時にはゆっくりすることも必要だ
輸送船撃沈事件とベルベット死亡?に関する情報を伝えた少佐は約束通り走り出してから15分後にシンノスケをドックまで送り届けてくれた。
走り去る少佐の車を見送ったシンノスケはすっかり滅入ってしまっているが、色々心配しても仕方ない。
ここは気持ちの切り替えが大切だ。
(こんな時は良い仕事はできない。時には休息も大切だな)
思い立ったシンノスケはドックに戻るとクルー達を集合させた。
「皆に提案がある」
突然のシンノスケの言葉に皆が首を傾げる。
マークスまで首を傾げているが、そこは敢えてスルーだ。
「なんですの?あらたまって」
皆を代表して問うミリーナにシンノスケは頷く。
「これまで俺達は厳しい仕事の連続で、それらの仕事をやり遂げてきた。そんな俺達に今必要なのは休息と新たな困難に向けて英気を養うことだ。今までも休暇は取っていたが、それは単に仕事が休みというだけだった。そこで皆に提案する。少しの間休みを取って皆で一緒にバカンスに行かないか?」
シンノスケの言葉に一瞬にして皆の目が輝く。
マークスはデュアルカメラが文字通り発光しているが、反応したり、ツッコミを入れてはいけない、とにかくスルーだ。
「シンノスケ様っ、本っ当に、本当ですの?嘘や冗談だったら承知しませんのよ!」
シンノスケの右腕に抱きつくミリーナ。
「バカンスって何処に行くんですか?」
左腕はセイラだ。
流石にアンディとエレンは抱きついてきたりはしないが、とても嬉しそうだ。
表情が変わらないのはマデリアとマークスだが、マークスのカメラが激しく点滅していることについては見て見ぬふりをする。
「目的地はガーラ恒星州の辺境惑星トーチギにしようと思う。トーチギ地方は俺の故郷でもあるが、あの星には良い温泉があるからな。トーチギで1週間のバカンスってのはどうだ?」
「「「「「賛成っ!!」」」」」
マデリアを除く全員の声が揃った。
シンノスケは意地でもマークスをスルーする。
「なら決定だな。日程は可及的速やかに出発するつもりだが、その前に俺は組合に行ってくる」
シンノスケの思いつきでの計画だが、善は急げだ。
シンノスケは早速自由商船組合に向かった。
組合に到着したシンノスケは真っ直ぐリナのカウンターに向かう。
「あら、シンノスケさん。どうしたんですか?忘れ物でも?」
ほんの数時間前に帰還の報告をして組合を後にしたと思ったらまた戻ってきたのだから、リナが首を傾げるのも無理はない。
「いや、ちょっとお誘いに」
「えっ?お誘いってもしかして、デートのお誘いですか?シンノスケさんらしくないですけど、大歓迎ですよ」
リナの瞳が輝き、カウンターに身を乗り出してくる。
「いえ、デートのお誘いではないのですが」
「なんだ、つまらないです」
「デートではないのですが、実は商会の皆を連れてバカンス、所謂慰安旅行に行くことになったのですが、普段私達の担当として色々とお世話になっているリナさんとイリスさんも一緒にどうかな?と思いまして。まあ、バカンスの1週間と往復に掛かる期間を含めて1ヶ月弱の休暇になりますが、リナさん達も忙しい上に急な誘いですし、難しいですか?」
シンノスケの言葉を聞いたリナの表情が険しくなった。
何かを決意し、戦いに挑むような表情だ。
「・・・シンノスケさん、ほんの少しだけ、ええ、ほんの10分程お待ちいただけますか?」
スックと立ち上がったリナはカウンターを離れて別のカウンターに座るイリスに声を掛けるとイリスを連れて事務部長ダルシスの事務室内へと入っていった。
カウンターの前で待つこと8分、リナとイリスがダルシスの事務室から出てきてこちらに向かってくるが、こころなしか2人の足取りがフワフワして見える。
「問題ありません。2人揃って休暇の申請が通りました。是非ご一緒させてください!」
満面の笑みを浮かべるリナとイリス。
ふと気がつくと、ダルシスが事務室の扉の隙間からこちらを恨めしげに見ているが、シンノスケは見なかったことにする。
バカンスについては決定したが、女性陣は何かと準備が必要だということで出発は5日後ということにあいなった。




