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ラングリット准将

 アクネリア銀河連邦サリウス恒星州中央コロニーに所在する宇宙軍第2艦隊司令部。

 その敷地内の一角にある第2艦隊補給部の一室、補給部長室の主であるラングリット准将は部下である中佐からの報告を無表情で聞いていた。


「補給物資の不正流用につきましては憲兵部の捜査が終了しました」


 報告を受けたラングリット准将は静かに頷く。


「消耗品の不正備蓄に転売。随分と巧妙に行われていたようだな。情報部でも情報を掴んでいたようだが、我々の内部調査の方が早くて助かった。情報部に先んじて艦隊司令部に報告することができた」

「しかし、情報部もこんな内部のことを探っていないで、他にすべき事があると思いますが」

「そう言うな。情報部の彼等にも様々な任務があるのだ。事実、彼等の掴んでいた情報は真実だったわけだ。情報部も優秀で頼りになるではないか。・・・ところで、今回の不始末の処分者の数は?」

「5人です。第8無人補給基地の管理責任者の中尉が主犯、その部下の下士官3人が共犯として憲兵隊に逮捕されました。更に彼等の上官である統括責任者の少佐ですが、犯行には加担していませんでしたが管理責任を問われて降格と減給処分です」


 ラングリットは渡された処分者のリストに目を通す。


「少人数での犯行、巧妙ながら地味な犯行が発覚の遅れの原因か」

「そうですね。1回の流用の規模は小規模ですが、件数が多く・・・塵も積もれば、ということでした」

「流用した物資は?」

「全て食料品や消耗品でしたが、裏ルートでレアメタルや宝飾品等に交換されていました。かなりの量が押収されましたが、それでも流用した物資の量に比べるとかなり少ないですね。裏ルートということで足元を見られたのでしょう」

「そちらのルートは追えたのか?」


 ラングリットの問いに中佐は首を振る。

 ラングリットは頷いた。


「1回の規模は少くとも流用が出来た管理体制が問題だ。今後は管理を徹底しろ」

「了解しました!」

「それから、司令部に対して処分者をもう1名追加上申だ。本件は管理部長の私にも責任がある。私も1年間の減給だ」

「准将、いくらなんでも准将自らが責任を取るようなことでは・・・」

「いいからそうしたまえ。組織が人により運用されている以上は内部の腐敗は避けて通れない。我々はその現実から目を逸らすことは出来ないし、責任者は責任を取るのが役割だ。但し、私を含めた6名以外には累が及ばないように!」

「りょ、了解しました!」


 部下を退室させたラングリット准将は机の上に置かれたコーヒーを一口啜る。

 部下からの報告が長かったので、すっかり冷めてしまっているが、このコーヒーも軍の物資だ。

 補給部長として無駄にするわけにはいかない。


「・・・役立たず共め。まあいい、不要になったら廃棄して入れ替えるだけだ」


 ラングリット准将は1人吐き捨てるように呟いた。



 フブキとマークスの修理も完了し、フブキ、ツキカゲ共に徐々に通常業務へと戻りつつある。

 シンノスケ身辺に対する危機は未だ完全には払拭されていないが、クルーズ少佐の言ったとおりベルベットを逮捕したことにより今のところは平穏を取り戻しつつあるため、シンノスケ達も様子見をしながら仕事に励むことにしたのだ。


 そんなある日、何か仕事を見繕おうと組合に顔を出したシンノスケはある依頼に目をつけた。


「ポルークス侯国への運送業務か。荷物は採掘用の重機8台、総重量は400トン。報酬は高くはないが、まあ割のいい仕事だけど、やはり侯国への航路が問題か」


 ポルークス侯国はダムラ星団公国の更に先、公国とリムリア銀河帝国に隣接している小国だ。

 保有する武力も乏しく、特段の産業も無い、リムリア銀河帝国の支援と鉱物資源の輸出で成り立っている弱小国家だ。

 リムリア銀河帝国の属国のような国だが、独立は保たれており、ダムラ星団公国をはじめとし、遠く離れたアクネリア銀河連邦との貿易等も行っている。


「でも、この採掘機械って高価なものですけど、他の国のメーカーでも作られている一般的な機械ですよね?わざわざ遠く離れたにアクネリアから運ぶのって効率が悪いと思います」


 シンノスケについてきたセイラが首を傾げる。


「それはリムリアとダムラの戦争の影響だよ。元々ポルークスは工業力が弱く、自国で軍用艦艇を建造出来ずにリムリアからの払い下げの軍艦でどうにか自衛戦力を保っている国だからな。工業機械も基本的には輸入に頼っているのが現状だ。リムリアのメーカーのこの手の機械は他国のメーカーに比べて割高だし、ダムラ星団公国からの輸入も滞っているんだろう。それに、アクネリアのメーカーの機械は他より安くて高性能だ。高い輸送費を払っても損はしないんだろうな」

「アクネリアのメーカーってサイコウジですか?」

「残念ながら別だよ。産業用重機においては他の追随を許さないケリン・ヘビーの製品だな」


 そんなことを話しながらシンノスケは考える。

 400トンの荷物ならアンディのツキカゲだけでも運ぶことは出来る。

 しかし、輸送先がポルークス侯国ということは旅客・貨物運送業務C級以上が必要だが、アンディはE級の資格しか保有していないのでアンディのツキカゲ単独でこの依頼を受けることは出来ない。


 サリウス恒星州の自由商船組合に所属する自由商人でC級以上の旅客・貨物運送業務資格を有する者はそれなりにいるが、届ける先が戦争中のダムラ星団公国の更に先となると、割が良い仕事でも引き受ける者はなかなかいないようで、依頼が出されて結構な期間が経過している。

 あと1月もしない間に依頼不受諾として処理されてしまうだろう。


 この依頼を受けるとなると旅客・貨物運送業務C級の資格を持つシンノスケが赴く必要があり、ペイロードの都合上フブキとツキカゲの2隻で行く必要がある。


「まあ、儲けは多くないが、新たな商機になるかもしれないな」


 シンノスケはポルークス侯国への運送依頼を引き受けることにした。


 シンノスケとセイラは手続きのために受付カウンターを訪れる。

 先日の一件以来リナとの関係がギクシャクしているが、今日はたまたまリナは休日のようでイリスが対応してくれた。


「はい、依頼受託の手続き完了しました。でも助かりました。この依頼、誰も引き受けてくれなくて、不受諾処理になるところだったんです。そうなると組合の信用にも関わりますからね。引き受けてくれてありがとうございます。気をつけて行ってらっしゃい」


 イリスに見送られてシンノスケ達は組合を後にした。


 荷物搬入手続きを経て出航は5日後だ。

気がついたら、エントリーしていた「123大賞4」で二次審査を通過して最終選考に残っていました。

私にしてみればとてつもない快挙ですが、それもこれもこの作品を読んでくれている皆さんのおかげです。

ありがとうございます。


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