猛攻を潜り抜け
『シンノスケ!これ、ちょっとマズい状況じゃない?』
小惑星帯での宇宙海賊の襲撃を退けた船団だが、6325恒星連合国を目前にして新たな脅威に曝されていた。
4隻の不審船から追撃を受けているのだ。
「ファイア・ダガー級駆逐艦4」
マークスが追撃してくる艦種を特定する。
すでに退役している旧型だがリムリア銀河帝国宇宙軍の正規艦だ。
「あれは宇宙海賊じゃない。帝国のゴースト・ユニットだ。各艦気を付けてください!」
護衛艦隊の指揮を執るシンノスケ。
帝国の非正規部隊ゴースト・ユニットとは何かと縁があるようだ。
殿を守るツキカゲが集中攻撃を受けているが、進路前方での待ち伏せの可能性を考えるとA884とジャベリンを下げるわけにはいかない。
同じ理由でフブキを後退させるわけにもいかないが、ツキカゲ1隻では荷が重い。
シンノスケはフブキを回頭させ、後方の敵船に対して正面火力をもってツキカゲを援護することにした。
「敵艦を狙撃する。ミリーナ、20秒だけ操艦を代わってくれ。このまま後退してくれればいい」
「了解しましたわ。回避行動は行ってもよろしくて?」
「照準はこっちで修正するからミリーナの判断で構わない。ユー・ハブ・コントロール」
「アイ・ハブ・コントロール」
シンノスケは操舵ハンドルから手を離すと精密砲撃用のモニターを覗き込む。
狙いは船団を追撃してくる4隻のうち、最後尾にいる艦だ。
敵の砲撃を躱す機動に合わせて狙いを微調整しながらマニュアルで照準をつける。
マニュアル照準は自動のレーダー照準と違い、砲撃前に敵艦に気取られることはないものの、命中させること自体が難しく、高度な技術を要するのだが、長距離砲撃はシンノスケの得意とするところだ。
「・・・丁度いい陣形だな。連続砲撃で2隻を仕留める。5・4・3・」
「進路固定!シンノスケ様、どうぞ!」
「1・マーク!」
ミリーナとシンノスケの抜群のコンビネーション。
フブキの主砲が敵船の最後尾にいた駆逐艦を貫く。
一撃必中、撃沈だ。
「続けて先頭の艦・2・1・マーク!」
続けて放たれた主砲が先頭の艦の艦首から左舷側を抉り取った。
撃沈には至らないが、大破し航行不能に陥らせる。
『流石、シンノスケさん!こちらもいきます!』
敵艦の攻撃に曝されていたツキカゲだが、フブキの攻撃を受けて2隻を失い、ほんの一瞬だけ敵艦の足が鈍ったのを見逃さない。
対艦ミサイルを発射してさらに1隻を撃沈する。
「シンノスケさん、進路前方に新たな反応2!」
「艦形照合、アクア・アロー級巡航1、メビウス級巡航艦1」
セイラとマークスの報告を受けたシンノスケはミリーナから艦の操縦を取り戻すとフブキを回頭させる。
「メビウス級だと艦載機を搭載している可能性がある。アンディ、後方の残り1隻の駆逐艦は任せるぞ」
『了解!』
シンノスケはフブキを加速させ、船団の前方に出た。
「メビウス級敵艦から新たな反応。数5、ミサイルではありません。艦載機と推定します」
セイラは新たな反応のデータを船団各船に送信する。
「A884下がれ!密集隊形、対空弾幕を張り艦載機を接近させないように!マークス、対空防御の指揮を任せる」
「了解しました」
フブキを統制艦とし、護衛艦、貨物船が一体となったデータリンクを確立し、マークスにその指揮を任せてシンノスケは船団全体の総合的な指揮を担う。
「A884とジャベリンは対空防御をしつつ、敵艦への攻撃は任意に行ってください」
『了解したわ!レグ、私はアクア・アローをいただくわよ!』
『了解。こちらはメビウス級を引き受ける』
『シンノスケ、巡航艦は私達が仕留めるから横取りなんかしないでよ!』
「了解しました。フブキは戦闘艇の対処に専念します」
A884とジャベリンは戦闘艇に向けて対空機銃を放ちつつ、前方の巡航艦に向けて攻撃を開始する。
飛来する戦闘艇5機は他の敵艦同様に帝国宇宙軍の第一線を退いているキラー・ビー型戦闘艇。
高速、高機動を誇るが固定武装のレーザー機銃2門しか装備していない軽戦闘艇だ。
「旧式とはいえ、高性能だが・・・運用方法に問題ありだ。特殊任務を請け負うとはいえ、存在が公にできないゴースト・ユニットの辛いところだな」
キラー・ビー型戦闘艇はレーザー機銃の射程と威力が限定的であるため、民間の貨物船でも相当接近しないと致命傷を与えることができない。
元々が艦隊防御や制空戦闘が目的の軽戦闘艇で、対艦攻撃に使われるような機体ではないのだ。
現に船団を密集し、護衛艦のみならず貨物船の自衛用機銃までリンクさせた対空弾幕に阻まれて船団に肉薄することが出来ずにいる。
「対空戦闘継続中。戦闘艇1機を撃墜。方位4から3、船団の直下に潜り込もうとする2機を貨物船各船の対空機銃で牽制。方位11の1機はガトリング砲で対応」
マークスの指揮の下、対空戦闘は有利に運んでいるが、油断は出来ない。
一度でも肉薄されると今度は同士討ちの危険性があり、形勢が逆転してしまうおそれがあるのだ。
しかし、勝敗が決したのは次の瞬間だった。
『こちらジャベリン、メビウス級を撃沈した』
レグのジャベリンが対艦ミサイルでメビウス級巡航艦を撃沈したのだ。
船団に襲い掛かっている戦闘艇は帰還すべき母艦を失ったのである。




