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ポルークス侯国へ

 出航準備も整い、ポルークス侯国へと出発の日、リナがシンノスケのドックに姿を見せた。

 勤務中だが、時間休を取得してくるという徹底ぶりだ。


「すみません、私の我儘でシンノスケさんに変な思いをさせてしまいました。すみません、ご迷惑をおかけしました」


 他のクルーが出航準備を進める中(セイラとミリーナは気になって仕方ない様子だが)、リナはシンノスケに対して深々と頭を下げる。


「いや、リナさんが謝るようなことは何もありません。何も気にしないでください」


 恐縮するシンノスケに頭を上げたリナはニッコリと笑みを見せた。

 いつものリナの笑顔だ。


「そう言われてしまうとちょっと残念な気もしますが・・・。すみません、シンノスケさんが出発する前に謝っておきたかったんです。シンノスケさんは『気にしていない』みたいですけど、私の気持ちの問題ですし、後悔はしたくありませんからね」


 そう言うとリナは1枚のカードをシンノスケに差し出した。


「これは?」

「持っていてください」


 渡されたのはフォトカード。

 何の変哲もない金属製のカードのように見えるが、その表面に写真や動画を表示できるものだ。

 1枚で膨大な写真や動画を保存できるカードだが、渡されたカードには2枚の写真データのみが保存されている。

 組合の制服姿と私服のリナの写真。


「ちょっと恥ずかしいんですけど、私はシンノスケさんと一緒に行けませんから、せめて写真だけでも・・・お守りみたいなものです。頑丈だから万が一シンノスケさんが撃たれたりした時にも・・・」

「いやいやリナさん、それはちょっと・・・」


 物騒な例えを口にするリナだが、胸にしまったお守りに命を救われるなんてアクネリア軍非公式軍規に抵触する可能性が高い。

 とはいえ、せっかくのリナの気持ちだ。

 受け取らないという選択肢はないので、カードを受け取ったシンノスケは敢えて右胸の内ポケットに大切にカードを入れた。


 そんな2人の様子をブリッジのモニターで監視していたセイラとミリーナ。


「なんてことですの!写真とはいえシンノスケ様に抱かれるなんて、由々しき、いえ危機的事態ですわ!」


 ピリピリと帯電するミリーナに対してセイラは冷静だ。


「大丈夫ですよ。出航してしまえば利は私にあります。写真の1枚や2枚、どうってことないですよ」


 何やら余裕が垣間見るセイラにミリーナも落ち着きを取り戻す。


「そうですわね。出航してしまえば私・・・?私、ではなく私達ではありませんの?」


 セイラを見るミリーナにセイラはニッコリと微笑んだ。


「私、ですよミリーナさん。同じ船に乗るクルー同士ですが、それとこれとは別ですから」


 ミリーナも顔をひきつらせながら笑みを浮かべる。


「随分と自信があるようですわね。セラ、貴女も強くなったんじゃありませんの?」

「はい。私も一端の船乗りですから。それに、ミリーナさんより私の方がシンノスケさんとの付き合いは長いんですよ」

「フンッ、そんなアドバンテージは直ぐにひっくり返してさしあげますわ」


 セイラとミリーナはバチバチと火花を散らす。


 セイラとミリーナの間に燃え上がる炎などつゆ知らず、また、命を狙われているだけでない、シンノスケの気持ちを狙う包囲網が完成しつつあることに未だ気付いていないシンノスケは呑気にリナと出発の挨拶を交わしていた。

 

「それでは行ってきます」

「はい。気をつけて行ってきてください」


 リナに見送られてフブキとツキカゲは出航する。

 目指すはポルークス侯国だ。

 


 ポルークス侯国はダムラ星団公国の更に先にある小国であり、未だリムリア銀河帝国との戦争状態にある公国を通過する必要があるかと思えば、必ずしもその必要はない。

 公国を飛び越えてポルークス侯国の手前の国際宙域に跳ぶ空間跳躍ポイントがあるからだ。


「今回は空間跳躍で公国領を飛び越えるが、戦闘領域でもある国際宙域を通過する。極力危険は避けて行くが、戦闘に巻き込まれる可能性もあるから警戒を厳にして進もう」

 

 艦長席で合成フルーツ茶を片手に指示をするシンノスケ。

 フブキの舵を取っているのは資格を取得したばかりのミリーナだが、フブキの操縦ならば慣れたものだ。

 ミリーナが資格を取ったのでフブキを操縦出来るのはシンノスケとマークスとミリーナの3名。

 マデリアの配置によりツキカゲの操縦はアンディとマデリアの2名が受け持つ。

 シンノスケの商会も人員的に余裕が出てきて仕事の幅も広がりつつあった。


 出航から数週間、フブキとツキカゲはいよいよダムラ星団公国の手前の空間跳躍ポイントに到達した。


「よし、空間跳躍に入るぞ」


 フブキの舵を取るのはシンノスケだ。


「はい、座標計算完了。跳躍先の座標を固定しました。いつでもどうぞ」

『ツキカゲです。こちらの準備も完了しています』


 セイラとアンディの報告を受けたシンノスケは頷くとスロットルレバーを押し込んでフブキを加速させた。

 僅かに遅れてツキカゲも後に続く。


「跳躍突入速度に到達。跳躍ポイント接近、カウントダウン。5、4、3、2・・・ワー」

      『ツキカゲ、続きます!ワープ!』


 フブキとツキカゲは空間跳躍に入った。


 空間跳躍を脱すれば目的地のポルークス侯国は目の前だ。

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[一言] 久しぶりのワープキャンセル!
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