・・マスター、サイコウジ・インダストリーからの連絡です。至急に来て欲しいとのことです」

「・・・駄目か・・・」


 シンノスケのささやかで儚い希望は断るという選択肢の無い連絡により脆くも崩れ去った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 血の気が引くマークス、見てみたい!
[一言] 何気に一番重要案件は突撃宇宙小クジラなのでは? 記憶認識してたしもう懐いたよねアレ?親クジラもだけど。 サイコウジは…うんまぁガンガレ(無駄な努力)シンノスケ
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