戦場への届け物
シンノスケ達が目的の宙域に到着すると、そこは戦場だった。
補給物資を届ける予定の巡航艦隊の他に前線から後退してきた他の艦隊が集結し、リムリア銀河帝国艦隊と艦隊戦の真っ最中だ。
双方合わせて100隻以上の艦船による大規模戦闘が行われている。
「これは・・・こんな辺境での大規模な艦隊戦なんて、いくらなんでもおかしいぞ」
リムリア銀河帝国とダムラ星団公国との戦争にアクネリア銀河連邦宇宙軍が介入しているとはいえ、それは限定的なものだ。
それなのに、リムリア艦隊とアクネリア艦隊が戦っている。
いくらダムラ星団公国が劣勢であるとはいえ、こんな辺境宙域にこれだけの数の帝国艦隊が投入されているということは、戦況が帝国側に傾き、しかもその構図が変わりつつあるということだ。
「本艦及びツキカゲが帝国艦隊に捕捉されました。攻撃を受ける可能性があります。一旦離脱しますか?」
セイラの声が緊迫している。
流石にこの状況でシンノスケの軍規違反発言についてとやかく言う者はいない。
シンノスケはモニターに表示される警報を確認した。
「いや、無理だな。既に我々もリムリア艦隊から敵として認定されている。離脱することは不可能ではないが、追撃を受けるだろうし、物資を引き渡すこともできなくなる。・・・セラ、第2巡航艦隊の旗艦と通信を繋いでくれ」
「了解しました・・・どうぞ」
シンノスケは物資を引き渡す予定の第18艦隊第2巡航艦隊の旗艦と連絡を取る。
「こちらサリウス恒星州自由商船組合所属の護衛艦ヤタガラスとツキカゲ。貴隊への補給物資を輸送してきました。貴隊は取り込み中のようですが、物資の引き渡しについて伺います」
『こちら第2巡航艦隊旗艦クルセイダー。本隊は物資不足、特に医薬品不足が深刻だ。申し訳ないが至急物資の引き渡しを願いたい、戦列の後方に補給艦タイタンが待機している。戦場の只中で悪いが、可能であればタイタンに引き渡してほしい』
「了解。可否判断をしますので少し待ってください」
シンノスケは補給艦タイタンの位置を確認した。
戦線の後方ではあるが、安全とは言い難い。
「ヤタガラスからツキカゲ。アンディ、この戦闘の最中で補給艦への物資引き渡しは可能か?」
実際に物資を積み込んでいるのはツキカゲで、補給を行うのはアンディだ。
『こちらツキカゲ・・・大丈夫です。やるます!』
緊張のせいか若干噛み気味の返答だが、アンディの判断を尊重することにする。
「ヤタガラスからクルセイダー。これより緊急補給を行います」
『了解した。重巡2隻を補給の護衛に当てる。よろしく頼む』
「了解」
ヤタガラスとツキカゲは補給艦タイタンに接近した。
「アンディ、あとは任せるぞ。しっかり守ってやるから心配するな!」
『ツキカゲ了解。補給艦タイタンにドッキングして直接積み替えをします』
シンノスケはヤタガラスのシールド出力を最大にするとツキカゲの前に出た。
更に重巡航艦2隻がヤタガラスの左右に展開し、守りを固める。
ツキカゲのブリッジではアンディが極度の緊張のために震えていた。
他の艦船にドッキングしての物資引き渡しは高度な操艦技術がもとめられるが、経験はあるし、それを行う自信もある。
しかし、それは通常空間でのことで、戦場の真っ只中での補給の経験はない。
「ちょっとアンディ、大丈夫なの?」
エレンも心配になるほどの緊張っぷりだ。
「だ、だ大丈夫だ・・・と思う。いや、大丈夫だ!」
アンディは緊張をねじ伏せようとしながら操舵ハンドルとスロットルレバーを操作する。
精密操作が得意なだけあってその操艦は正確だが、気持ちの方がついてこない。
「本艦、タイタンの左舷定位置につきました。艦をスライドさせてドッキングしてください」
マデリアの誘導でタイタンにツキカゲを接近させたが、ここからドッキングまでは超精密な操艦が要求される。
震えた手のままじゃ難しい。
アンディは決意すると副操縦士席に座るマデリアを見た。
「マデリアさん、お願いがあります!」
「?」
それはアンディが落ち着きを取り戻すための秘策だ。
ツキカゲがタイタンへの補給を試みる中、ヤタガラスと重巡航艦はリムリア艦隊からの砲撃をシールドて受け流し、文字通りツキカゲとタイタンの盾となっていた。
「敵の砲撃がこちらにも向けられていますが、散発的ですね」
マークスの報告にシンノスケも頷く。
今のところはシールドで受け流せるレベルの攻撃だ。
「了解。しかし、今のところは牽制だろう。敵はタイミングを狙っているぞ。ツキカゲがドッキングした後に本命の攻撃が来る。マークス、準備をしておいてくれ」
「了解しました」
「ミリーナはマークスの操作を見てヤタガラスのシステムを学んでくれ」
「分かりましたわ」
マークスとミリーナは電子戦オペレーター席に移動する。
「それからセラには火器管制を含めた総合オペレーターを任せる」
「えっ?は、はいっ」
「大丈夫だ、火器管制は俺の方でも行うから、心配しないでやってみてくれ」
「分かりました」
マークスに代わってセイラが総合オペレーター席に着く。
火器管制システムのロックは既に解除してあり、各武装も起動しているが、こちらから積極的に攻撃を加えるつもりはない。
あくまでもツキカゲの援護のためだ。
セイラが総合オペレーター席に着くのとほぼ同時にツキカゲがタイタンにドッキングした。
アンディらしい鮮やかなドッキングだ。
「敵艦から複数の飛翔体が発射!数8、対艦ミサイル6・・と、艦載機が2」
セイラが報告する。
ツキカゲがドッキングしたタイミング、シンノスケが予想したとおりだ。
「了解。アクネリア艦隊に電子戦防御を通達。本艦はこれより強力な電波妨害を行う。マークス、任せたぞ」
「了解」
「セラには艦首ガトリング砲と対空機銃の管制を任せる。無理に撃墜する必要はない、艦載機を牽制してくれ」
「わっ、分かりました」
ヤタガラスは電子戦を開始した。




