いざ小惑星帯の中へ
『えっ、シンノスケ様、その船はどうしたんですの?』
「新しく購入した護衛艦ヤタガラスだが、この船の詳しいことは後で説明する。それよりも何か情報があったのか?」
シンノスケの言うとおり、今は新しい護衛艦よりもアイラの船の方が優先だ。
ミリーナに代わってアンディが報告する。
『実は俺達は2週間の捜索ではアイラさんの船を発見出来ませんでした。仕方なく帰還する途中でこの宙域を通りかかったところ、小惑星帯の中から微弱な信号らしきものを傍受したんです』
「信号の位置は特定できたか?」
『いえ、信号自体が微弱で深い位置だったので概ねの位置しかマーキングできませんでした』
シンノスケはフブキから送られてきた信号のデータを確認する。
いかにフブキの索敵能力が高いとはいえ、この僅かなノイズレベルの信号を見逃さなかったとは大したものだ。
シンノスケは信号が発信された方向に艦首を向けた。
「早速ヤタガラスの能力試験ができるな。ハンクスさんやサイコウジの技術者が喜ぶぞ」
「マスター、索敵レーダー、信号探知機能等を最大出力で小惑星帯に照射します」
ヤタガラスは小惑星帯内のサーチを開始した。
突然現れた新しい護衛艦ヤタガラスの動きを固唾をのんで見守るフブキのクルー達。
「あのヤタガラス?一体どんな船なんでしょう・・・」
セイラの呟きにアンディが答える。
「多分、駆逐艦クラスの船だよな。武装を見てもこのフブキと大差ない位だと思う。気になるのが、船体の上下にある小型のレドームだけど、多分電子戦能力に特化しているのかも・・・」
そんなことを言っている間にもヤタガラスは微妙に位置をずらしながら小惑星帯の中をサーチしてゆく。
『・・・・・よし、捉えた』
「「「!!」」」
スピーカーからのシンノスケの声にアンディ達が驚きの表情を見せる。
ヤタガラスと同時にフブキもサーチを行っていたが、フブキの方では何も捉えられていない。
『かなり微弱な信号だ。本当によく捉えたな。・・・パターン照合、確かに遭難信号だ』
「じゃ、じゃあ、この小惑星帯の中にA884が、アイラさんが居るってことですの?」
ミリーナが希望の声をあげる。
『A884かどうかは分からないけど、遭難信号を発信している船があることは間違いない。位置は・・・かなり深いな。小惑星の間を縫っていくとして、結構時間が掛かりそうだな』
「そんなに深い位置を特定したんですの?」
『まあ、このヤタガラスの能力はまだ未知数だが、探知能力は優秀なことは確かだ。・・さて、ちょっと探しに行ってくる』
航行するだけで危険が伴う小惑星帯に進入すると言い出したシンノスケ。
「「ちょっと待ってください!」」
アンディとミリーナが同時に声を上げた。
「俺達もついていきます」
「ええ、私達もアイラさんを救いに行きますわ!」
2人の声を聞いたシンノスケはほんの少し考えるが、直ぐに頷く。
『今のフブキの艦長はアンディだからアンディの判断で別に構わないけど、ついて来るだけでも大変だぞ?ヤタガラスが先行して、コースについてデータリンクしても細かな修正が必要だからな』
「大丈夫です。コースの修正作業はマデリアさんにやってもらい、俺が操縦します。・・・マデリアさん、お願いできますね?」
アンディの問いに総合オペレーター席のマデリアは振り向くことなく答える。
「問題ありません。お任せください」
マデリアの答えを聞いたアンディはフブキをヤタガラスの後方に移動させた。
「ヤタガラスに続きます!」
『よし、それじゃあ小惑星帯に突入する。アンディ、遅れずについて来いよ』
「了解です!俺達のことは気にしないで進んでください」
ヤタガラスに続いてフブキが小惑星帯の中へと進入する。
シンノスケと、アンディの操艦技術の腕の見せどころだ。
小惑星帯に入って数時間、小惑星の密度の濃い場所では船のサイズギリギリな程の隙間を縫いながら航行するヤタガラスとフブキ。
ヤタガラスはマークスが、フブキはマデリアが精密なナビゲートをしてこそ可能な航行だが、シンノスケもアンディも危なげなく船を進めている。
「アンディもやるじゃないか。フブキでこの中を進むのは多分、このヤタガラスよりも難しいぞ」
基本的にはグラスモニターに表示されるコースをトレースして進むだけだが、微妙な舵とスロットルの加減が難しい。
データリンクしているとはいえ、ヤタガラスのデータをマデリアがフブキ用に修正し、それに従ってフブキを操り、ヤタガラスにしっかりと付いてくるのだからアンディの精密操艦には目を見張るものがある。
この様子ならフブキのことは心配しなくても大丈夫だろう。
そして、いよいよ信号が発信された地点に近づいた。
「さて、そろそろ目標地点だが・・・見つけた!A884だ」




