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救助完了

 遭難船ブルー・ドルフィンの救難活動はブルー・ドルフィンのクルーの協力や乗客達の冷静な行動により想定時間よりも早く完了した。


「救助完了。セイラ、周辺を航行する艦船はいるか?」

「付近を航行する船はいませんし、救助が向かっている兆候もありません」


 リムリアの軍艦か沿岸警備隊あたりが遭難信号を受信して救助に来てくれることを期待したが、その様子はない。

 航路情報によればこの宙域からリムリア銀河帝国領に通じる航路は各所で通信障害が起きる危険宙域だ。

 フブキが遭難信号をキャッチしたのも奇跡に近いのだから、このまま待っていても無駄に食料等を消費するだけで、救助が来るのは望みは薄いだろう。


「仕方ない、予定通りリムリアに向かおう」


 シンノスケはブルー・ドルフィンに位置特定と救助済を示すマーカーを打ち込むとフブキを回頭させた。


「じゃあ、ちょっとリムリアに行って救助した人達を引き渡してくるから、アンディは先に戻って組合に報告しておいてくれ」

『了解しました。気をつけて行ってきてください』


 現在位置からリムリア銀河帝国領までは約1週間、早ければ10日以内には救助した人々を引き渡せるだろう。


 リムリア銀河帝国に向けて出発して約1時間、シンノスケは操縦席から立ち上がった。 


「ミリーナ、ちょっとの間、操縦を代わってもらえるか?」

「どうしましたの?」


 首を傾げるミリーナ。


「とりあえずブルー・ドルフィンの船長に挨拶ついでに他の人達にも声を掛けてこようと思ってな。遭難して不安だったところにようやく到着した救助が他国の護衛艦。挙げ句に避難誘導したのは武装したドール2人だ。艦長の俺が声を掛けておく必要があるだろう」

「でしたら私も一緒に行きますわ。リムリア人の私が一緒ならば、なお効果的ですわ。アリシア姉様にもご挨拶したいですし」


 そうは言ってもミリーナは亡命した身で、いわば帝国を捨てたようなものなのだから皆が好意的に受け入れるとは思えない。

 そう考えたシンノスケだが、ミリーナの言うことにも一理ある。


「・・・まあいいか。一応こちらは救助した側だ。クルーの出自に文句を言われる筋合いはないしな」


 シンノスケは警戒に当たっていたマークスをブリッジに呼び戻すとフブキの操縦を任せ、ミリーナを伴って貨物室に向かった。


 救助したブルー・ドルフィンの人々を収容している貨物室の出入口では武装したマデリアが警戒に当たっている。

 要救助者を閉じ込めておくというものではないが、100人以上の者を好き勝手に艦内を歩き回らせるわけにもいかないので保安上必要な措置だ。


 そんな貨物室に入ろうとしたシンノスケだが、ふと傍らを見るとミリーナが額の目を開いている。

 シンノスケの眼差しに気づいたミリーナはシンノスケを見上げると無言でニッコリと微笑んだ。


(あっ、なるほど。そういうことか。怖いことを考えるなぁ)


 ミリーナの思惑に気付いたシンノスケは苦笑しながらミリーナとマデリアを連れて貨物室に足を踏み入れた。


 シンノスケ達が貨物室に入るとマデリアが事前に伝えていたのか、ブルー・ドルフィンの船長と副長が並んで待機しており、シンノスケに対して敬礼する。


「この度は救助していただきまして本当にありがとうございます。おかげで乗員乗客誰一人として犠牲にならずに済みました」


 謝辞を述べる船長に対して答礼するシンノスケ。


「船乗りとしての義務を果たしただけですよ」

 

 そう言うとシンノスケはその様子を遠巻きに見ている他の人々を見た。


「護衛艦フブキの艦長のカシムラです。皆さんにはまだ不安があるでしょうが、ご安心ください。私が責任を持って皆さんを無事にリムリア銀河帝国までお送りします」


 シンノスケが声を掛けるも皆の表情は優れない。

 恐怖という程ではないものの、困惑しているようだが、それも仕方のないことだ。

 黒い艦長服に強面のシンノスケの背後に控えているのは武装したドールのマデリアと額の目を開いたミリーナ。

 マデリアは外観的に過積載気味の上、その能力も外観に負けていないのだが、それよりも怖いのはミリーナだ。

 覚醒者であるミリーナが額の目を開いてにこやかな表情で皆を見渡している。

 『余計なことを考えていても全てお見通しですわよ』というわけだ。


 そんなミリーナの威嚇効果は抜群で、救助された乗客達はミリーナのことを見ようともしない。


「・・・おいミリーナ、少し効果が効きすぎじゃないか?」

  

 耳打ちするシンノスケにもミリーナはどこ吹く風だ。


「結構ではありませんの。まあ、ざっと見たところ物騒なことを考えている方はいませんけど、このまま大人しくしていていただければスムーズにことが進みますわ」


 飄々と話すミリーナ。

 堂々と胸を張り、他人の視線など意に介さないその様子は全くもってミリーナらしい。


 そのように多くの人々がミリーナから目を逸らす中、1人の女性が立ち上がった。


「ミリーナ、久しぶりね。元気にしていましたか?」


 シンプルながら高級そうなドレスに腰にサーベルを下げたその女性を見たミリーナの表情がパッと明るくなる。


「アリシア姉様。ご無事で何よりでしたわ」

  

 どうやら彼女が件の貴族の女性、アリシア・エストネイヤのようだ。


 アリシアはシンノスケの正面でありながら、腰のサーベルの間合いの外側の位置にまで歩み寄るとドレスの裾を摘み、シンノスケに対してカーテシーを披露する。


「お初にお目にかかります、カシムラ様。私はアリシア・エストネイヤ。帝国貴族、エストネイヤ伯爵家の長女でございます」

  

 そう言って悪戯っぽい目でシンノスケを見るアリシアだが、その額には第3の目は開かれていなかった。

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