リムリア銀河帝国皇帝
リムリア銀河帝国皇帝ウィリアム・アル・リムリアは先代皇帝の実子であり、2人の兄、姉がいる末子で本来の帝位継承権は長兄、次兄に次ぐ3位だった。
しかし、先代皇帝が急死し、その後の帝位継承争いの中で帝位継承権者の不審死が相次いだ混乱の中で帝位継承権第1位の長兄エルラン・アル・リムリアを退けて帝国皇帝に即位して玉座に着いた22歳の若い皇帝だ。
そんなウィリアムは本日の執務を終えて自室で夕食を摂っていた。
同席しているのは姉のエザリア・リムリア、かつては帝位継承権を有していたが、前皇帝崩御に伴い真っ先にウィリアムを次期皇帝に推挙し、自らは帝位継承権を放棄した次姉だ。
室内には給仕もおらず、2人の前に並ぶ食事も極めて質素なもので、とてもではないが、皇帝やその姉が食するようなメニューには見えない。
一般大衆がほんの少しだけ贅沢をする時のメニューのようだ。
「兄上も存外だらしない。正規軍4個艦隊に自分の私兵艦隊まで投入して未だに公国を陥とせないとは・・・。父上が亡くなられた時に真っ先に私に恭順する姿勢を見せたから他の者達のように不幸な目に遭わずに済んだのに・・・」
執務中にダムラ星団公国侵攻の報告を受けてからウィリアムの機嫌が悪い。
独り言のように兄への不満を呟いている。
無論、臣下の前でそのような態度は見せないし、臣下を責めるようなこともない。
「あれは自分が思っている程の能力を持っていませんわ。貴方・・失礼、陛下のように頂点に立つ者の器ではありません」
「姉様、2人でいる時は陛下なんて呼び方は止めてください。不幸なことが続いて私にはもう兄上と姉様しかいないのですから」
「まあ、なんて懐の深いこと。そんな弟を持てたことを私は誇りに思いますよ。そう、帝国皇帝の姉ということではなく、ウィリアムの姉ということが私は誇らしいですわ」
まるで母親のように慈愛に満ちた目でウィリアムを見るエザリア。
そんな視線を気恥ずかしく感じたウィリアムは視線を逸らしながら話題を戻す。
「しかし、兄上から更に1個艦隊の増援を求められましたが、私はこれに応じるわけにはいかないと考えています。公国を攻めるに当たり、兄上には正規軍4個艦隊の出動を認めましたが、これ以上の正規軍投入は国内治安の維持にも影響が出ます。それに、何より宇宙艦隊司令長官の兄上にこれ以上の戦力投入を認めることに不安を感じます。兄上が私の目の届かないところで膨大な戦力を自由に運用することが不安なのです。なんとも気弱なもので、そんな自分が情けない」
臣下や国民の前では見せないウィリアムの姿にエザリアは優しく微笑みかける。
「貴方のそれは気弱ではなく、慎重というのです。その慎重さこそが皇帝に必要な資質なのですよ。・・・でも、エルランの要請も無視できませんね。エルランは皇帝の器は無くとも、戦略家としては堅実な能力を持っています。そのエルランがあと1個艦隊必要だというならばそのとおりなのでしょう。でも、貴方が懸念しているとおり、これ以上エルランに正規艦隊を与えるのは少し心配ですね。・・・それでしたら、私がホワイト・ローズを率いてエルランの支援に向かいましょう」
「姉様の白薔薇艦隊をですか?しかも、姉様が直接指揮して?止めてください、危険すぎます。私の側を離れないでください」
思わず立ち上がるウィリアムの気持ちを優しい笑顔で受け止めるエザリア。
「大丈夫ですよ。エルランの監視を兼ねて私が直接向かう必要がありますが、直ぐに帰ってきます。それに、私が預かっているもう1つの艦隊は貴方の下に残しておきます」
「黒薔薇艦隊をですか?」
「ええ、長く指揮官不在の艦隊ですが、ウィリアムに預けますわ。まあ、近い内にあのバカな妹を連れ戻して指揮官の座に就かせます。そうすれば貴方の力は更に増すことでしょう。それに、国内には近衛艦隊を含めて主力艦隊が8個艦隊残っています。分艦隊や機能艦隊を含めれば貴方の総兵力は15個艦隊にものぼります。だから貴方は何も心配しないで公務に専念していなさい」
そう言って食事を済ませたエザリアは出立の準備のために立ち上がった。
「姉様、本当に気をつけて」
「分かっていますよ」
そう言い残してウィリアムの私室を出てゆくエザリア。
翌日には自らの私兵艦隊である白薔薇艦隊を率いてエルランの支援と監視のため、ダムラ星団公国に向けて出撃していった。




