タスクリア人のレグ
6325恒星連合国へと出発する日を迎えた。
出航したフブキとツキカゲが合流予定宙域に向かうその途中、ちょうど同じように予定宙域に向かう途中だったラングルド商会の船団と合流したのだが、船団の中の船を見たセイラが声をあげる。
「あっ、シンノスケさん、貨物船オリオンですよ」
船団の司令船を担うのはラングルド商会の中型貨物船オリオン。
セイラがシンノスケの下に来て初めての仕事で護衛し、その後にも護衛したことがある船だ。
『オリオンから護衛艦フブキ。船団の護衛任務よろしくお願いします』
オリオンからの通信にセイラが返答する。
「こちらフブキ。こちらこそよろしくお願いします」
『その声は以前護衛艦ケルベロスで護衛してくれた際の通信士さんですね。お久しぶりです、今回もよろしくお願いします』
オリオンからの思わぬ返信にセイラはシンノスケの方に振り返りながら嬉しそうな表情を見せた。
そんなセイラに頷いて答えるシンノスケ。
早めの合流となったが、フブキと船団は予定の合流宙域へと向かった。
合流宙域には既にアイラのA884フリゲートともう1隻の護衛艦が到着していた。
「なんなんですのあの護衛艦は」
「あの・・・なんか古いというか・・・あっ、すみません、人の船に」
待機していた護衛艦を見たミリーナとセイラが思わず声を漏らす。
他人の船を悪く言わないのは船乗りとしての最低限の礼儀だが、そんな2人の言葉を聞いてシンノスケも苦笑する。
事実、アイラのA884と一緒に待機していたのは旧式艦どころか、老朽艦というような護衛艦だ。
船体各所に補修の痕跡があり、補修の上から塗装もしていないのでそれが非常に目立つ。
10人が見れば8人は『ボロ船』という表現が頭に浮かぶだろうし、仮に漫画やアニメで表現するならば宇宙空間なのに煙を噴きながら『ポンスカ・ポンスカ』とか『ガタピシ・ガタピシ』という擬音が当てられそうな船だ。
だからミリーナとセイラが思わず口に出してしまっても仕方ない。
相手に直接言わなければいいのである。
「まあ、気を付ければいいさ。しかし、随分と珍しい船だな」
そんなことを言うシンノスケだが、その目は真剣だ。
「シンノスケ様、あの船をご存知ですの?」
「ああ、D-21Fファランクス型フリゲート。2世代も前のフリゲート艦で、俺も直接見るのは初めてだ。あれを護衛艦として使用している船乗りがいたんだな」
D-21Fファランクス型フリゲート。
ダムラ星団公国宇宙軍で艦隊護衛のために開発、実戦投入されていたフリゲート艦だ。
船体各所にミサイルランチャーやミサイル・セルを装備し、大小あらゆるミサイルを200発も搭載している反面、その他の武装は速射砲1門と対空機銃が3機と、ミサイル戦に特化したフリゲート艦だが、大量のミサイルで艦隊に迫る敵を迎え撃つその艦隊防衛能力は凄まじいものの、一方で1隻沈められるだけで大量のミサイルが損なわれるという欠点と、艦砲とミサイル搭載能力のバランスが取れた次世代艦の出現により後継艦が開発されなかった不遇艦でもある。
全ての同型艦が退役して数十年、シンノスケも士官学校の兵器開発史の授業で学んだ知識しかない程の艦だ。
『こちらD-21Fファランクス型フリゲート『ジャベリン』の艦長レグ。護衛艦フブキ、ツキカゲ、よろしくお願いします』
抑揚も強弱もない口調で話すジャベリン艦長のレグは体色がグレーで瞳の無い大きな目を持つタスクリア人の男性で、ジャベリンには他にタスクリア人の女性の乗組員が2名乗艦しているそうだ。
因みに、タスクリア人の男性は頭髪も無く、非常に無機質な印象だが、女性の方はというと、体色や目の特徴は男性と同じだが、白く長い頭髪を有し、体型も一般的な人類の女性に似た体型をしており、身長も女性の方が高い。
タスクリア人の歴史を遡れば、タスクリア人は元々外観的な男女の区別なく、遺伝子上の違いがあるだけだった。
そんなタスクリア人だが、長い歴史の中において他の種族と交流する上でコミュニケーションを円滑にするべく、多種族から見ても男女の違いが一目で分かるように女性のみが進化、というか自分達の身体を造り変え、現在のタスクリア人としての種が固定されたという経緯を持っている。
因みに、その女性の進化については、遥か昔、タスクリア人がまだ初期型の円盤型の宇宙船で銀河を旅していた頃に初めて接触したある惑星の他種族の影響が特に大きいらしい。
そんなタスクリア人のレグの護衛艦ジャベリンは老朽艦で外観的にはボロボロなのだが、その性能は現行艦に引けを取らない戦闘力を有している。
船体は古く、速射砲等は旧式のものだ。
しかし、元々が速度も機動力もある船で、主な武装はミサイル発射装置に過ぎないミサイルランチャーであり、実装されているミサイルは最新のものだ。
しかも、レグのジャベリンはミサイルランチャーを増設してあり、標準型のファランクス型フリゲートに比べて搭載しているミサイルの数が100発程多い。
威力が弱い小型ミサイルが主とはいえミサイル300発とはちょっとしたミサイル基地並の火力だ。
尤も、そのミサイルを撃ち尽くしてしまうと、ほぼ丸腰になってしまうのだが、そもそも1回の護衛任務でミサイルを300発も使うことはほぼあり得ないので自由商人の護衛艦としては全く問題ないのである。
欠点といえば、主武装がミサイルということで、艦のエネルギーを使うビーム砲等に比べるとコスト高だが、それでもレグはこのジャベリンを駆ってトップランカーにまで登り詰めたのだ。
外観の補修の痕跡や塗装に気を配らないのも外面を気にせず、実にしか拘らないタスクリア人らしい。
「一緒に仕事をするのは初めてですね。護衛艦フブキの艦長シンノスケ・カシムラです。よろしくお願いします」
『カシムラ艦長の実績は組合のデータで把握しています。今回の仕事もそんなカシムラ艦長のデータを得られるということで期待しています』
無感情なレグの口調で言われても、どうにも釈然としない気持ちが湧いてくる。
まるでマークスと話しているようだ。
「了解しました。因みに私のことはカシムラ艦長なんて堅苦しい呼び方でなく、シンノスケで結構ですよ」
『私は特に堅苦しさを感じませんが、コミュニケーションを円滑にするためですね。了解しました、カシムラ』
「・・・」
思わず総合オペレーター席に座るマークスの背中を見るシンノスケ。
「マスター、こっちを見ないでください」
やっぱり釈然としない。
タスクリア人の会話の表現ですが、イメージ的には「ワレワレハウチュウジンダ」的にカナカナ表記が妥当なのですが、読み辛いので通常の表記でお送りします。
 




