天然温泉を満喫
コテージに到着したシンノスケ達は早速自由行動にすることにした。
ニコー温泉は自然豊かな風光明媚な温泉で、コテージの露天風呂からは目の前に広がるチューゼージ湖が一望できる。
その泉質は人種を問わず、疲労回復、美肌効果等の効能があり、知る人ぞ知る人気の温泉地だ。
宇宙ステーションにも人工の温泉施設はあるが、天然温泉などあるはずもない。
ここでしか味わえない贅沢だ。
全員が兎にも角にも温泉に入りたいとのことで、早速温泉を楽しむことにする。
もちろん、天然温泉なのだから露天風呂とはいえ水着の着用やタオルを湯に浸けるのはマナー違反。
これは人類の有史以来の鉄則だ。
湯けむりに包まれ、少し熱めの湯に身体を沈めれば、ほんのりと肌も赤らみ、気持ちも開放的になる。
そして、若い女性達が集まれば黄色い声の1つや2つはあがるものだ。
「いや〜、いい気分だな。最高じゃないか」
「そうですね」
柵で隔てられた女湯ではしゃぐ女性陣の声を聞きながら『男湯』で露天風呂を満喫するシンノスケ達。
「宇宙軍にいた時以来だから数年ぶりだが、やっぱり天然の温泉はいいなあ。日頃の疲れも吹っ飛ぶってもんだ。旅行に温泉を選択して大正解だったな」
「全くもってその通りです」
「・・・ところで、あえて聞くが、お前、なんで温泉に入ってるんだ?マークス」
シンノスケと肩を並べて温泉に浸かっているのはマークス。
ご丁寧に頭部の上には手拭いが乗っている徹底ぶりだ。
アンディは慣れない温泉にのぼせてしまい、早々に退散している。
「なんでと言われましてもせっかく温泉に来たのですから温泉を楽しみたいのは道理ではありませんか」
「いや、お前、温泉に入って何か意味があるのか?疲れが取れるとか?むしろ、温泉なんかに浸かって不具合とか起きないのか?」
「マスター、それはドール差別ですよ。この温泉の湯はとろみがあるせいか私の関節部にも潤滑油のような効果があり、色々と具合がいいのです」
「へえ、そういうもんか」
「はい。・・・科学的根拠はありませんが」
「なんだそりゃ・・・」
グダグダとくだらない会話を続けるシンノスケとマークス。
「ところでマークス、なんだろうなこの違和感は」
「はい?」
「なんというか『そうじゃない!』という雰囲気とか『お前達じゃない!』という空気を感じるのだが・・・」
「気のせいでしょう」
「そういうもんかな・・・」
「そういうものです」
どこまでいっても意味のない会話だ。
「ところでマスター」
「なんだ?」
「明日からの予定は何か計画しているのですか?」
「いや、何も考えていない。皆で好きに過ごせばいいじゃないか。バカンスに来てまで予定に縛られたくないよ」
「それも結構ですが、マスターは大変ですよ。あの3人がマスターをあちこち、あれこれと振り回すでしょうから」
「それじゃあ俺の休息にならないじゃないか」
「それも仕方ありませんね。マスターは雇用主ですから、クルーの福利厚生についての責任があります。慰安旅行とはそういうものです」
「そういうもんか?」
「そういうものです」
「なら今のうちにゆっくりと温泉に浸かって英気を養うか・・・」
結局シンノスケとマークスはしびれを切らしたミリーナ達が呼びにくるまでダラダラと温泉を満喫したのであった。
明けて翌日。
早起きの習慣が身に付いているシンノスケは皆がまだ眠っている早朝に目を覚ました。
眠る必要がないマークスとマデリアは屋外で何やら作業をしているようだが、シンノスケが手伝うようなことは無いそうだ。
そこで湖畔の散策でもしようかと歩きだしたところ、シンノスケの後をセイラが追いかけてきた。
「シンノスケさん、何処に行くんですか?」
「いや、朝食の前に散歩でもしようかなと思ってな」
シンノスケの言葉を聞いたセイラはシンノスケの横に並んで歩きだし、上目使いでシンノスケを見た。
「私も一緒に行ってもいいですか?」
早速マークスの予言が的中する。
「ああ、勿論構わないよ」
2人は朝日がキラキラと反射する美しい湖面を眺めながら湖畔の散歩を楽しむ。
「本当に素敵な場所ですね。それに湖から吹く風がとっても爽やかです。まだこの星に来たばかりだというのに、とっても満足しちゃいました」
「まだ2日目だ。お楽しみはまだまだこれからだぞ」
「そうですよね。でも、こんな素敵な所に1週間も過ごせるなんて、毎晩楽しみすぎて寝不足になっちゃいそうです」
よほど楽しいのか、シンノスケの横を歩きながらニコニコと笑い、何か興味のある物を見つければシンノスケの手を引いて駆け出し、森の中の鳥の声に耳を澄ませ、湖面に魚が跳び跳ねれば目を輝かせる。
ほんの1時間程度の時間だったがセイラはシンノスケを独り占めすることに成功した。




