アイラ救出作戦2
ブリッジに隣接する部屋に設置されているカプセルの中、そこにアイラはいた。
航行するのも危険な小惑星の中、来る当てもない救助に一縷の望みを託して1人で眠っている。
カプセルの中で眠っているアイラは悠久の眠り(蘇生させなければ理論上は永遠に眠り続けるのだが)についているかのようだ。
「コールドスリープに入ったのは12日前か。マデリア、蘇生にどのくらい掛かる?」
「万全を期して5時間程かと」
コールドスリープからの蘇生の過程において急激に体温を上昇させると脳をはじめとした身体組織に損傷をもたらすおそれがあるため、身体の状態に合わせて調整しながら蘇生させる必要がある。
「分かった。直ぐに始めてくれ」
「かしこまりました」
シンノスケはアイラの蘇生をマデリアとミリーナに任せるとブリッジへと戻った。
蘇生自体はマデリア1人で問題無いのだが、一度見聞きしたことを覚えてしまうミリーナならば今回の経験が何かと役に立つだろう。
事実ミリーナはその能力を生かして医療系の資格をいくつか所持している。
そして何より、アイラが目を覚ました時に見知った顔のミリーナがその場にいた方が安心できるだろう。
一方で、薄い下着姿のままでアイラが覚醒した際にその場にシンノスケがいた場合、シンノスケの身に危険が及ぶことは想像に容易い。
無論、救助されたアイラがシンノスケを非難するとは思えない(思いたい)が、問題はミリーナとセイラだ。
2人にあらぬ?疑いを掛けられ、何か弱みのようなものを握られてしまう可能性がある。
いや、2人だけでない、何らかの理由でリナにまで情報共有されてしまってはシンノスケの立場が危うい。
できる男はそういった危険をいち早く察知して回避するものだ。
ブリッジに戻ったシンノスケはA884のメモリーに残されていた記録を確認することにする。
アイラはコールドスリープに入る前にことの詳細を記録していた。
「・・・俺たちと別れた後にこの宙域を通りかかって、遭難信号らしき信号を受信した。それでこの小惑星帯に入り込んだのか?」
遭難船を探して小惑星帯に入り、突然何者かの攻撃を受けたと記録されている。
シンノスケは首を傾げた。
「しかし、攻撃を仕掛けてきた敵の正体も不明。しかも攻撃を仕掛けておきながらA884が行動不能になっても何もしなかったのか?」
アイラの記録には攻撃を受けて航行不能に陥った後、攻撃を仕掛けてきた対象の正体も分からないまま漂流し、小惑星に衝突したらしい。
エンジンだけでなくジェネレーターも破損し、艦内の環境維持にも支障が出てきた上に遭難したのが広大な国際宙域のど真ん中の小惑星帯ということもあり、迅速な救助が望めないためコールドスリープを選択したということだ。
シンノスケはA884のメモリーに残されていたアイラの記録以外のものも精査したが、謎は深まるばかり。
A884も型遅れとはいえ優秀なフリゲート艦だ。
レーダーやセンサー類に何も引っ掛からないまま一方的に攻撃を受けることなど考えられない。
考えられるとすれば、超長距離からの狙撃だが、密度の濃い小惑星帯のなかでそれは難しいし、それだけの精密射撃をやってのける相手が目標を航行不能しただけで放置するとはあまりにも不自然だ。
ましてやA884はレーザー砲でなく実体弾かそれに類するもので攻撃されてる。
船体の損傷箇所を調査したいところだが、大穴が空いている箇所を船内から調べるわけにはいかないし、損傷箇所の調査自体はヤタガラスに残ったマークスがやっている筈だ。
そうこうしている間に時間が経過する。
「シンノスケ様、アイラさんが無事に蘇生しましたわ」
無事に蘇生し、艦長服に着替えたアイラを連れてミリーナとマデリアがブリッジに入ってきた。
「シンノスケ、助かったわ。本当にありがとう」
蘇生したばかりでまだ思うように動けないのか、マデリアに支えられながらシンノスケ達に礼を言うアイラ。
航行不能に陥った原因を聞きたかったのだが、アイラ自身が記録に残していたとおり、アイラも何がなんだか分からないそうだ。
「本当に何も分からないのよ。遭難信号のような信号を受信してこの付近まで来たけど、遭難船も無ければ信号も途絶えているし。挙げ句に何の前兆もなくこの有り様よ。どうすることも出来なくてコールドスリープを決断したけど、救助されても何十年も経っていたらどうしようかと正直不安だったわ。もっとも、何十年後でも救助されれば幸運だったでしょうけどね」
「だとしたら極めて幸運でしたね。アイラさんがコールドスリープに入って僅かに12日ですし、何よりアイラさんを捜索していたミリーナ達が遭難信号を受信したからこそここまでこれたのですから」
「本当にそうよね。シンノスケ達にはどんなに感謝しても感謝しきれないわ」
アイラ自身は問題なさそうだが、問題はアイラのA884である。
「しかし、この船はどうしますか?自力航行は不可能でしょう?」
「・・・そうね、残念だし、悔しいけど船を諦めるしかなさそうね。損傷が大きすぎるし、ここじゃあサルベージも難しいわ。仮にサルベージと修理が可能だとしても新型艦が買えちゃう程の費用が掛かりそうだしね」
アイラが船を諦めるというならば、後はA884のデータを回収して脱出するだけだ。
そう思った矢先、マークスからの緊急通信が入った。
『マスター、至急お戻りください。周辺宙域に異変が発生しています』
「いったいどうした?」
『正体不明の信号を多数受信。不測の事態が進行中です』
どうやらアイラとA884を襲った事態が再び起きようとしているらしい。
今まではスマホのみを使って書いていましたが、スマホの他にタブレットとキーボードを併用し始めました。
入力しやすい反面、タブレットの文字入力の予測変換もまだ上手くいかず、慣れるまでは今まで以上に誤字脱字があるかもしれませんがご容赦いただけると嬉しく思います。




