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電子戦

「タイタンにドッキングしました」


 ずぶ濡れになりながらも冷静さを取り戻したアンディはツキカゲをタイタンにドッキングさせることに成功した。


「了解。マデリアさんは物資積み替えのシステムコントロールをお願いします」

「了解しました。作業終了までに32分間を要します」


 副操縦士席のマデリアが貨物室のコンベアとクレーンを操作して運んできた物資をタイタンに積み替える作業を開始する。

 これから作業終了までの間、ツキカゲとタイタンは動くことができない。

 2隻は敵艦からみれば格好の標的だ。


「アンディ、リムリア艦隊から狙われている、ロックされたわ!」

「了解。本艦は動くことができない。シンノスケさん達を信じて俺たちは俺たちの役割を全うするだけだ!」


 エレンの声にアンディが痩せ我慢の笑みを浮かべた。


 

 一方、ヤタガラスではマークスが電子戦オペレーター席のダイヤルを調節して妨害波を発信、電子戦闘を開始する。


「電子戦闘を開始。妨害波を発信します。影響範囲は本艦を中心に半径200に設定」


 影響範囲内で電子戦防護を行っていない艦船を含めた全ての兵器のレーダーや通信が機能しなくなった。


 真っ先に影響を受けたのは敵艦が放った対艦ミサイルだ。

 目標を自動追尾するミサイルだが、ヤタガラスが放つ強力な妨害波の影響をもろに受け、ミサイル内の目標を捕捉する機器が破壊され、目標を見失う。


「対艦ミサイル目標をロスト。迷走を始めました。本艦、ツキカゲを含む味方艦には命中しません」


 目標を見失ったミサイルは安全装置が作動して次々と自爆する。


「続いて敵戦闘艇接近・・・あれ?戦闘艇の様子がおかしいです!」


 電子戦の真っ最中とはいえヤタガラスのレーダーは正常に作動しているが、レーダーのモニターを監視していたセイラが首を傾げた。

 対艦ミサイル同様に戦闘艇もフラフラと迷走しているのだ。


「当然だよ。リムリアの戦闘艇のコックピットは密閉型。パイロットはモニターとレーダーで外部の情報を得ている。それがヤタガラスのジャミングのせいでレーダーは機能しないし、電子機器も影響を受けてコックピットのモニターもブラックアウトしている筈だ。挙げ句に母艦の管制からも離れてしまっている。自機の操作は可能だろうが、目隠しで操縦しているのと同じだ」

「それはちょっと気の毒ですね」


 優しい性格のセイラらしい言葉だが、ジャミングを行っているのがヤタガラスなのだからある意味矛盾した感想でもある。


 ヤタガラスのジャミングに曝された2機の戦闘艇の内1機は重巡航艦の対空砲になす術もなく撃墜された。

 残る1機は完全に自分の位置を見失い、見当違いの方向に飛んだかと思えばそのまま機関停止して救助を求めて救難信号を発信し始める。

 付近にいた駆逐艦が救助に向かうようだ。


「賢明な判断だ。捕虜としてだが命だけは助かる。アクネリア宇宙軍は捕虜の取り扱いも丁重だから安心だ」


 宇宙艦と違い、機能に制限がある戦闘艇は電子戦対応機でない限りは電子戦に対しての防護は脆弱であり、強力な妨害波を至近距離で受けると通信やレーダーだけでなく、それらを表示するモニター類が破壊され、自力で復旧することはできない。

 キャノピー越しに直接外部をみることが出来ない密閉型コックピットの機種は外部の状況をモニターの映像で確認しているため、その情報が遮断されると有視界での航行で出来ないため、完全になす術がなくなるのだ。

 そうなると対空兵器の恰好の的でしかないし、運良く対空砲火を逃れたとしても暗闇のコックピットの中で自分の位置も飛んでいる方向も把握できないままエネルギーが尽きるまで、当てもなく飛び続けることしか出来ないのだ。

 リムリアのパイロットはそんな気が狂いそうになる状況下で敵軍に救助を要請するという賢明な判断をした。


「敵艦の動きが鈍くなりました。こちらのジャミングを警戒して接近してきません。長距離からの砲撃に徹していますが照準が正確ではないのでまぐれ当たりに留意してください」


 マークスの報告にシンノスケは笑みを浮かべる。


「了解。確かにまぐれ当たりは怖いな。でもこれで時間稼ぎはできるだろう。まぐれ当たりに注意しつつツキカゲの作業終了を待つ」


 敵に電子戦用艦艇がいると分かれば警戒するのは当然だし、直ぐにでも対電子戦用の艦を呼び寄せるだろう。

 そうなれば一気に巻き返される。

 ここからは時間との勝負だ。 



 ツキカゲを守りながら敵の長距離砲撃を受け流すこと数十分。


『こちらツキカゲ、補給作業終了しました』


 アンディが報告してきたのだが、シンノスケはモニターに写るアンディを見て面食らった。


「おい、アンディ。お前なんでずぶ濡れなんだ?」


 モニターに写るアンディはびしょ濡れの状態だ。


「冷静さを保つためにマデリアさんに水をぶっかけてもらいました。ドッキングの時に1回、作業中におかわりでもう1回。・・・ただ、マークスさんの時と違ってマデリアさんは容赦なくバケツ1杯の水を掛けてくれたのでこの有り様です」


 自虐的に笑うアンディ。

 以前にもマークスに水を掛けられて冷静さを取り戻したアンディだが、どうにも変な癖がついてしまったようだ。

 とはいえ、操縦席周りの機器は完全防水だからアンディが風邪をひかない限りは別に咎めるようなことでもない。

 尤も、マデリアの容赦ない攻撃でエレンまでもがとばっちりを食らっているのは少し気の毒でもあるのだが。


「よし。それでは速やかに離脱する。ツキカゲはブースターを使用して戦場を離れろ。ヤタガラスはツキカゲの離脱を待ってから電子戦を終了して離脱する」

『了解しました。ツキカゲ離脱します』


 アンディはタイタンから離れるとツキカゲを回頭させた。


「緊急脱出用ブースターを使用する。全員、急激な加速に注意」


 ツキカゲの緊急脱出用のブースターは艦を急激に加速させて敵の追撃を一気に振りきるためのものだ。

 当然ながら乗組員は強烈なGに晒されることになる。


「了解。アンディ、何時でもいいわよ!」


 艦首に対して横向きに座っているエレンが座席の向きを変えてGに備えた。


「進路上に障害物ありません。ブースター使用時間は15秒。加速終了後は慣性航行で戦場を離脱します」

「了解。ブースターを使用する」


 アンディはスロットルレバーを一杯にまで押し込み、さらにブースターのレバーを引く。


 僅かなタイムラグの後、ブースターが作動したツキカゲは一気に加速する。


「ぐっ!・・・マデリアさん、カウントダウンをお願いします」

「了解しました。ブースターカットまで10・9・8・・」


 ツキカゲは一目散に戦場を離脱した。

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