異変
シンノスケ達がバカンスから戻って数週間が過ぎた。
今日はセイラを伴って仕事を探しに組合に来ている。
「相変わらずダムラ星団公国の仕事が多いですね」
端末を操作しながら新しい仕事を見繕うが、セイラの言うとおりダムラ星団公国方面の貨物運送依頼が多い。
「ああ、だが今までとは依頼の内容がまるで違ってきているな」
「えっ?」
シンノスケは依頼内容に異変を見る。
「依頼者が宇宙軍のものが多い。それも前線の部隊への物資輸送が大半だ」
「本当ですね。でも変ですよ、軍隊なら補給部隊がありますよね?なんで組合に依頼が出るのでしょう?」
セイラの言葉にシンノスケも頷く。
その疑問は尤もだ。
「当然、軍隊には補給専門の部署があるし、前線へは輸送部隊が物資を運ぶ。でも、軍隊の物資輸送が民間に下請けされることは別に珍しいことではないんだ」
「そうなんですか?」
「ああ、軍隊というのは色々手続きに手間が掛かる組織でな。物資によっては民間に委託した方が手っ取り早い場合があるんだよ」
「そうなんですか?」
「だが、この依頼の多さは異常だな。しかも物資の大半が食料や医薬品だ。これらの物資は兵站の基本だし、途切れさせるわけにはいかないから軍としても余程のことがない限りは外部には委託しない。そもそもアクネリア銀河連邦宇宙軍程の組織が兵站を途切れさせるようなことは考えられない。その物資の確保と輸送が組合に委託されるということは、前線か、軍内部で何か良からぬ異変が起きているのかもしれないな」
どうにもきな臭いが、自由商人としては必要な物を必要としている者に届けるというのは商売の基本だし、この手の仕事は報酬も良く、依頼主が宇宙軍なので報酬の取りっぱぐれもない。
当然、危険を伴うが、それでも割の良い仕事であるが故に腕に覚えある自由商人が挙って受諾するのだ。
そんな中からシンノスケはとある依頼を選び取った。
ダムラ星団公国領域のアクネリア側に展開し、領域間際の警戒に当たっている部隊への物資輸送だ。
400トンの食料、医薬品の輸送依頼なのでツキカゲ1隻に積み込める。
ツキカゲだけでも遂行可能だが、前線から離れているとはいえ戦場への物資輸送なのでフブキかヤタガラスで護衛する必要があるだろう。
シンノスケとセイラはリナのカウンターで依頼受託の手続きをする。
「はい、ダムラ星団公国に展開中の第18艦隊第2巡航艦隊への物資輸送ですね。今回はヤタガラスとツキカゲの2隻、出発は5日後っと・・・。はい、手続き完了しました。気を付けて行ってきてください」
今回の仕事にシンノスケはヤタガラスを選んだ。
セイラとミリーナをヤタガラスのシステムに慣れさせるためだ。
手続きを終えてドックへ向かって歩くシンノスケとセイラ。
セイラが隣を歩くシンノスケを見上げながら口を開く。
「あの、シンノスケさん。ちょっとお願いがあるんですけど」
「ん?何をだ?」
「私、新しい資格を取得したいんです。今私が持っているのは4等船員資格と、他に専務資格は航行管制、レーダー管制、通信管制の資格なんですけど、火器管制とかの他の専務資格も取得したいんです。その方がもっとシンノスケさんのお役に立てるかな、って思って・・・」
セイラの言う専務資格を取得するのはそう難しいことではない。
船員資格を持ち、実際に艦船に乗務しているセイラなら、実地で経験を積んで資格試験に合格すれば資格を取ることは難しいことではないし、複数の専務資格を持ち、一定期間の乗務経験を積み重ねれば3等船員への昇格も出来る。
それは船乗りであるセイラにとって有益なものだ。
「火器管制資格を取得するといざという時にセラがトリガーを引くことになるぞ?」
火器管制資格を取得するということは自らの意志と手で目標の艦船に攻撃を加えるということで、それは即ち自らの手で人を殺める可能性と結果の責任を背負うということだ。
「はい、その覚悟は出来ているつもりですし、その責任から逃れるつもりもありません」
セイラの目は真剣で、シンノスケを真っ直ぐに見ている。
「ならいいんじゃないか。火器管制の資格を取れば総合オペレーターとして業務できるしな。あと、ヤタガラスは電子戦にも対応しているから特殊電子機器管制も取得した方がいい。セラとしては同時に2つの資格取得の勉強は大変か?」
「いえ、大丈夫です。頑張ります」
「それじゃあ、早速今回の仕事から実習に入るとしよう」
「はいっ」
そのような経緯でセイラのステップアップ計画が始まることとなった。
5日後、シンノスケ、マークス、ミリーナ、セイラの4人はヤタガラスに乗艦してサイコウジ・インダストリーのドックを出航し、輸送物資を積み込んだツキカゲと合流してダムラ星団公国へと出発する。
ヤタガラスの乗務はシンノスケもまだ2回目なので、今回は全般的にシンノスケが操縦することにし、ミリーナとセイラは他のシステムの習熟に努めることにした。
「まあ、慣熟訓練には持ってこいの依頼だな。前線から離れた部隊への物資輸送だし、滅多なことは・・・」
「「「あっ・・・」」」
「・・・滅多なことが起きるかもしれないから十分に警戒していこう」
クルー3人の圧力により失言を回避した(つもり)のシンノスケだが、3人の視線が冷たい。
「はい、マスターの軍規違反の発言をいただきました」
マークスの言葉の冷たさがいつも以上だ。
「いや、今のはセーフだ。非公式軍規には反していない!」
弁解するシンノスケ。
「判定します、私はアウトです」
マークスの言葉にセイラとミリーナが顔を見合わせた。
「あの、私はセーフだと思います・・・」
「い~え、完全にアウトですわ!」
判定は2対1。
セイラはため息をつきながらツキカゲに通信を入れる。
「ヤタガラスからツキカゲ、たった今シンノスケさんがフラグを立てました。今回の依頼も最大限の警戒を要します」
「おい、セラ、ちょっと待・・・」
『ツキカゲ了解。あらゆる事態を想定して警戒レベルを最大にします』
「アンディまで・・・」
こうなっては無事に済む筈がない。
2隻はダムラ星団公国の領域へと進入した。




