新発見
サリウス恒星州に帰還したヤタガラスとフブキだが、ヤタガラスはサイコウジ・インダストリーとの契約で点検整備とデータの回収が行われることになっているため、シンノスケのドックではなくサイコウジのドックに入港した。
「元々うちのドックには2隻しか入れないし、格安で整備してくれるし、セキュリティも高いからかえってありがたいな」
サイコウジ・インダストリーのドックに入港し、技術者達に今回の航行のデータを引き渡したシンノスケはアイラの新しい船を手に入れるため、ハンクスとの面会の取り次ぎを依頼するが、その前に片付けておくことがある。
組合と宇宙環境局への報告だ。
「アイラさん、申し訳ないが宇宙環境局への報告に同行してもらいますよ。当事者としての説明をしてもらう必要がありますからね」
「分かったわ。まあ、当然よね」
その後シンノスケ達は自由商船組合にアイラ救出と未知の生物との遭遇について報告し、直ぐに宇宙環境局のサンダースとヤンを訪ねることにした。
宇宙環境局を訪れたのはシンノスケとアイラ、マークスとミリーナだ。
幸いにしてサンダースもヤンも在庁しており、直ぐに面会することが出来た。
「・・・これは!信じられません。こんな生物が宇宙空間に生息していたなんて」
提出されたデータや各種映像等を確認したヤンが驚きの声をあげる。
「宇宙クジラの研究をしているヤンさん達でも知らない生物ですか?」
シンノスケの問いにヤンが頷く。
「カシムラさんに調査を依頼しているとおり宇宙クジラですら私達にとってはまだまだ知らないことばかりの未知の存在です。他に宇宙空間で生存可能な生物で知られているのは小惑星の表面に付着している微生物のようなものです。これは間違いなく新発見です」
「仮にこの生物を宇宙クラゲと呼ぶとして、高度な擬態と強固な外皮を活用しての攻撃性、そして互いにコミュニケーションをとる社会性。宇宙クジラの他にこれほどの生物が存在していたとなると、我々人類が知らないだけで宇宙には様々な生物が生息している可能性があります。これは歴史的な大発見ですよ」
興奮を隠すことなく語るヤンとサンダース。
しかし、シンノスケの懸念は別にある。
「しかし、今回の宇宙クラゲの発見は偶然かもしれませんが、宇宙クジラの件といい、小惑星帯の変化と宇宙クラゲの発見。この宇宙で何らかの変化が起きているんじゃないですか?」
「そうよね。あの小惑星帯の張りだしもそうだけど、多分、縄張り意識の高い宇宙クラゲのコミュニケーション信号を私が受信できたことも異常なことだと思うわね」
シンノスケとアイラの言葉にサンダース達が頷く。
「我々としても宇宙で何か環境の変化が発生しているのではないかと考えています。カシムラさんには今後も宇宙クジラの調査をはじめとして色々とご協力をいただきたいと思いますが、如何でしょうか?」
「通常業務のついでということであれば構いませんよ」
「それで結構です」
シンノスケとサンダースの話を聞いていたアイラが割り込んでくる。
「そういうことなら私も協力出来るわ。もっとも新しい船を手に入れてからの話だけど」
「そうしていただけると助かります。よろしくお願いします」
とりあえずシンノスケ達の報告すべきことは全て報告した。
そうなれば長居は不要だ。
「それではこれで失礼します」
「あっ、ちょっと待ってください。1つ確認なんですが・・・」
報告とデータの提供を終えて立ち上がるシンノスケ達をヤンが呼び止めた。
「何かありましたか?」
「はい。宇宙クラゲのテリトリーに入った船が攻撃を受ける可能性があることと、宇宙クラゲが遭難信号に似た信号を用いてコミュニケーションを取っているとなると、必要な調査の後に本件を速やかに発表する必要があると思います。そうしますと、これだけの大発見ですし、発見者は大変な名誉なことですので、その素性を明らかにする必要があると思いますが?」
新種の宇宙生物を発見したとなると、それは確かに歴史的な発見なのだろうし、学術データにも発見者の名前が記されることもある。
しかし、シンノスケとアイラは互いに顔を見合わせ、声を揃えた。
「「遠慮します。発見者の素性についてはそちらで何とでも誤魔化してください」」
シンノスケもアイラも歴史に名が残るよりも、名が知れることにより仕事に支障が出ることの方が問題なのでヤン達に忖度を依頼する。
「分かりました。それではこちらで取り計らっておきます」
サンダースが約束してくれたので、宇宙環境局への報告が終われば次はアイラの新しい船を手に入れる算段だ。
シンノスケ達はサイコウジ・インダストリーに向かうことにした。
【感謝!】この度、一二三書房WEB小説大賞にてコミカライズ賞を受賞させていただきました。
関係者の皆様、読んでくれている読者の皆様に感謝申し上げます。




