現実の厳しさ
船団は無事に6325恒星連合国に到着した。
既に首都コロニーの管制宙域に入っており、宇宙海賊等の襲撃の危険性は無くなっているため、護衛任務はここまでだ。
『指揮船オリオンから護衛のA884、ジャベリン、フブキ、ツキカゲの各艦へ、ここまでの護衛に感謝します』
護衛に対する礼を述べて離れていくラングルド商会の船団。
復路についてはレグのジャベリンのみが護衛契約をしているそうで、シンノスケ達とアイラはここでお役御免となる。
『こんな仕事受けなきゃよかったわ。シンノスケ、貴方達を巻き込んでしまって悪かったわね』
船団が運んできた物資が帝国に流れる可能性が高いことについて、未だに腹を立てている様子のアイラだが、シンノスケは特に気にしていない。
他国間同士の契約まで気にしていたらきりがないのだ。
「別に問題ありませんよ。私達は元々6325で取引をするつもりでしたから。予定通り取引をした後にダムラ星団公国に回るつもりです」
『そう、ならよかったわ。私は補給と休息を済ませて帰ることにするわ』
首都コロニーの手前でA884と分かれたフブキとツキカゲは早速入港の手続きに入る。
「6325恒星連合首都コロニー港湾管理センター。こちらアクネリア銀河連邦サリウス恒星州自由商船組合所属の護衛艦フブキ並びにツキカゲ。入港許可願います」
セイラの入港申請に対して直ぐに港湾管理センターから返答がきた。
「こちら港湾管理センター、了解しました。・・ぷっ・フブキはC区画第25ドッキングステーション、ツキカゲは同区画第28ドッキングステーションに入港してください・・フフッ」
「フブキ、了解しました」
港湾管理センターの担当職員の声の様子がおかしい。
何かを堪えているような雰囲気だ。
そんな違和感を感じながら指定されたドッキングステーションに向かって舵を切るシンノスケ。
そこであることに気付く。
「・・・ん?C区画第25ドッキングステーションって、まさかっ」
「はい、マスターが穴を開けたステーションです」
「やっぱりそうですよね?ミリーナさんを迎えに来た時の・・・」
「私とシンノスケ様の運命の出会いの場ですわ」
巨大なコロニーには宇宙船用のドックやドッキングステーションが数多くあり、首都星のコロニーの規模ならば、それこそ3桁を超えるの数の宇宙船が入港できる筈である。
それなのに前回と同じ、しかもシンノスケが損壊したドッキングステーションへの誘導だ。
「これはあの時の修繕費を払えってことなのか?」
不安になるシンノスケ。
「マスター、今までなんの請求もなかったのですからそのような筈はありません」
マークスの意見が申し向けるが、シンノスケの不安は払拭されない。
「コロニーの連絡通路の修繕費ってどれくらい掛かるんだ・・・」
「シンノスケさん、大丈夫です」
シンノスケの言葉をセイラが遮る。
「えっ?」
「港湾管理センターの担当者の冗談だそうです。いえ、誘導されたドッキングステーションに間違いはありませんが、担当者がわざと誘導したようで『今度は通路を壊さずに接舷してください』とのことです」
結局、シンノスケが勝手に肝を冷やしただけの、港湾管理センターの冗談交じりの歓迎だった。
「なんだよ・・・脅かさないでくれよ」
ようやく安心するシンノスケ。
こうしてフブキとツキカゲは無事にドッキングステーションに接舷し、6325恒星連合国に到着したのである。
入港したシンノスケは早速マークスとミリーナを伴って自由商船組合に赴いた。
運んできたメタルNo.35の買い手を探すためだ。
しかし、そんなシンノスケを待っていたのは厳しい現実だった。
「ちょっと待て、嘘だろう・・・」
シンノスケは組合で公開されている金属取引の相場を見て愕然とした。
「これは、珍しいですね」
マークスも相場表を見て首を傾げている。
取引価格が安定していてリスクが少ない筈のNo.35の価値が下落しているのだ。
元々が取引価格の上下幅が少ない金属なので、下落しているといっても大きなものではないが、仕入れてきた量が多いため、損害額がばかにならない。
加えて6325恒星連合国まで運んできた諸経費を差し引くと損害はさらに大きくなり、完全に赤字である。
実際には船団護衛の報酬があるから総合的にみれば僅かに黒字だが、貿易だけでみれば大赤字であり、今回の貿易は明らかに失敗になってしまう。
組合の担当者に確認したところ、2週間程前から一般的な金属の取引価格の下落が始まり、ここ1週間は下げ止まりの状況で、回復の兆候もみられないということだ。
「いくらなんでもタイミングが悪すぎだ」
シンノスケは腕組みし、どうしたものかと考え込む。
赤字覚悟で売り捌いてしまうか、ダムラ星団公国に運んでそちらでの販路を模索するか、このまま持ち帰るか。
因みに、6325恒星連合国にあまり長く滞在することは出来ないので相場が回復するのを待つという選択肢はない。
「周辺国の取引相場を見てもあまり変わりはありませんわね。ダムラ星団公国での取引相場の方が少しはマシといったところでしょうか?公国で取引すれば、僅かに黒字になりますわね。ただ、公国での相場がこのまま下がらなければ、のお話ですが」
ミリーナが周辺国での取引相場を調べてくれたが、ダムラ星団公国に運んても旨味のない取引だ。
このままではどう考えても今回のNo.35の取引の成功はあり得ない。
シンノスケは決断した。
損害を被っても当初の目的に従い6325恒星連合国での新たな販路を確立することにする。
組合で事情を説明し、取引先の紹介を依頼したところ、組合から2つの取引先を紹介された。
1つはM12公社。
連合政府用の各種金属の仕入れを目的として設立されている公社で、規模の大小を問わず、国外の商会や商人と幅広く取引をしている。
そしてもう1つはケレンズ32商会。
設立間もない中小企業で、積極的に他国との取引を行っている将来性のある企業だ。
結局シンノスケはM12公社とケレンズ32商会の両方と取引をすることにし、損害を出しつつも両社共に今後の取引の道を繋ぐことが出来、当初の目的である新たな販路を確立することには成功した。
「まあ、当初の目的は達成したし、今回の貿易も成功したとしよう」
6325 恒星連合国での貿易の結果を総括するシンノスケだが、マークスの評価は甘くない。
「マスター、今回の貿易は失敗です。強がりを言っていないで、その現実を受け入れてください。確かに取引価格の下落は予想外でしたが、それも含めて貿易の結果です」
マークスに容赦なく現実を突きつけられ、シンノスケは商取引の厳しさを思い知らされることになった。




