2人の休日2
「一体なんだって急に銃が欲しいなんて思い立ったんだ?」
「あの、私も護衛艦乗りとして一人前にならなくてはいけないんです」
シンノスケの疑問にセイラは決意を持って答える。
「セラは一人前の船乗りだぞ。経験不足な点はあるが、経験というのは最初からあるわけじゃないし、これから積み重ねていくものだ。実際、俺がセラの歳の頃は士官学校の学生で、船乗りですらなかった。それに比べたら立派なもんだ」
シンノスケの言葉に首を振るセイラ。
「確かに、私は船員の資格を持ち、シンノスケさんに雇ってもらって、力量不足ですが船乗りとして働いています。でも、それじゃあ覚悟が足りないと思うんです」
「どういうことだ?」
「私、シンノスケさんの船に乗せてもらって色々なことを経験しました。怖い思いも沢山しましたけど、その経験っていうのはブリッジの中でのモニターやスピーカー越しのものばかりです。もしも、戦いの中で死んだとしても私はそれを現実のものと理解しないまま死んでしまうんじゃないかって」
「・・・」
セイラはシンノスケを見上げ、その目を見た。
「今回シンノスケさんが怪我をしたことを聞いて、護衛艦乗りってそういうこともあるんだと今更ながらに思ったんです。考えてみたらそうですよね、シンノスケさんとマークスさんが私を助けてくれた時だって、海賊に襲われていた船に乗り込んで戦っていましたし、少し考えれば分かることですよね・・・。私が銃を持ったところで一緒に戦えるはずもありませんが、せめて自分の身を守れるようにしなければいけないと思ったんです」
つまり、セイラは自衛のために銃を持ちたいということだ。
確かに、護衛艦乗りに限らず船乗りの中には自衛のために武装している者も珍しくない。
「セラの気持ちは分かったが、何故ブラスターではなく、わざわざ扱い辛い火薬式拳銃なんだ?」
シンノスケの言うことも最もだ。
旧式の火薬式拳銃は反動も強く狙った所に命中させることも難しいが、ブラスターならば反動も無く、熱線も真っ直ぐに飛ぶので扱い易い。
威力も一般的にはブラスターの方が強力で安定している。
パーソナルシールドで拡散してしまう等の欠点もあるが、実体弾の銃だって厚いシールドや重装甲のアーマー等を貫通することは出来ない。
どちらも一長一短あるが、それでも殆どの者がブラスターを選ぶし、敢えて火薬式拳銃を選ぶのは余程の変わり者だ。
シンノスケ自身、その変わり者ではあるが、現実には火薬式拳銃とブラスターの2丁を携帯している。
そんな中で火薬式拳銃が欲しいと言ったセイラは首から下げた小さな袋の中から1つの金属を取り出した。
「これ、私のお守りなんです」
「薬莢?・・・これ、俺の銃のか?」
「はい。シンノスケさんが私を助けてくれた時に拾ったんです。その時にはなんの部品なのか分からなかったんですが、今は知っています」
それはセイラがシンノスケの船に乗るきっかけとなった旅客船ギャラクシー・キャメルのブリッジの中でシンノスケが発砲した際に排出された薬莢だ。
「私が射撃を覚えたところでまともに戦えるとは思っていません。きっと、いざという時でも相手に向けて引き金を引けないと思います。それでも、そのいざという時に備えて銃を持ちたいんです。もしかしたら自分のためでなく、他の誰かのためになら引き金を引けるかもしれませんし、そうでなくともこの薬莢と同じくお守りとして持っていてもいいな、と思ったんです」
セイラにしては随分と物騒なお守りだが、セイラの気持ちは分かった。
銃を持つならば多少扱い辛くても自分が欲しいと思った物がいい、というのがシンノスケの拘りだ。
ある意味で自分の命を預ける物なのだから自分自身で選択しなければいけないし、それがセイラの選択ならばそれを尊重する。
「分かった。それならばセイラの相棒を選んでみよう」
幸いにして立ち寄った店は火薬式拳銃の在庫も豊富な店だ。
護身用として一定の威力があり、小型、軽量で、女性でも比較的扱い易い銃をリクエストしたら直ぐに10丁程の拳銃をピックアップしてくれた。
並べられた銃を手にとって見るセイラ。
自分なりに銃について勉強をしたのか『銃口を人に向けない』『射撃時以外には引き金に指をかけない』等の最低限の基本は知っているようだ。
幾つかの銃を持ってみる中、ある1丁の拳銃を持った時、セイラの表情が変わった。
セイラがまじまじと見ているのは短銃身の9ミリリボルバー『エクシーラSS9-2』。
シンノスケのラグザVX67と同じ9ミリ弾を使用する装弾数6発の回転式弾倉の拳銃だ。
「なんか・・・何と言っていいのかわかりませんが、これがいいです」
セイラが気に入ったのなら問題ない。
店にあるシューティングレンジで試し撃ちをさせてもらったところ、最初の数発はその反動に驚いて的に掠りもしなかったが、慣れてきてみるとなかなかの集弾率を見せる。
実戦で使えるかどうかは別問題だが、素質は悪くないようだ。
結局、セイラの銃は自分で選択したエクシーラSS9-2に決まり、専用ホルスターを含めてシンノスケからのプレゼントと相なった。
その後、小腹が空いたので近くのファストフード店に立ち寄り、サンドイッチとドリンク(セイラはフルーツミックスジュース、シンノスケは合成フルーツ茶が無かったのでコーヒー)で空腹を満たしてドックに帰還したのだが、セイラとシンノスケの間に何か特別なことがあったのかといえば、そんなことは何も無い。
簡潔に言えばショッピングと食事というデートだが、詳細に言えば銃器販売店で拳銃を買って、ファストフード店で食事をしただけで帰ってくるという、とてもではないが、デートとは程遠い、デートと言い張るならば落第点の内容だ。
修理を終えて戻ってきたマークスにすら
「それはデートではありません」
と言われる始末である。
とはいえ、当のセイラ自身が大満足して喜んでいるのだから2人の休日としてはまあ良かったのだろう。
因みに、後日談として、資格取得試験から戻ってきたミリーナがセイラの拳銃の件について知って盛大にヤキモチを焼き、ミリーナにも拳銃をプレゼントする羽目になった。
ミリーナが選んだのはシンノスケが持つペリルS27ブラスターと同じメーカーのシリーズでやや小型のペリルS24ブラスター。
ミリーナはある意味でブラスターよりも強力なサーベルを持っているのだが、それとこれとは別問題らしい。
「シンノスケ様から贈られたこの銃は私の身も心も護ってくださいますのよ」
ということらしいが、ミリーナの主張にはセイラも完全同意している。
シンノスケには分からないが、2人にとってはそういうものらしい。
因みに、ミリーナの試験の結果だが、全く特筆すべき点も無く、学科と面接は満点、実務も僅かな減点のみで史上初の高得点を叩き出しての文句なしの合格だった。
「こんなもの受かって当然ですわ」
そう言い切るミリーナだが、噂によると実務試験の減点も『全項目満点にするわけにはいかない』という主催者側の作為が働いたとかなんとか。
噂の真偽はともかく、ミリーナにとっては『ちょっと買い物に行く程度』どころか『道向かいの自販機にドリンクを買いに行く程度』のものだったようだ。




