惑星トーチギへ
ついにバカンスに出発する時。
シンノスケをはじめとし、ミリーナ、セイラ、アンディ、エレン、マークス、マデリアに加えてリナとイリスを合わせた総勢9人が護衛艦フブキに乗って出発する準備が完了した。
フブキならシンノスケ達メインクルーの個室の他にも部屋が余っているので快適に旅ができる上、マークスがブリッジ内に仮設の客席を設置したので、大型モニター越しとはいえ、無限に広がる星々を楽しみながら快適に旅することができるようになっている。
フブキの操縦席で操舵ハンドルを握るのはシンノスケだが、今回はシンノスケの他にミリーナ、アンディ、マークス、マデリアと交代要員には事欠かないのでずいぶんと楽な航行だ。
今回はバカンスということでシンノスケは艦内での飲酒を認めることにした。
無論ブリッジ内での飲酒は厳禁だし、艦長であるシンノスケは規則により航行中は飲酒することはできない。
そうしたところ、他の皆も飲酒はトーチギに到着してからのお楽しみということで誰一人として飲酒しようとする者はいなかった。
目的地であるトーチギまでは空間跳躍1回を含んで片道5、6日程度の行程だ。
「空間跳躍ポイントに接近。跳躍先の座標を固定しました」
総合オペレーター席に座るマデリアの報告を受けたシンノスケはスロットルレバーに手を掛た。
「跳躍速度まで加速する」
スロットルレバーを一気に押し込んでフブキを加速させるシンノスケ。
「跳躍速度に到達。空間跳躍カウントダウン、5、4、3・・」
「よし、ワー・・」
「「レッツゴーッ!!」」
リナとイリスのテンションはとても高く、上機嫌だった。
その後も順調に航行を続けたフブキは出航してから5日後に惑星トーチギの惑星軌道上に到着した。
「トーチギの軌道ステーションから大気圏内降下の許可が下りました」
セイラの報告を受けたシンノスケは大気圏降下のシークエンスに入る。
マニュアルでの降下もお手のものだ。
「全員シートベルト着用。・・・降下ポイントマーク。艦首上げ角50度で固定。降下開始」
シンノスケの操縦でフブキは何の問題もなく惑星トーチギの大気圏内に降下した。
降下したフブキを待ち受けていたのは青い空と見渡す限り美しい水の世界。
「わあっ、キレイな海ですね。・・・クジラもいるのかな?」
美しい世界を目の当たりにしてセイラが目を輝かせる。
セイラだけでない。
ミリーナやリナ達も同様だ。
「実はこれは海じゃないんだ。惑星トーチギには海はないんだよ」
「えっ?どういうことですか?こんなに広いのに、これ海じゃないんですか?」
セイラの疑問にシンノスケは苦笑しながら説明する。
「目の前に広がっているのは海ではなく、広大な湖なんだ。惑星トーチギは大陸、というか惑星の7割を占める陸地しかないんだ。で、今目の前に広がっているのは海でなく、陸地の中にあり、惑星表面積の残りの3割を占める広大な湖なんだ。現に水の成分は塩水、いわゆる海水ではなく、淡水だよ。よく惑星上の大陸のことを海に囲まれた陸地と表現するが、トーチギの場合はその逆で陸地に囲まれた湖なんだ。だから、残念ながらこの湖に生息するのは主に淡水魚で、クジラは存在しない」
「へえ、そうなんですね。そっか、クジラはいないのか・・・」
少しばかり残念そうなセイラ。
「だが、お楽しみはあるぞ。目的地のニコー温泉はこのチューゼージ湖の畔にある。チューゼージ湖は遠浅の湖で湖面も穏やかなので泳ぐこともできる。海水でないというだけで海と同じようにレジャーを楽しめるぞ」
聞けば女性陣は全員水着を持ってきているという。
女性陣とアンディーのテンションはマックスにまで上がった。
やがてフブキはチューゼージ湖の港に入港した。
一行が滞在するのは湖畔にあるリゾートコテージだ。
少しだけ贅沢してシンノスケが確保した(実際にはミリーナとセイラが選んだ)コテージはマークスとマデリアを含む全員分の個室があり、施設内に内風呂と露天風呂がある。
滞在者の安らぎの妨げにならないようにコテージに従業員はおらず、食事等は注文すれば付近にある管理施設から届けられるため、仲間達だけでゆっくりと過ごすことができる施設だ。
無論連絡1つで様々なレジャーのサポートや、何かあれば直ぐにスタッフが駆けつけてくれるサービス完備である。
「素敵なコテージですねえ。こんなところで1週間もバカンスを楽しめるなんて本当に夢みたいです」
「本当ですね、カシムラ商会の担当者になって本当によかったですね」
リナとイリスは今にも踊り出しそうな喜びようだ。
シンノスケ達のバカンスは始まったばかり。




