アイラ救出作戦1
「見つけた!A884だ。マークス、A884の状態を確認しろ!」
「了解。A884の船体を確認・・・・小惑星に座礁している状態ですが、船体への影響は軽微。座礁部の他に船体に複数の損傷。何かが貫通したような痕跡です。メインエンジン等にも同様の損傷痕が認められます。エンジン損傷に伴い、A884は航行不能、ジェネレーターにも損傷が認められ船内の各種システムにも異常をきたしていると推定。・・・こちらからの通信に応答せず」
シンノスケはモニターに映し出されたA884の損傷箇所を確認した。
「なんだこれは・・・」
『宇宙海賊か何かの攻撃を受けたんですかね?』
アンディの言葉にシンノスケは首を振って否定する。
「違うな。損傷箇所に熔融が認められないから船体を貫通しているのはビーム砲による攻撃じゃない。かといって実体弾による攻撃でもなさそうだ・・・」
自分で説明していながら嫌な予感を感じるシンノスケ。
「マスター、やはり通信による呼びかけに応答ありません。アイラさんの生命に対する危険度が高いと推定。至急に行動するべきと判断します」
「そうだな。早急に救出してさっさと離脱しよう。マークス、艦内の状況は分かるか?」
「艦内をサーチしましたが、ジェネレーターの損傷により艦内システムに制限が掛かっているようですが、空調等の最低限の環境は維持されていると思われます。しかし、生命反応は検知できません。アイラさんが無事だとすると、コールドスリープ状態にあると推定します」
アイラはたった1人で護衛艦を運用している一端の船乗りだ。
遭難して速やかな救助が見込まれないならば生き残るために冷凍睡眠、いわゆるコールドスリープを選択するだろう。
「俺もそう思う。直ちにA884に乗り込んでアイラさんを救出しよう。・・・って、マークス、お前コールドスリープを解除できるか?」
「いえ、私の医療技術は軍隊の衛生兵レベルです」
というのも、コールドスリープからの蘇生を行うには高度な医療技術と知識が必要なのだ。
基本的にはコールドスリープシステムが自動で制御するが、それでも生命活動の活発化に伴う微調整や非常時の対応が必要なため、蘇生の操作をするには一定以上の医療技術と知識が必要とされる。
「そうすると、カプセルごと回収するしかないか・・・」
『お待ち下さいご主人様。私ならば対応可能です』
声を上げたのはマデリア。
マデリアはマークスのような軍用に特化したドールではなく、あらゆる分野で活躍できる汎用型高性能ドールであり、当然ながら医療分野でも運用できる性能だ。
コールドスリープからの蘇生も問題ないし、その他の状況にも対応出来るだろう。
「そうだった、マデリアがいたな。それじゃあ俺とマデリアでA884に入ろう。マデリア、シャトルでヤタガラスに来てくれ」
『かしこまりました。・・・私だけでよろしいですか?』
「?・・・マデリアだけでいいぞ?ヤタガラスにはマークスに残ってもらうしな」
シンノスケは首を傾げながらマークスを見たところ、どういうわけかマークスが呆れ顔?でシンノスケを見ているような気がする。
「マスター、本当にマデリアとマスターの2人で乗り込むつもりですか?」
「念の為に武装はしていくが、別に白兵戦に乗り込むわけじゃないしな。2人で十分だろ?」
「マスター、1つお伺いします。マスターがコールドスリープに入ると仮定して、着衣のままカプセルに入りますか?」
「あっ・・・」
コールドスリープはカプセル内を超低温にし、カプセル内の人間を仮死状態にして生命を維持するものであるが、コールドスリープカプセルに入る際には基本的に専用の下着のみを着用し、他の衣類は着用しない。
体温を均一に低下させることと、衣類に含まれている水分が凍結する等で身体を傷つけるのを防ぐためだ。
「・・・すまない。マデリアとミリーナの2人で来てくれ。A884には3人で乗り込む」
『了解ですわ。・・・まったく、シンノスケ様ったら、このまま気付かずにいたら私が引っ掻いて差し上げるところでしたわ!』
『あのっ、私もです・・・』
既のところで命拾いしたシンノスケはマデリアとミリーナを伴ってアイラの救出に向かうことになったのである。
ミリーナとマデリアがヤタガラスに移乗してきたのでシンノスケはヤタガラスをA884に接舷させた。
連絡用通路を接続し、A884への扉を開く前に艦内の環境を確認する。
「艦内の空調に問題ありませんが、気圧が低くなっています。扉を開くとヤタガラスの空気が一気に流れ込みますのでご注意を」
マデリアの報告を聞いて頷くシンノスケ。
シンノスケとマデリアはブラスターマシンガンを、ミリーナは自前のブラスターとサーベルを装備している。
加えてシンノスケとミリーナはグラスモニターをかけており、マデリアはマシンガンの他に医療用ザックを背負っており準備は万端だ。
「了解した。扉を開いてくれ」
「かしこまりました」
マデリアが扉を開くと気圧の差によってヤタガラス内の空気がA884の艦内に流れ込み、強い気流が発生した。
マデリアのエプロンドレスとスリットが深いミリーナのタイトスカートが突風で激しく捲れ上がるが、流石のシンノスケも気にしていない。
銃を構えながら真っ先にA884の艦内に入るシンノスケ。
「マークス、A884艦内に入った。これからブリッジに向かう」
『了解しました。こちらでモニタリングしていますので、情報はグラスモニターに送信します』
「了解。頼んだぞ」
逸る気持ちを抑えながらブリッジに向けて艦内通路を進む。
艦内は非常用照明に切り替わっていて薄暗い以外は特に異常はない。
『マスター、間もなくブリッジです。コールドスリープカプセルはブリッジに隣接する部屋に設置されています』
シンノスケ達はブリッジに立ち入ったが、案の定そこにアイラの姿はなかった。
「ブリッジ内も特に異常は無い。・・・各種モニターは警告を表示しているが、今すぐどうにかなる状況じゃないな」
「ご主人様、メモリーに事故の状況とその後の経過が記録されています。アイラさんはやはりコールドスリープに入っているようです」
システムに残されたメモリーを確認したマデリアが報告する。
それならば先ずはアイラの蘇生が最優先だ。




